温泉旅行の楽しみの一つに共同浴場巡りもあるでしょう。今回は無料または格安で複数の共同浴場巡りのできる温泉地とその特色をご紹介したいと思います。
無料・格安で利用できるが故に、通常の日帰り温泉以上にマナーに気を遣って回っていただきたいと思いますが、そのほかにも外湯巡りのポイントや気をつけたい点についてまとめておきますので、ぜひ最後までお読み下さい。
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野沢温泉(長野県)
村の共有財産である温泉を大切に守ってきたのが長野県北部の野沢温泉。ここには13もの外湯があり、大湯に薬師三尊を、残る十二の外湯それぞれに十二神将を奉っています。
野沢温泉の魅力は、土産物屋が並ぶ中心地から離れた路地などに村民が植えた花々が目を楽しませてくれたり、外湯の隣にお洗濯専門の温泉槽(洗濯湯)があったりするところ。外湯の温泉も、黒い湯の花があったり、鮮やかな緑のお湯だったりと回る楽しみを感じます。懐かしさの残る野沢温泉の温泉街
この温泉地の宿泊施設は温泉旅館だけでなく、館内に温泉を引いていない民宿も多いため、野沢温泉の宿泊者は基本的にこの十三の外湯を無料で利用することができます。日帰りでいらした方は、ぜひ各外湯に備え付けられた賽銭箱に協力金をお願いします。
野沢温泉の中心的外湯「大湯」
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渋温泉(長野県)
渋温泉九湯巡りに必要な巡浴手形(鍵)
もう一ヵ所、長野県の温泉を紹介します。渋温泉は浴衣でそぞろ歩きたくなる石畳の温泉街が魅力。特に夕暮れからぽつぽつと灯りが灯り始める時間帯は、泣きたくなるほどのノスタルジーが。
外湯は全部で9ヵ所。特色は外湯巡りを渋温泉の宿泊者限定としていること。泊まったお客さんには写真のような鍵の付いた巡浴手形が貸し出され、別途「祈願手ぬぐい」を購入して、九湯を巡りスタンプを押し、最後に温泉街の高台に建つ渋高薬師にお参りをすれば満願成就が達成されると言われています。渋温泉の中心的外湯「渋大湯」
渋温泉は今回ご紹介する温泉地の中でも、ほどよい距離に外湯がまとまっているので、全部を回っての達成感はぜひとも得ていただきたいところ。また、近隣の、安代温泉、湯田中温泉なども、渋温泉同様それぞれ宿泊すれば利用できる外湯を持つ温泉地です。
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草津温泉(群馬県)
草津温泉の湯畑
首都圏からも1泊2日で訪ねやすい距離にある群馬県の草津温泉。湯畑の周りをぐるりと歩けば、まさに温泉の持つパワーというものを強く感じることでしょう。
ここにはなんと19もの共同浴場があるのですが、観光客向けに解放されているのは湯畑からも近い白旗の湯、千代の湯、地蔵の湯の三ヵ所。なかでも湯畑に面して建ち、お湯も白濁していることから一番人気は白旗の湯です。草津温泉の共同浴場「地蔵の湯」
一方、千代の湯の建つ滝下通りは、"せがい出し梁造り"の伝統的な建物が並ぶ風情満点のエリア。地蔵の湯は名湯と名高く、湯畑から少し離れている分、穴場になっています。
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四万温泉(群馬県)
四万温泉のレトロな雰囲気の「落合通り」
草津温泉と同じ群馬県の四万温泉にも無料で利用できる共同浴場があります。四万(よんまん)の病を癒す霊泉ゆえに四万温泉と呼ばれるこの温泉地は、四万川とその支流に沿って宿が建ち並ぶ鄙びた雰囲気の湯治場でしたが、そのレトロ感や、四万ブルーと呼ばれる奥四万湖の色合いの美しさなどから、昨今では女性にも人気の温泉地となりました。
四万温泉の共同浴場「河原の湯」
共同浴場は川の上流から御夢想の湯、河原の湯、上ノ湯と3ヵ所。この他に飲泉所や足湯も点在しています。一番絵になる佇まいは日向見の御夢想の湯ですが、まるで地下のお風呂のような雰囲気の河原の湯もユニークです。
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別府温泉郷(大分県)
別府温泉のシンボル的共同浴場「竹瓦温泉」
別名をおんせん県と名乗る大分県でも、別府は群を抜いてバラエティーに富んだ楽しさでいっぱい。宿泊施設も大型旅館から貸間と呼ばれる格安の自炊宿まで。湯量も豊富で地獄めぐりのできる鉄輪温泉など、町の至る所から白い湯煙が上がっているほど。
別府温泉郷の共同浴場巡りの楽しさは、別府八湯温泉道事務局が提唱する八十八湯巡りに集約されるでしょう。別府駅案内所や別府八湯温泉道事務局で赤いスパポートを入手するかスマホ等で携帯温泉道にアクセスすれば温泉道を始められます。選ばれた約150湯のうち、各温泉の特徴が表現されたスタンプを八十八湯集めれば温泉名人に認定されます。別府温泉郷の鉄輪温泉に建つ「すじ湯温泉」
別府には100円で入浴できる共同浴場がとても沢山あり、目移りしてしまうほど。入れるのはせいぜい3、4ヵ所で、とても八十八も回れないという方も、楽しい思い出が残るのでスタンプを集めてみては。
周辺の予約制駐車場
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かみのやま温泉(山形県)
かみのやま温泉の公衆浴場「新丁鶴の湯」最寄りの「浴場前」バス停
山形新幹線も停まる「かみのやま温泉駅」から近いエリアに、5つの公衆浴場が点在する山形県のかみのやま温泉。いずれも150円で利用が可。葉山共同浴場 壽荘だけは少し離れていますが、他は徒歩で回ることもできます。
もともとは上山城の城下町として栄えた場所で、他の温泉地と比較すれば、現在は町自体にはあまり観光地らしさはありませんが、そのかわりに公衆浴場には生活感があり、路地などに迷い込めば風情のある景観も。かみのやま温泉の中心的公衆浴場「下大湯」
中心になる下大湯は圧倒されるような風格がありますので、かみのやま温泉に来たらぜひ立ち寄ってみて下さい。
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無料及び格安の外湯・共同浴場利用の際のポイント、注意点
最後に外湯・共同浴場を利用する際のポイント、気をつけていただきたい点をまとめます。
筆者はとある外湯のある温泉地で地元の方に、「観光客にとっては無料でも、地元にとっては無料じゃないんだよね」という言葉を伺い、ハッとしました。
そうなのです。温泉そのものは大地の恵みで湧き出てくるかもしれませんが、例えば湯小屋を建てる、メンテナンスをする、清掃するなど、税金でまかなう分も含めてこれらは地元の人たちに掛かってくるわけです。
ですから、無料や格安で利用できる温泉地の外湯・共同浴場を利用する場合は、マナーを守るのは当然として、その温泉地で泊まる、食事をする、買い物をするなど、地元の経済に貢献していただければ幸いです。
もう一つ、気をつけていただきたい点があります。それは無料や格安で利用できる温泉地の外湯・共同浴場は熱いお風呂がほとんどということです。適宜管理された旅館のお風呂と違って、誰も入浴していないときは人間が入れないレベルの熱いお湯になっていることも珍しくありません。
これは湯量が豊富で温度が高くなければ、とても無料や格安にできない故に宿命のようなものです。本来は地元の方のために作られたお風呂ですから、観光客としては温度を確認してからお湯を掛ける、加水する場合は注意書きがあればそれに従うなど、お願いします。
また、外湯巡りのできる昔ながらの温泉地は狭く入り組んでいることが多いです。車で来た場合は適当な場所に路上駐車することなく、必ず定められた駐車場に停めてから、町歩きして下さい。こうしたことが守られないと、格安で外湯巡りのできる温泉地は遠からず姿を消してしまいます。
「貰い湯」という言葉があります。よそのおうちのお風呂に入らせてもらうことを指します。無料または格安の外湯・共同浴場は、地元の人のいつも使う大切なお風呂をお借りしているという気持ちを忘れずに楽しんでいただければと思います。