阿豆佐味天神社 立川水天宮

五日市街道に面した大鳥居。正面奥に拝殿が見える

「猫返し神社」の名付け親は有名ジャズピアニスト

立川市砂川町の鎮守さまである阿豆佐味天神社(あずさみてんじんしゃ)の名を全国に広めたのは、ジャズピアニストの山下洋輔氏。今から30年以上前、近くの米軍ハウスに住んでいた山下さんのもとから、白猫のミオちゃんが姿を消してしまった。山下さんは愛猫を探して付近を17日間も歩きまわったが見つからず、偶然通りかかった阿豆佐味天神社で「どうかミオをお返しください」と祈ったところ、翌日ミオちゃんが無事に帰ってきた。前足が不自由なミオちゃんをとても心配していた山下さんは大喜び。その後も猫がいなくなるたびにお参りすると戻ってきたため、雑誌のエッセイで「猫返し神社」として紹介したところ反響を呼び、猫好きが次々とお参りに訪れるように。今では迷い猫を探す人だけでなく、愛猫の健康長寿を願う人々が日本各地からやってくる。

境内には山下さんが猫が戻ってきたお礼に奉納したピアノ曲『越天楽』が流れる

猫返し以外にも多くのご利益をいただける神社

手水舎で手と心を浄めたら、まず正面のご本社にお参りしよう。その右隣に鎮座するのが「猫返し神社」といわれる蚕影神社(こかげじんじゃ)。かつて近隣で盛んだった養蚕を守護するため1860年(安政7)に勧請され、蚕(かいこ)の天敵であるネズミを退治してくれる猫が守り神になっている。蚕影神社の斜め前にある猫の石像は「ただいま猫」と呼ばれ、山下さんの愛猫ミオちゃんがモデル。キラリと輝くガラスの瞳がかわいらしい。その隣には、三毛猫のイラストが描かれた絵馬がたくさん奉納されている。絵馬に書かれた願い事を一つひとつ見ていくと、猫に対する飼い主の想いがひしひしと伝わってくる。境内には安産・子授けの守り神として崇められる水天宮もあり、また蚕影神社をはじめ、厄除けの八雲神社、疫病除け・縁結びの疱瘡社(ほうそうしゃ)、招福財福の稲荷社など9つの摂社が祀られているので、それぞれに手をあわせながらお参りしよう。

「猫返し神社」として知られる、養蚕の神さまを祀る蚕影神社(写真手前)

「ただいま猫」をやさしくなでながら祈るとご利益をいただけるそう

蚕影神社の奥に祀られている水天宮。安産祈願に訪れる参拝者も多い

地域の人々に崇敬される砂川町の鎮守さま

阿豆佐味という耳慣れない名の由来は諸説あるが、「あずみ」とは「安心して生活できるよいところ」、「さ」は「とても」という意味があるそうだ。ご祭神は医薬・健康の神である少彦名命(すくなひこなのみこと)と、文学・芸術の神である天児屋根命(あめのこやねのみこと)の二柱。創建は江戸時代初期の1629年(寛永6)で、北隣の村山郷の農民たちが砂川村を開拓した際に、鎮守の阿豆佐味天神社から分霊した。当時の武蔵野地方は水が乏しく、この辺りは荒野だったが、砂川村で最初の「まいまいず井戸」が天神社の西方付近に掘られてから開拓が進んだという。砂川の鎮守として親しまれている阿豆佐味天神社では、節分や七夕、9月の大太鼓巡行、神楽など、四季折々の行事が行われ、地域の人々で賑わう。元日の午前0時から参道に立つ「多摩だるま市」も有名だ。

総ケヤキ造りの拝殿。ふだんは非公開の本殿は立川市最古の木造建築物