会津料理 鶴井筒

奥会津の造り酒屋の邸宅を移築。「鶴井筒」という店名は、その造り酒屋の酒の銘柄から取っている

飯豊山の大地主の邸宅を移築

会津料理鶴井筒の店舗は、かつて会津北方の飯豊山(いいでさん)に君臨していた大地主で造り酒屋の佐藤家の邸宅である。1897年(明治30)の竣工までに2年余りの歳月を費やし、会津では他に類を見ない大邸宅だったそう。建物に使った木材は、奥会津から只見川(ただみがわ)に筏(いかだ)を組んで運んでき+たという。時は経ち、1972年(昭和47)に、会津若松市街に近い東山温泉の「ホテル天亀」の敷地内に移築。1995年(平成7)に現在地に再移築された。建物の大きさだけに目を奪われがちだが、内部もすばらしい。ケヤキの太い梁(はり)や大黒柱、本漆塗りの裏板や緻密に造られた格子戸など、動と静が調和した空間は、いるだけで圧倒され、そして時が過ぎるのを忘れてしまう。

威厳あるたたずまいの客間

身分で分けられた3つの囲炉裏

建物はほぼ当時のままに再現されており、3つある階段の先の2階部分は跡取り夫婦や使用人の部屋として使われていたという。現在は客用個室やネパール博物館などに利用されている。もう1つ、この建物で特徴的なのは囲炉裏が3つあることだ。実は、主人用、家族用、使用人用と、使う人間ごとに分けられている。これは、当時の厳しい身分制度を反映したもので、主人用は畳敷きの客間、家族用はその下の板の間、そして使用人用は炊事場近くの土間(現在は板の間)にそれぞれ設置。当時隆盛を誇った大地主の生活ぶりがしのばれる。

奥にもう1つ使用人用の囲炉裏がある

伝統的な会津郷土料理に舌鼓

そんな大邸宅の奥座敷でいただけるのが、伝統的な会津のもてなし料理だ。会津の山間部は蕎麦の名産地。しかし、「ごっつぉ」と呼ばれるハレの日の食事では、蕎麦と餅の両方を振る舞うのが習わしだったという。同店ではそれを再現している。いちばん人気の「会津の味 丸かじりセット『祭り』」(1650円)の内容は、山菜そば、お餅、棒たら(真鱈の甘露煮)、にしんの山椒漬け、田楽、お新香。同「雪」(2200円)は「祭り」にこづゆ(会津の煮物)、同「月」(2860円)は「雪」に天ぷら盛りが付く。

「会津の味 丸かじりセット『祭り』」1650円

先代が集めたネパール、インド、チベットの骨董品

時間があれば、2階にある「ネパール博物館」にも足を運んでほしい。食事をした客は無料で見学できる。骨董好きの先代が50年かけて集めた、ネパール、インド、チベットの仏像や仏具がずらり。会津は古くから仏都として栄えており、同じく仏都のネパールとなんらかの関係があったのかもしれない。そんなことを思わせるおごそかな空間である。

年代物の仏像や仏具を展示する「ネパール博物館」を併設