喜久水酒造

指定文化財のトンネルで低温熟成された唯一無二の日本酒を試飲

1875年(明治8)の創業から6代続く喜久水酒造。酒蔵の見学、大吟醸を含む十数種類のお酒の試飲、そして登録有形文化財に指定されている廃トンネルを再利用した地下貯蔵庫に入り、日本酒の魅力を体感しよう。

登録有形文化財に指定されているトンネル貯蔵庫。最大6万本の貯蔵が可能で、現在2万本が保管されている

秋田県は「美酒王国」と呼ばれる酒処で、県内には大小の酒蔵が点在する。喜久水酒造は、沿岸北部に位置する能代(のしろ)市で唯一の酒蔵だ。酒蔵見学では、精米、蒸米(むしまい)、酒の土台となる酒母(しゅぼ)づくり、仕込みと、順を追って日本酒づくりの工程を巡る体験ができる。酒蔵が稼働する11～3月は、お酒が醸造されていく様子を目で見て香りを楽しみ、それ以外の期間は蔵の雰囲気を味わいながらじっくりと話をうかがう。米の品種や精米方法による味の違いや、酵母がアルコール醗酵を起こす過程など、日本酒ができるまでのいろはや雑学をていねいに説明してもらえる。このため、日本酒に詳しい人もそうでない人も、日本酒の魅力をより深掘りできるに違いない。見学は無料。予約は電話またはウェブサイトから受け付けており、繁忙期の11～3月は早めの予約がオススメだ。試飲をしてからトンネル貯蔵庫へ移動するので、見学時には運転手を連れて行こう。

酒造り専用の米である「酒造好適米(しゅぞうこうてきまい)」。削れば削るほど雑味が少なくなり、50％以上削ったものが大吟醸と呼ばれる

日本酒造りの要、麹は「麹室(こうじむろ)」という専用部屋で造られる。温度管理が大変難しいため、職人の目と機械を使ってしっかりと見守る

三段仕込みと呼ばれる方法で、4日間かけて仕込みを行う。タンク1基あたり一升瓶約2000本分の酒が造られる

蔵見学の醍醐味といえば、やはり試飲。ここでは、辛口ですっきりとした飲み口とフルーティな香りが特徴の純米大吟醸「朱金泥能代(しゅこんでいのしろ)」や、やわらかくトロリとした口あたりの大吟醸「俺の亀大地(おれのかめだいち)」など、1升1万円クラスのものを含む、十数種類の日本酒や焼酎を飲み比べることができる。喜久水酒造のお酒は、白神山系の伏流水を仕込み水に使い、現在は専務自らが杜氏となり、奥様を含む地元の仲間と共にていねいに造りあげる。地元・能代ではハレの日に飲まれることも多い特別なお酒。蔵で製造している約30種類の日本酒と約6種類の焼酎すべてをその場で購入できるので、試飲で気に入ったものはぜひお土産に買って帰ろう。

ズラリと並ぶ試飲用のお酒。これだけの種類を一度に飲み比べられる機会は貴重だ

総延長約100m、レンガ造りのトンネル内に最大6万本もの日本酒が眠る「地下貯蔵研究所」は、廃線となっていた旧国鉄・奥羽本線(おううほんせん)の「鶴形(つるがた)トンネル」を同社が買い取り、日本酒の貯蔵庫として再利用したものだ。秋田県内に残る鉄道単線用トンネルの中でも極めて古く、2000年(平成12)に登録有形文化財に指定されている。内部は年間を通して自然に11℃の温度を保つことができ、日本酒保存の天敵である光を完全に遮断するため、じっくりと低温熟成させるのに最適な環境だ。ドイツの廃病院の地下を利用したワイン貯蔵庫にヒントを得た現代表の平澤喜三郎氏が、トンネル周辺の山ごと買い取ったという、豪快な逸話もおもしろい。ふだんはなかなか入ることのできないトンネル内で、歴史の重みを肌で感じられるのも貴重な体験だ。

蔵からトンネル貯蔵庫までは車で20分ほど。先導してもらいながら、見学者自身の車で移動する