少林山達磨寺

お焚き上げを待つだるまに囲まれた本堂

旅行の前に寄りたいお寺といわれる理由

少林山達磨寺は、達磨大師の教えを受け継ぐ黄檗宗の寺院。開創は1697年(元禄10)で縁起だるま発祥の地ともいわれている。そのいわれはこうだ。1680年(延宝8)、碓氷川が大氾濫したあとのこと。「碓氷川のほとりに建っている観音堂に収められていた霊木で、達磨大師の像を彫るように」というお告げに従い、一了居士(いちりょうこじ)という行者が、達磨大師の坐像を彫り上げた。その話を耳にした前橋藩の5代目藩主・酒井雅楽頭忠挙(さかいうたのかみただたか)公が、厩橋(うまやばし)城(前橋城)の裏鬼門を護る寺として、元禄10年(1697)に開いたのが、ここ少林山達磨寺だ。ご本尊は達磨大師に加え、北極星と北斗七星を神格化した方位除けの守護神である「北辰鎮宅霊符尊(ほくしんちんたくれいふそん)」。方位除けとは、自分にとって良くない方位に行ったとき災いを避けるために神仏に祈ること。「旅行の前に立ち寄って、良い旅にしてほしいですね」と副住職の廣瀬一真さんは話す。方位除けの日本三大霊場としても名高い。

少林山達磨寺のなかで最も長い歴史をもつ観音堂

水戸徳川家お墨付き、達磨とも深い関わり

境内に入ると、随所で目にするのが葵の御紋と、丸印に水の徽章。開創の際、水戸光圀公のはからいで水戸から和尚を招いたことで、1726年(享保11)、水戸徳川家から三葉葵の紋と丸に水の徽章を賜い、永世の祈願所とされた。
当然ながら、だるまも多い。水屋の脇にある約60段の石段を上りきると、堂々としたたたずまいの霊符堂(れいふどう)と呼ばれる本堂がある。両脇には、お焚き上げを待つだるまがあふれんばかりに集まっている。その隣にある達磨堂の入り口には、人の背を遥かに超えるほど大きなだるま。室内には、日本全国の特徴的なだるまが並ぶ。さまざまな顔があるなか、高崎だるまの顔のきれいさは群を抜いている。最大の特徴は、顔の中にツルとカメが描かれていること。ツルは眉毛でカメは鼻から口にかけて描かれたひげだ。顔の両脇に願い事、お腹には福入りの文字が記されていることから、縁起だるまとも呼ばれる。だるまの絵付け体験も開催。30分ほどで自分だけのだるまが完成する。

三葉葵の御紋が確認できる霊符堂前

各地のだるまさんの違いを見るのが楽しい達磨堂

好きな高崎だるまを選んで願いを叶えよう

ブルーノ・タウトが愛して過ごした洗心亭

ドイツ生まれの世界的に著名な建築家、ブルーノ・タウトが少林山達磨寺にやってきたのは、1934年(昭和9)8月1日。滞在予定は当初100日間の予定であったが、結果的には2年3か月にも及んだという。
タウトが滞在したのは、洗心亭(せんしんてい)という風情のある日本家屋。今では、県の史跡に指定されている。タウトは滞在中に、日本独特の素材を生かして竹や和紙を使った作品や漆器、竹皮細工などの制作や家具の設計など、新たなことに挑戦していた。毎日、午後になると、考え事をしながら2-3時間ほど境内や近隣を散策していたという。彼の創造の泉となったのは、この地であったのは間違いない。
境内には「タウトの思惟の径」と名づけられたコースに10のポイントがあり、タウトの日記や関わりなどが記されている。それぞれをたどっていくと、境内をひと巡りできる。手入れの行き届いた5万6200平方メートルの境内は、ゆっくり歩いておよそ50分-1時間。まさに「心洗われる」ときを過ごせる。

タウトが記した「私は日本の文化を愛す」という言葉が刻まれた碑と洗心亭

総門。階段を上ると鐘楼がある