青木周弼旧宅

藩医の邸宅らしい立派な門構え

まずは当時の面影を残す風情ある横町を散策

幕末の長州藩医であり日本屈指の蘭学者でもあった青木周弼。その旧宅があるのは、武家屋敷が立ち並び、当時の豪商名を冠した通り「江戸屋横町」だ。江戸屋横町には、維新の三傑の一人である木戸孝允の旧宅や、高杉晋作・伊藤博文ゆかりの円政寺などが並び、黒板壁の風情ある横町となっている。公共交通機関で訪れるなら、「晋作くん」の愛称で親しまれている萩循環まぁーるバス(西回り)で「萩美術館 浦上記念館・萩城城下町入口」バス停下車。そこから青木周弼旧宅は歩いてわずか3分ほどだが、しばし江戸から幕末の面影を色濃く残す町並みを眺めながら歩くことで気分は高まる。ほどなく木造の門と石柱が見えてきたらそこが邸宅だ。

多くの門下生を抱える蘭学医の面影が残る

青木周弼は、1803年(享和3)に周防大島郡の医師、青木玄棟(げんとう)の長男として生まれた。三田尻(現在の山口県防府市)の名医であった能見友庵・洞庵親子に学んだのち、江戸では蘭方医の坪井信道、遊学先の長崎ではシーボルトに師事。長崎で開業するも、1838年(天保9)には藩医として長州に戻り、1848年(嘉永元)には13代長州藩主・毛利敬親(たかちか)の信任を得て侍医となった。この屋敷は1859年(安政6)に建築されたもので、母屋の座敷は来客用と家人用に分けられており、日本屈指の蘭学医であった青木のもとで学ぼうと全国から多くの門下生たちが集まってきたことをうかがい知ることができる。木造の立派な門や忍び返しなどには藩医の邸宅らしさが感じられる。あまり改装されていないため、当時の様子がよく残されている建物だ。

建物内から庭の眺めも楽しめる

それぞれに国に貢献した青木家の周弼・研蔵・周蔵

早くから種痘法に注目した青木周弼は、12歳年下の弟・研蔵を長崎に遣わし、最新の医学を学ばせた。研蔵は種痘の技術を藩に持ち帰り、兄弟2人で天然痘の予防やコレラの治療に尽力し、大いに功を奏したとされている。さらに周弼は藩の医学館創設にも関わり、のちには館長として防長医学(周防と長門の2州において受け入れられた西洋医学)の発展に大きく貢献した。また、当時10歳の高杉晋作が天然痘にかかった際に周弼が診察し、一命をとりとめたことも有名なエピソードだ。研蔵も1869年(明治2)に明治天皇の大典医に任命されている。屋敷の前の石柱には「青木周弼 青木研蔵 青木周蔵旧宅地」とあるが、3人目の周蔵は研蔵の娘婿(養子)で、ドイツに留学した後、政治家へと転身、のちに外務大臣を務めた人物。ここはまさに3人もの逸材を輩出したすごい家なのである。

周弼・研蔵・周蔵、3人の名が刻まれた石柱

蔵の床下から大量の「一分銀」を発見！？

「青木周弼旧宅」に関して最近の大きな出来事のひとつは、1990年(平成2)に土蔵の床下から1200枚もの一分銀が発見されたことだろう。床下から発見された木箱や金属箱を開けたところ、和紙で包まれた正方形の包みが全28包・長方形の包みが2包あり、発見された総額は239両3分、総枚数は1175枚にも及んだという。和紙の包みのなかに「青研」の文字が記されていたため、所有者は青木研蔵と判明。明治天皇の大典医となっていた研蔵は、この一分銀を貯蔵したとされる翌年の1870年(明治3)に東京深川で事故死。そのためにその存在が不明になっていたようだ。発見された一分銀の一部は青木家の子孫の方から萩市へ寄贈され、萩博物館に所蔵されている。この萩博物館では「高杉晋作資料館」など、萩や長州藩士にまつわる貴重な品を多数展示している。時間に余裕があればぜひ足を延ばして見学してみたい。

蔵の床下から発見された一分銀

萩城下町絵図

萩藩や毛利家にまつわる展示物もある