黄金湯

清潔な洗い場。奥の壁の絵巻物のような銭湯絵は漫画家のほしよりこさんが描いた

リニューアルした銭湯のニューフェイス

JR錦糸町駅北口から徒歩約6分。四ツ目通りを曲がった小さな通りに、黄金湯の看板が見える。コンクリートがむき出しの壁、ガラス越しに外から見える番台。これまでの銭湯のイメージを覆すような外観が目をひく。黄金湯は1932年(昭和7)頃から続く地元の人に親しまれてきた銭湯で、前経営者の引退を機に同じ墨田区にある「⼤⿊湯」を営む新保ご夫婦があとを引き継ぎ、2020年(令和2)にフルリニューアルオープン。建物の設計は建築家の長坂常さんが手がけ、店のロゴマークやオリジナルグッズなどのデザインはアーティストの高橋理子さんが担当。今までにない新しいスタイルの銭湯を生み出した。

白い暖簾が目印。早朝6-9時まで朝風呂の営業も行っている

超軟水の湯に包まれ、ロウリュサウナで整う

引き戸を開けて中へ入ると、ビアバーを兼ねた開放的な番台と昔懐かしい木製の下駄箱が出迎える。番台で下駄箱の木札とロッカーの鍵を交換して脱衣室へ。温かみのあるベージュ色のタイルの浴室に足を踏み入れれば、温度の異なる3つの浴槽が並んでいる。そこに満ちているのは、地下から汲み上げた軟水をさらに軟水処理した肌触りのやさしいお湯だ。奥にあるがサウナ室(別料金)で、男湯は麦飯石とヒバ材を用いたオートロウリュサウナに、深さ90cmの大型水風呂が備わる。女湯は檜材を使ったセルフロウリュサウナで、日替わりのアロマ水が用意されている。毎週水曜には男湯と女湯が入れ替わるので、サウナ好きの女性は水曜の入浴もおすすめしたい。

手前からあつ湯(43-44℃)、薬湯(40℃)、炭酸泉(36℃)と温度の違いも楽しめる湯船。さらに水風呂(18-20℃)も

男湯に併設された大型水風呂は洞窟の中を思わせる。椅子に座って外気浴のできるスペースも

湯上りには音楽を聴きながらビールを

風呂上がりのお楽しみは、黄金湯オリジナルのクラフトビールだ。番台にあるビールサーバーから、スタッフが冷たい1杯を注いでくれる。梅ソーダや赤シソのソーダ、コーヒー牛乳など自家製ソフトドリンクもそろう。番台にはDJブースが設けられ、流れるBGMはすべてアナログレコードによるもの。ガラスの提灯が灯される番台バーの周りで、世代を超えた人たちが思いおもいにくつろいでいる光景は、昔から変わらない銭湯の姿だ。

ビール目当てのお客さんも多いとか。定番ペールエールと期間限定ビールは600円

宿泊施設やキッチン、イベントも

黄金湯の2階には、ドミトリータイプの宿泊施設が設けられ、夕方からの宿泊が可能だ。さらに2022年(令和4)秋からは、食事やコーヒーを提供する「コガネキッチン」もオープン。DJイベントや中古レコードのフリーマーケットなど以前から開催していたイベントも好評で、黄金湯に立ち寄る楽しみは尽きない。2023年(令和5)7月現在、東京都で営業を続ける銭湯は約450軒。多くは経営者の高齢化や後継者の問題、大きな修繕費用や光熱費高騰など抱えているという。黄金湯の新保ご夫婦が目指すのは、次の世代に残せる銭湯。若い人たちが入りやすい銭湯を造り出すだけでなく、銭湯の若き働き手も育成しながら、未来に続く銭湯文化の継承に挑んでいる。

2階にある宿泊・休憩スペース。和室と洋室があり、コンパクトだが居心地のいい空間

2階のテラス席。「コガネキッチン」はその先にある