金山町温泉保養施設天然炭酸温泉

プチプチと泡が弾ける！(恵比寿屋旅館の露天風呂)

豪雪地帯ならではの景色

福島県の西部、越後山脈を挟んで新潟県に接する金山町。四方をブナの森に囲まれ、町の中央をJR只見線と只見川が東西に貫く。自動車だと、会津若松市街から高速道路を使って1時間余りだが、これぞ日本の里山といった景色が、随分遠くに来たように思わせる。川沿いや田んぼの脇には赤や青のトタンが連なる。トタンのなかは雪国の象徴、茅葺き屋根だ。冬はそれらが雪化粧で真っ白になる。それぞれの季節が見せるコントラスト豊かな情景は、積雪が例年2mを超える豪雪地帯ならではだ。降り積もった雪は春になると溶けて地下水となる。そして百年もの歳月をかけて地上に湧き出て、森や田畑をうるおす。その緑は非常に色鮮やかだ。さらに雪どけ水は、別の恩恵を金山町にもたらしている。1つが「天然炭酸水」、そしてもう1つが「温泉」だ。

森や田んぼの緑に映える、青や赤のトタン屋根

7つの源泉中、5つが炭酸温泉

町内には7つの源泉が湧き、それぞれ泉質や温度、適応症が異なる。たとえば源泉温度が約60℃と高く、うぐいす色の湯が特徴の「湯倉(ゆくら)温泉」は痔に効くそう。源泉温度が約52℃で、毎分124ℓの湯量を誇る「滝沢温泉」は黄土色のにごり湯で、温泉成分が濃いことで知られる。特筆すべきは「大塩(おおしお)温泉」「中川(なかがわ)温泉」「八町(はちまち)温泉」「玉梨(たまなし)温泉」「大黒湯」の5つの源泉。これらは、炭酸ガス成分が豊富な天然炭酸温泉として知られる。炭酸温泉は日本では少なく、大分の長湯(ながゆ)温泉、岐阜の湯屋(ゆや)温泉、群馬の下仁田(しもにた)温泉などが知られているぐらい。金山町の炭酸温泉は、その多くが温泉法上の二酸化炭素泉(温泉水1kg中に二酸化炭素が1000mg以上含まれる)に分類されていないため、あまり一般には知られていないが、たとえば大塩天然炭酸水井戸近くの「大塩温泉」は、色味や加温の影響で泡付きこそ弱いが、1kg中の二酸化炭素は949mgと、ほとんど二酸化炭素泉といっていい。

大塩温泉の露天風呂

2つの炭酸温泉を同時に楽しめる

「八町温泉」は、野尻川の東岸にある共同浴場「亀ノ湯」が源泉だ。二酸化炭素含有量は800mg近い。ただし、湯量が減っているので玉梨(たまなし)温泉とブレンドしているという。「玉梨温泉」の源泉は「玉梨温泉共同浴場」だ。こちらは野尻川の西岸にある小さな湯屋で男女別である。八町温泉と玉梨温泉の両方を一度に楽しめるのが、それぞれの源泉に近い「恵比寿屋(えびすや)旅館」だ。もともと玉梨温泉の源泉を引いていたが、2018年(平成30)から八町温泉も引湯。八町温泉は貸切風呂と大浴場の露天風呂、玉梨温泉は大浴場の内湯で楽しめる。最も泡付きが多かったのは、八町温泉が注がれている露天風呂。ただし、外気温や雨量など温泉自体のコンディションによっても異なるという。自然の大地から湧き出る天然温泉ならではだ。

野尻川を見下ろす恵比寿屋旅館の露天風呂(八町温泉)

文句なしの二酸化炭素泉

金山町で最も炭酸ガス成分が豊富な温泉が「大黒湯」だ。なんと1kg中に二酸化炭素が1121mgも含まれる。文句なしの二酸化炭素泉だ。しかも、一般的に二酸化炭素泉は30℃以下の低温が多いが、大黒湯は入りやすい40℃前後をキープ。つまり、より気持ちいいということ。この大黒湯は、町営の温泉保養施設「せせらぎ荘」で入ることができる。玉梨温泉も引いているので、2つを入り比べられる。どちらも温泉が空気に触れて鮮度を損なわないよう、湯口を湯船の中に設けているが、湯温も低い大黒湯のほうの泡付きが圧倒的によかった。同施設がわざわざ「天然サイダー温泉」と銘打つのもうなずける。ちなみに炭酸温泉に入ると、二酸化炭素が血管を広げ、その結果血流がよくなり、体の芯から温まる。実際5分も入っていると、ジワジワと額から汗が……さすが炭酸温泉だ。しっかり温まったら、館内の無料休憩所でゆっくり過ごすのがオススメ。食事処や土産店も充実している。

せせらぎ荘の大浴場。左が玉梨温泉、右が大黒湯

大黒湯に手を入れたら、すぐに泡がびっしりと付いた