江津本町 甍(いらか)街道
天領だった時代の面影を今に伝える石州瓦の町並み
江の川の河口近く、舟運・海運で栄えた町
中国地方一の大河「江の川(ごうのかわ)」の河口付近にある江津(ごうつ)市は、「しまね海洋館アクアス」や「石見畳ヶ浦」がある浜田市と、「石見銀山」がある大田市の中間に位置する。そして観光目線からは「めぼしい見どころスポットがない場所」と見なされ、通過点として素通りされることが多い。しかし江津は、その名が表すように、かつては江の川の舟運と、日本海の海運のターミナルとして栄えた町だった。古くから交通要所として発展し、明治維新後も江津の中心として栄えていた「江津本町」は、1962年(昭和37)の市庁舎移転に伴い中心地としての役割を終え、今は静かなたたずまいの町並みとなっている。しかし今でも、そこには江戸時代から昭和初期にかけての古い建造物や往時の遺構が多く残り、古きよき時代の面影を伝えている。そして、そのことは、あまり観光業界や旅行者に知られていない。
多数の廻船問屋が軒を並べた「天領の町」
江の川の河岸に位置し、山陰道の旧街道沿いに町並みが続く江津本町は、交通要所としての重要性から、江戸時代に幕府の直轄地である「大森代官所領(天領)」に組み込まれた。そして17世紀の後半に上方(かみがた)航路が開かれると、北前船の寄港地、また天領米の積出港として繫栄した。江の川の河岸に4、50隻もの帆船が並び、河岸から町なかに向けて多数の廻船問屋の蔵屋敷が軒を並べ、往時には石見地方で石見銀山に次ぐ賑わいを見せる「石州赤瓦の光り輝く天領の町」だったという。その石州瓦の赤屋根が続く家並みと天領時代の面影が残るこの町を「天領江津本町甍街道(てんりょうごうつほんまちいらかかいどう)」としてアピールする取り組みが始められ、2003年(平成15)夢街道ルネサンス推進会議により「夢街道ルネサンス」モデル地区に認定された。「夢街道ルネサンス」とは、中国地方で歴史や文化を今に伝える街道のことで、島根ではほかにも出雲市平田町の「木綿街道」、松江市美保関町の「青石畳通り」などがある。
静かな町並みでそぞろ歩きを楽しみたい
江津本町の町なかを、本町川という小さな川が流れる。その本町川沿いは、かつて廻船問屋が軒を並べていた場所だ。今でも廻船問屋だった屋敷が残り、荷物を運んできた牛や馬をつないだ「鼻ぐり石」が往時をしのばせる。また本町川沿いには、赤瓦と白壁、黒板塀が美しい、風情豊かな町並みが続く。この「天領江津本町甍街道」は、土産物店や食事処が立ち並ぶような、観光地化された町並みではない。そして毎年春に開催される町歩きイベント「ふらり」の開催日以外は、町並みは静けさに包まれている。しかし、それだけに「純粋な町歩き」が満喫できる場所でもある。ここは地元の人の生活の場でもあるので、それに配慮して静かにそぞろ歩きを楽しみたい。また、この江津は、画聖・雪舟(せっしゅう)ゆかりの地でもある。江津本町から約4km、車で約10分の場所に雪舟作庭と伝わる「小川家雪舟庭園」があるので、あわせて訪れれば滋味深い旅となるに違いない。
スポット詳細
情報提供: ナビタイムジャパン