瑠璃庵

瑠璃庵では、型を使用せずに空中で息を吹き込んで自由な形に成形する「宙吹き(ちゅうぶき)」と呼ばれる技法を用いる

異国情緒あふれる町のガラス工房

世界遺産の構成資産の1つ「大浦天主堂」「旧グラバー住宅」から徒歩約5分。石畳の坂道や洋館が織りなす異国情緒漂うエリアに、長崎ガラス工房「瑠璃庵」はある。工房内にはガラス吹き職人でありオーナーの竹田克人さんによる「長崎ガラス」の作品が展示され、奥には作品制作時に使用するガラス溶解炉が。専門的なガラス制作業務を行う仕事場をメインに、吹きガラスやステンドグラス作りといった4種類の体験を行えるスペースや、日常使いにぴったりのガラス製品を販売するショップが併設されており、老若男女が気軽に長崎ガラスの魅力に触れることのできる開放的な空間となっている。吹きガラス職人の本格的な仕事場を間近に見られる工房兼ショップとしても、「瑠璃庵」は大変貴重な場所だ。

江戸時代の人々を魅了した「長崎ガラス」を今に伝えるガラス工房。400年の歴史をもつ「長崎くんち」の山車のガラス修復や高級日本酒の酒瓶など、さまざまな仕事を手がけている

現代に引き継がれる「長崎ガラス」の魅力と歴史

1960年代に始まった、ガラスをアート作品として使用する「スタジオグラスムーブメント」に魅了され、ガラス芸術の世界に飛び込んだ竹田さん。1986年(昭和61)から現在の場所に工房を構え、自らの制作活動を行いながら、当時忘れ去られていた「長崎ガラス」の魅力を発信するための体験施設を整えた。「古い歴史をもつ長崎ガラスの魅力を知ってほしい」という竹田さんの熱い想いは、ガラスの古名である「瑠璃」を冠した工房の名前にも表れている。海外との玄関口だった長崎のガラスの歴史は古く、16世紀頃にはガラス製品「びいどろ」やその製造技術が伝わっていた。長崎の職人が舶来の技術を用いて作り出した「びいどろ」作品は、長崎の名産「長崎ガラス」として全国に広まり、その美しさと希少性から憧れの美術品となる。しかしガラス技術の商業化にともなって「長崎ガラス」の伝統は衰退し、やがて歴史から忘れ去られてしまった。竹田さんは過去の文献資料から、16世紀に長崎で盛んに生み出されていたガラス製品について研究し、さらに新しい解釈を加え、現代の「長崎ガラス」としてよみがえらせている。

江戸時代以降姿を消していた「長崎チロリ」を、竹田さんが現代に復元

お土産に人気のリンゴの置物。中2530円、小1430円。箸置き各770円

旅の思い出作りにぴったりの4つの体験

体験は「吹きガラス」「ステンドグラス」「万華鏡」「フュージング」の4種類から選べる。「吹きガラス」はグラス、一輪挿し、ぐい飲みなど16種類の完成サンプルから色、形、模様を決めて制作開始。ブローパイプと呼ばれる吹き棹でガラスを巻き取り、溶解炉で溶かす作業は緊張感をともなうが、世界遺産の構成資産「大浦天主堂」のステンドガラス修復も行う熟練の職人がていねいにサポートしてくれるのでご安心を。完成後にグラスの底に無料でサインを彫るサービス付きなのもうれしい。徐々に冷やし固めて完成させるため、引き渡しは翌日の15時以降(翌日が定休日なら翌々日)となる。「千の花」を意味するミルフィオリを使った「フュージング」は、ペンダントまたはストラップから選べる。完成は1週間後(繁忙期は約2週間)。色や形がさまざまなミクロフォリを配置してガラスで固めるため、華やかで個性豊かな作品に仕上がる。選んだガラスに銅のテープを巻きつけ、さらにハンダで留めて完成させる「ステンドグラス」、自分で作った本体に好みのガラスを入れる「万華鏡」は当日持ち帰り可能。ガラス制作体験で、長崎の旅をさらに鮮やかに彩ろう！

吹きガラス体験。1100℃のガラス溶解炉でブローパイプの先のガラスをやわらかくし、濡らした新聞紙の上で転がしながら成形