炭火串焼うえ野

おいしそうに焼き上がるダルムなど。火力は炭火に限るという

「焼きとりの街」は屋台から始まった

豚骨ラーメン発祥の地である福岡県久留米市は、焼き鳥店の数が人口1万人あたり全国でもトップクラスという調査結果がある。これをもとに2003年(平成15) 、久留米市ふるさと文化創生市民協会(カルキャッチくるめ)が「焼きとり日本一」を宣言。同年、「久留米焼きとり日本一フェスタ」が開催された。そんな街での焼き鳥の歴史は、1952年(昭和27)創業の「キング」という屋台をはじめ、数軒の屋台が焼き鳥を出し始めたことに端を発するといわれる。ただ、当時は鶏肉が手に入りにくい時代。その代わりと畜場(ちくじょう)が市内にあったため、牛や豚、馬の内臓は新鮮なものが豊富に手に入った。この内臓を串に刺して焼いて出したところ、同市の基幹産業だったゴム会社の労働者の間で安くてうまいと評判を集め、広まっていくきっかけとなった。その流れのなか、焼き鳥店は鶏肉を出す店と内臓を中心に出す店にだんだん分かれていきつつも隆盛を迎え、最盛期には約200軒の店が味を競ったという。なお、同市では牛や豚のいろいろな部位も焼いて出すため、「焼きとり」と表示されることが多い。

内臓やかしわ(鶏肉)のほか「巻き物」などいろいろなネタがある

医大の街ならではのネーミング

その内臓をおもに出す焼きとり店が、炭火串焼うえ野だ。創業は1968年(昭和43)。夫婦で切り盛りするが、大将の父が先述したキングの経営者で、「ダルム」という久留米独特の焼きとりを始めた伝説の人だった。ダルムとはドイツ語で腸のこと。この街は医大があるため医学生や医師が多く、当時はドイツ語が医学界で普通に使われていたことから、腸を焼いたものをいつしかダルムと呼び始めたという。同様に心臓は「ヘルツ」と呼ぶ。

ダルム1本130円。肉類はすべて国内産で、ダルムは沖縄豚の大腸しか使わない

大振りながらヘルツは1本110円と安い

センポコは1本130円。こちらも身は大振り

仕込みにこだわり50本を食べた常連客も

この店ではダルムに豚の大腸しか使わないのが特徴だ。もつ鍋やホルモン焼きでポピュラーなのは肉の薄い小腸だが、大腸は厚くてクセのある部位のため、よく洗ったあと2時間かけてボイル。食べやすいやわらかさに仕込んであり、ジューシーでうまみも豊かだ。常連客のなかには50本を食べた猛者(もさ)もいたという。このダルムをはじめ、ヘルツ、そして久留米焼きとり独特のネタ、牛の大動脈を使うセンポコなど、すべてていねいに下処理したうえボイルされており、ほどよい弾力でおいしくいただける。また、大将と女将は久留米焼きとりのPRにも熱心で、久留米市のグルメイベント「久留米焼きとり日本一フェスタ」の第1回目(2003年)の会長を大将が務めたほか、全国各地でおこなわれるご当地グルメの大会には夫婦そろって出かけ、知名度アップに尽力している。久留米焼きとりの醍醐味を味わうなら最適の店といえるだろう。

ダルムやヘルツなど焼きとり5本セットは630円とお得

カウンターとテーブル席のある店内。1人でも気軽に入れる

医大が近くにあるので医学生のお客も相変わらず多い