ヴォーリズ記念館

滋賀県の有形文化財に指定されている。見学は予約制

最初の赴任地・近江八幡に生涯をささげる

JR近江八幡駅から近江バスで10分、「鍛治屋町」で下車して3分歩くとたどり着く。一柳記念館(ヴォーリズ記念館)は、近江八幡市の第1号名誉市民であるウィリアム・メレル・ヴォーリズが、満喜子夫人と暮らした住居。現在は記念館として、83年間にわたる生涯の記録と遺品を展示している。24歳のとき、アメリカから英語教師として近江八幡にやって来たヴォーリズは、キリスト教の伝導活動とともに学校や病院を開設するなど近江八幡市の教育や医療、福祉に大きく貢献。自給自足の精神を礎とし、社会事業の資金を調達するため家庭常備薬メンソレータム(現・近江兄弟社メンターム)の製造販売を行う近江兄弟社を設立。会社経営のかたわら建築設計でも手腕を発揮したという。ちなみに、日本国籍をとってつけた名は、「アメリカ(米)から来て留まる」と綴る、一柳米来留(メレル)。一柳は、華族の令嬢だった夫人の旧姓だ。

W・メレル・ヴォーリズ(1880-1964年)と満喜子夫人

和洋折衷の外観に注目

赤い瓦屋根、暖炉の白い煙突、木板を斜めに張った「下見板張り」の外壁が印象的な建物は、1931年(昭和6)築。近江八幡に残る20数棟のヴォーリズ建築のうちのひとつだ。もとは近くの幼稚園(現ヴォーリズ学園内ハイド記念館)の教員寄宿舎として設計され、のちにヴォーリズ夫妻が移り住んだという。夫人のために日本の生活様式を取り入れ和室部分を増築し、和洋折衷の建物となった。レンガ敷きのアプローチを進むと、正面に庭、左手に玄関がある。玄関で靴をぬぎ、館内へ。玄関から居間までが見学可能な範囲だ。

正面の緑のアーチはモッコウバラ。開花はGW前後

アプローチ横の外壁。茶と白のツートンがお洒落

ヴォーリズと夫人が過ごした建物内部を見学

館内では、日常生活を営むうえでのTPOに合わせたデザインに注目したい。近所の幼稚園の子どもたちのために、ドアノブは低い位置に取り付けている。また、玄関に備えた飴色のベンチは、ゆったりと座ってアプローチや庭を眺められるよう背もたれ側が少し深くなっている。居間の奥、「神の國」と記された書は、ヴォーリズの直筆。円の中央に点を打ったサインは、ここ近江八幡が世界の中心という意味で、地元へのまっすぐな愛と生涯への覚悟が垣間見える。十字架の黄金比に基づいた両開き窓や、ヴォーリズが即興で曲を奏でたというエピソードが残る、愛用のピアノも見逃せない。

居間にはヴォーリズが残した品や数々の資料を展示

庭に面した両開き窓。太い木枠が十字架を表しているという

透かし彫りが美しいピアノは180年近く前のニューヨーク製