たけはら町並み保存地区

町並み保存地区のメインストリート「本町通り」は、電柱のない石畳道。歴史的建造物が立ち並ぶたたずまいは美しくも壮観だ

多種多様な歴史的建造物が立ち並ぶ

広島県内には尾道をはじめ、ノスタルジックな町歩きを楽しめるスポットが多数ある。そんななかでも出色の町並みの残る竹原は広島県の瀬戸内海沿岸に位置する。1982年(昭和57)、重要伝統的建造物群保存地区に、2000年(平成12)には、「都市景観100選」に選定された。その竹原の本町界隈には、江戸時代から昭和初期の伝統的な日本建築が軒を連ねて立ち並ぶ。それらの建物は、建築様式も妻入り、平入り、長屋、高塀をもつ屋敷など多種多様で、300年以上続く町並みの歴史的重層性を感じることができる。また町並みには、風情豊かな飲食店や土産物屋、カフェなども点在し、歴史的な興味以外の「町歩きの楽しみ」もある。そして、2014～2015年(平成26～27)に放映されたNHK朝の連続テレビ小説『マッサン』で、主人公のモデルとなったニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝(たけつるまさたか)の出身地として注目を集め、さらに2019年(令和元)には日本遺産「北前船寄港地・船主集落」に認定された。

本町通りには竹細工や生姜煎餅(しょうがせんべい)の店など竹原ならではの土産物屋や、そば屋などの飲食店、茶屋風情のカフェもある

本町通りを中心に、石畳の小路が続く

瀬戸内海の交通要所である竹原は、江戸時代に製塩業でおおいに栄えた。竹原の塩は全国へ送り出され、回船業も盛んになって、経済的発展を遂げ、今に残る町並みが形成されていった。そして豊かな経済力を背景に、幕末の尊王攘夷運動に影響を与えた『日本外史』を著した頼山陽(らいさんよう)など多くの文化人を輩出した。往時の家並みが残るのは、竹原市街の東側の山際の一角だ。そこでは本町通りを中心に、大小路(おおしょうじ)、板屋小路(いたやしょうじ)、中ノ小路(なかのしょうじ)、阿波屋小路(あわやしょうじ)など多くの小路があり、石畳道が続く。また竹原は江戸時代から酒造りが盛んで、竹原にある3つの酒造のうち、竹鶴政孝の生家である竹鶴酒造、1907年(明治40)の第1回全国清酒品評会で首席第一等を受賞した藤井酒造という2つの老舗酒造が「町並み保存地区」とその周辺にある。それぞれ昔ながらの造り酒屋の店構えで、町並みの名物スポットになっている。

本町通りに威風堂々とした店構えを見せる竹鶴酒造

学者一族である頼家の邸宅だった「春風(しゅんぷう)館・復古館」の立つ大小路は、本町通りとはまた違った趣がある

タイムスリップ気分で町並みを散策したい

町並み保存地区の入り口付近には、本瓦に白壁の「道の駅たけはら」がある。道の駅としては珍しく市街地に立地し、町並み散策のキーステーション的存在となっている。その道の駅から車道(県道75号線)を渡って、保存地区のメインストリート「本町通り」に向かう。その手前の鳥羽町通りにも、「浜だんな(塩田経営者)」の家である旧笠井邸など古い町屋が軒を連ねる。そして旧笠井邸の前から、風情あふれる石畳の本町通りの町並みがまっすぐ延びている。電柱がない町並みは壮観で、江戸時代にタイムスリップしたような気分になれる。これほど美しい町並みは、全国的にも珍しいだろう。本町通りにはいくつもの小路が交差し、また本町通りと並行して続くので、気の向くままに、縦横に町並み散策を楽しみたい。また、本町通りの町角にマッサンとリサの像がある広場があり、隣接する「竹原市歴史民俗資料館」では竹原の歴史や文化を紹介しているので、そちらへも立ち寄ってみたい。

鳥羽町通りに立つ旧笠井邸は2階の大きな梁が見事。無料で入館できるので、まず立ち寄ってみよう

町並みの建物には竹原格子と呼ばれる意匠を凝らした格子が見られる。旧松阪家住宅の猪目模様の格子は「幸せのハート」と呼ばれて話題になっている

NHK連続テレビ小説『マッサン』の放映を記念して建てられた「マッサンとリタ(竹鶴夫妻)の像」がある「憧憬の広場」

「町並み保存地区」のゲートウェイの役割をもつ「道の駅たけはら」。地元の食材を使った食事処や特産品の集まる売店がある