御厨人窟

弘法大師が悟りを開いた場所として知られ、ここから見えた風景が空と海だったので「空海」と名乗ったとされる

四国とゆかりの深い1200年前の天才・空海

真言宗の開祖である空海(弘法大師)は、774年(宝亀5)に現在の香川県善通寺市で生まれた。讃岐の地方官吏の家系に生まれ、官吏になるべく18歳で都の大学に入るが物足りず、山岳修行をするため紀伊半島や四国の山々を巡ったといわれる。やがて出家を決意し、反対する親族を説得するため『聾瞽指帰(ろうこしいき)』を執筆。儒教や道教と比較して仏教が最も優れていると説いたもので、現在も高野山の国宝として残されているものだ。そして31歳のときに、留学僧として最澄と同じ船で唐に渡る。唐では般若三蔵に師事したのち密教の第七祖「恵果(えか)」に弟子入りが叶う。恵果は空海がすでに厳しい修行を十分に積んでいるのを見抜くとすぐに奥義を伝授し、たくさんの経典のほか、曼荼羅や法具を作って持たせた。20年の予定を2年で帰国した空海は真言密教を確立。空海が山岳修行時代に遍歴した寺は「四国八十八か所」に代表される霊場として残り、現在も幅広く大衆の信仰を集めている。

若き空海が修行の際に居住したとされる「御厨人窟」。現在は落石防止の屋根が設置されている

青年時代の空海が悟りを開いた洞窟

空海が山岳修行をした際、悟りを開いたといわれるのが室戸岬にある海蝕洞だ。ここは約100年ごとに陸地が隆起しているため、1200年前には今よりも5m低い位置にあり、すぐ近くに海があった。人が入れる穴は2つあり、天井の高い「御厨人窟」に居住し、隣接するひと回り小さな「神明窟(しんめいくつ)」で修行を積んだといわれる。その修行は「虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)」を100万回唱えるという大変厳しいもので、そのとき空から虚空蔵菩薩の化身とされる明星が近づいてきて空海の口の中に飛び込み、悟りを開いたとされる。空海も聞いたであろう、この洞窟の中で聞く波音は、「室戸岬・御厨人窟の波音」として環境省の「日本の音風景100選」に選ばれている。

こもって「虚空蔵求聞持法」を修めたとされる「神明窟」。隣の洞穴「御厨人窟」よりひと回り小さい

実際に洞窟の中へ

国道55号線沿いの室戸岬東側にあって、洞窟前は駐車スペースになっているのですぐに見つかる。海蝕の進行で2012年(平成24)と2015年(平成27)に落石があり、洞内へはしばらく立ち入り禁止となっていたが、入り口に鉄製防護屋根が設置され、2019年(令和元)4月末より入洞が再開された。入り口近くにある納経所でヘルメットの貸し出しを行っているので、必ず着用してから中に入ろう。崖に向かって左側が「御厨人窟」だ。奥には五所神社があり、大国主命(おおくにぬしのみこと)が祭られている。入り口にある納経所はこの五所神社のもので、四国八十八か所番外札所のひとつだ。向かって右側にある「神明窟」の奥には大日孁貴(おおひるめのむち)、つまり天照大神(あまてらすおおみかみ)が祭られている。天井が低く、ゴツゴツした岩肌に覆われた野趣あふれる洞窟。1200年前に思いを馳せると感慨深い。

海沿いの国道55号線を走っていると看板が立っている

納経所でヘルメットの貸し出しを行っているので借りていこう