関西の迎賓館「奈良ホテル」でクラシックホテルの魅力を存分に


2020.12.24

トラベルjp 旅行ガイド

ホテルの数は数多あれど、日本に「クラシックホテル」と称されるホテルはわずか数軒。中でも「関西の迎賓館」とも言われた「奈良ホテル」はまず名前が挙げられるホテルです。
和洋折衷様式で建てられた建物の建設費は鹿鳴館の2倍!そして、著名人や皇室の方々にまつわる調度品に、美術館のように並ぶ有名画家が描いた絵画…。
人の力では動かせない「時間」という贅沢。その積み重ねが醸しだす他にはない空間へ。
世界遺産に囲まれた贅沢な立地の奈良ホテル
JRや近鉄電車の奈良駅から三条通を東へと進んでいけば、見えてくる興福寺の五重塔。そう、人気が高いあの阿修羅像があるお寺です。そのままさらに東へと足をのばせば奈良国立博物館を左に見ながら、春日大社の広大な神域へ入っていきます。そして、「大仏」で有名な東大寺は春日大社のすぐ北側。
そんな地域の一角。南側には同じく世界遺産になっている元興寺もあり、まるで世界遺産に囲まれるように建つのが今回ご紹介する奈良ホテルです。
そんな立地の良さだけでなく、奈良ホテルは、明治以降、令和になった現代まで、その佇まいをほとんど変えていないという魅力ももったホテルなのです。
建設費は鹿鳴館の2倍!緑に包まれた風格ある老舗ホテル
奈良ホテルの始まりは明治時代。日露戦争で勝利した日本へと訪れる外国人が急増し、政府がホテルを増やそうと計画します。そこで関東では帝国ホテルを創業した大倉喜八郎が、そして関西では都ホテルを創業した西村仁兵衛が動き出したのです。
ご覧の風景は旧大乗院の庭園で、この傍に平安時代から江戸時代に栄えた門跡寺院「大乗院」がありました。作庭の名手といわれた善阿弥によって室町時代に作られた庭は、将軍足利義政や公家たちも来訪し、南都随一といわれていたほどです。
その庭園の北側にある眺めの良い高畑町飛鳥山を購入した西村仁兵衛。周りとの調和を保持するため和洋折衷の様式が取り入れられ、本格的に奈良ホテルのプロジェクトが動き始めます。
建設にあたっては、1908年に内閣総理大臣の管理下に設置された鉄道院がおこない、なんと、建設費用は、あの鹿鳴館の2倍!明治政府の力の入れようがわかりますよね。
しかし「政府高等官以上」など宿泊者を限ったため、1909年に創業した後、経営は西村仁兵衛から鉄道院に移ります。そして英国皇太子にヘレンケラー…等、迎賓館として数々の世界的著名人を迎えたのでした。
館内にちりばめられ守られてきた明治からの思い
檜造りの本館の玄関にはどっしりした屋根。そこから館内へと入って行けば、今度は目の前に紅いカーペットが敷かれた重厚な大階段が視線を上へと誘います。見上げれば、城や寺院等の貴い場所で見るような折り上げ式の格子天井。
入り口から次々と目に入ってくる物に、賓客を迎えるために造るという明治期の熱意が感じられるでしょう。
そんな当時の思いを感じながら大階段を上がっていけば、今度はこちらのシャンデリアを近くから見ていただけます。1983年にこのホテルで休日を楽しんだオードリー・ヘップバーン。この和風の趣があるシャンデリアをバックに家族写真を撮っています。
手すりには宝珠形の飾りが付き、その傍らにはくつろぎのスペース。1階にあるロビー「桜の間」やこちらの落ち着けるスペースでなにより感じてほしいのは、現代のホテルにはない木が持つ温かみです。
そしてこちらは、他では見ることがない凝った装飾があるスチーム暖房がある窓辺です。マントルピースもあるのですが、大正天皇即位記念の折に館内がセントラルヒーティング化されました。きっと多くの旅人がこの窓から外を眺めたはず。渡航への時間もかかり通信方法も今とは大きく違う時代。ここから彼方の愛しい人を思った旅人もあったでしょう。
このホテルで思い出を作ってきた宿泊者たち
落ち着きを持ちながらも華麗な意匠をつくした建物はもちろん、調度品なども大事に残してきた奈良ホテル。鉄道院時代のカトラリーや昭和初期に作られた貴賓用の食器など、ホテル内を巡れば所々にホテルの歴史を伝える物も展示されています。
こちらはそんな展示品のうちの一つ、創業当時のレジスターブック。宿泊者のほとんどが外国人だった時代ですが、日本人の名前も少しだけ横文字で入っています。
さらに、宿泊者に外国人が多かったというのもあるのでしょうか。幾つもの日本画が飾られています。こちらはフロント前にある上村松園の「花嫁」ですが、ご紹介した大階段を上がったところにも、そのスペースを囲むように絵画がズラリ!
美術展のように、美術史に名を残す人々の作品も鑑賞できます。
そして、宿泊者の一人、アインシュタイン博士の思い出の品も残っています。1922年に来日した際、北九州の門司では市民とヴァイオリンを奏でたという博士。奈良ホテルではこちらのピアノを楽しみました。今も当時と同じ場所に置かれたピアノ。音楽が、さらに日本の思い出を彩ってくれたことでしょう。
歴史だけでなく、奈良ホテルの「現代・いま」も楽しもう
歴史にふれながらホテルを紹介してきましたが、ここは現在も人々が奈良を楽しみながら宿泊できるホテル。
新館のほうの部屋の様子がこちらです。本館の廊下と同じような紅いカーペットや造りこまれたマントルピースなどは、他のホテルでは見られない仕様。ホテルの歴史にふさわしい演出も新館で味わってみてください。
まだまだ紹介したい点はいくつもあるのですが、最後のお薦めは、ホテルのメインダイニング「三笠」で味わう朝食です。
和洋が選べるのですが、お薦めは断然和食の「茶がゆ定食」です!
奈良の食とも言える茶がゆ。香り高い緑茶で炊きあげているという茶がゆは優しい味わい。それにホテル自家製のごま豆腐や野菜の炊き合わせ、蒸し物、焼物など、様々な味が詰められています。
他のホテルに宿泊してもこちらの朝食を食べに来る人がいるほど評判の高いものです。宿泊される方はぜひ味わっておきましょう。
このホテルを設計したのは、東京駅をはじめとして幾つも歴史に残る建物を設計した辰野金吾氏。石造りの建物とは違う、重厚感を出しながらも、温かみのある木材がくつろぎを与える空間になっています。数え切れない人々がくつろいできたその空間で、日常の自分から離れた時間を過ごしてみませんか。 

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奈良ホテル
rating

4.0

954件の口コミ
place
奈良県奈良市高畑町1096
phone
0742263300
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