一度は泊まりたい数寄屋造りの宿　箱根・熱海・伊豆編

こぢんまりとした質素な床の間や、素材そのままの趣を残しつつ洗練された細工の欄間、節や曲線の美しい自然木を使用した柱など、“わび・さび”を感じる空間が特徴の数寄屋造り。今回は、心やすらぐ和の情緒に触れられる数寄屋造りがある宿を伊豆、熱海、箱根からご紹介します。＜伊豆＞1．総工費が数十億円で換算される意匠を凝らした非日常空間おちあいろう（静岡県／伊豆・天城湯ヶ島）創業約150年。多くの文豪にも愛され、登録有形文化財に登録されている「おちあいろう」。近くを流れる2本の川が“落ち合う”場所に佇むことから、旧幕臣の山岡鉄舟により宿名を名付けられた、歴史ある宿です。「おちあいろう」は本館が格調を重んじた造りなのに比べ、「眠雲亭」は数寄屋造りの趣となっています。「眠雲亭」の各室は源氏物語の各巻から名付けられ、欄間にはこれに因んだ模様が桐板に透し彫りにされています。組子細工も部屋によって作りはさまざまなので、ぜひ注目していただきたい。実はこの宿、当時は5年の歳月と総工費約25万円（現在の価値に換算すると数10億円）をかけて建築されたそう。他では見ることができない意匠を凝らした装飾や、至る所に施された精密な細工を通して、匠の遊び心を感じてみてはいかがでしょうか。おちあいろう静岡県／伊豆・天城湯ヶ島詳細情報はこちら 2．現代の匠たちの技が注ぎ込まれた伊豆を代表する数寄屋造りの旅館柳生の庄（静岡県／伊豆・修善寺温泉）伊豆・修善寺の竹林に溶け込むようにひっそりと佇む「柳生の庄」。料亭をルーツに持ち、地元伊豆の食材や旬の味覚などがふんだんに使われた本格懐石料理が人気の宿です。「柳生の庄」は、大工、左官職人の匠たちが数多く参加して建てられた宿。全国から職人さんが勉強に訪れるほど、意匠にこだわった設えとなっています。例えば、「半露天風呂付　本数寄の部屋」の「上弦の間」にある窓の形は、京都・銀閣寺と同様、花頭窓に。障子を開ければ清々しい竹林が望め、風に揺れる笹の音に風情を感じます。室内や廊下の土壁もクロスや吹き付けは一切なく鏝（こて）のみで仕上げるなど、現代の匠の技が光ります。日本の美意識“わび・さび”を感じながら、滞在を楽しみましょう。柳生の庄静岡県／伊豆・修善寺温泉詳細情報はこちら＜熱海＞3．数奇屋造りの部屋で、唯一無二のフランス料理を味わうTHE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海（静岡県／熱海）熱海の温泉街の喧騒から少し離れた場所に建つ「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海」。“洋”のイメージが強い「ひらまつ」ですが、こちらはちょっと異なる仕様。門をくぐると美しい日本庭園の先に、現代の名工・木下孝一棟梁による見事な数奇屋造りの母屋が出迎えてくれます。貴重な木材が多く使われ、今後再現するのが不可能と言われるほどの建物となっています。数寄屋造りの客室に滞在できるのは、1日2組限定。その部屋のひとつ「特別室　梅の間」は和の調度品や、床の間に掛けられた世界的にも高い評価を得ている書家・井上有一氏のダイナミックな作品など、日本の美を存分に感じられる空間となっています。「梅の間」「松の間」は、部屋食となっています。空間が醸しだす“和の美”とともに、「ひらまつ」の“食の美”を味わえる贅沢な客室。一度は泊まりたくなる宿です。 THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海静岡県／熱海詳細情報はこちら 4．数寄屋造りの客室から美しい花火を眺めるあたみ石亭別邸　桜岡茶寮（静岡県／熱海）1日6組限定、露天風呂付離れの宿「あたみ石亭別邸　桜岡茶寮」。真ん中に池を配した庭園にある能舞台と、それを取り囲むように建つ6棟の離れが点在し、日常では見ることのない景色が広がっています。離れになっている客室すべてが数寄屋造り。雅びな雰囲気の家具調度、艶っぽく色めく寝具、大人の遊び心を愉快にする、さまざまな趣向に溢れています。艶と粋。江戸時代の気風が現代で触れることのできる空間となっています。江戸時代の花魁の名を冠した6棟の部屋。とくに「露天風呂付特別室」の「九重〈ここのえ〉」では、テラスより四季で開催される熱海花火大会を見ることができます。歴史ある日本の美に触れる、贅沢な滞在を叶えてみてはいかがでしょう。あたみ石亭別邸　桜岡茶寮静岡県／熱海詳細情報はこちら＜箱根＞5．約100平米、平屋建て数寄屋造りの非日常空間仙郷楼（神奈川県／箱根仙石原）箱根の自然を残す15,000坪もの庭園を持つ老舗旅館「仙郷楼」。39室ある客室の中で、6室のみ用意されている「別邸奥の樹々」タイプの客室が数寄屋造りとなっています。和空間の離れは、全室露天風呂付き。平屋の数寄屋造りで、お風呂を含めた専有面積が約100平米もあり、ゆったり広々。テラスから箱根の山々が望め、贅沢なひとときが過ごせます。客室にあるお風呂も大浴場と同じく、源泉掛け流しの白濁の湯です。湯船は3～4名様で足を伸ばしてゆっくり入れる贅沢な造り。客室の設え同様に、どこか落ち着く、ホッとする空間となっています。せっかくなら連泊というのも良いかもしれませんね。仙郷楼神奈川県／箱根仙石原詳細情報はこちら 6．こぢんまりとして温かい、6室のみの数寄屋造りの宿華の宿　ふくや（神奈川県／芦ノ湖畔）箱根湯本駅から車で約20分。芦ノ湖のすぐそばの高台に佇む「華の宿　ふくや」。客室数が全部で6部屋というこぢんまりとした宿です。だからこそできる、古き良き温泉旅館の魅力である手厚いおもてなしで、多くのゲストを魅了し続けています。客室全てが数寄屋造り。その中でも「露天風呂付客室（10畳+8畳＋内風呂）」の「華紬（はなつむぎ）」は、10畳と8畳の和室を有する広々とした空間。シンプルな意匠は、雑念を抱かせず、客室からダイレクトに、芦ノ湖の自然を感じることができます。ゲストのプライベートを守りながら、従業員との距離を感じさせ過ぎない温かいサービスを提供することにこだわる「華の宿　ふくや」。客室はもちろん、露天風呂やラウンジなど、宿での滞在をゆっくり堪能しましょう。華の宿　ふくや神奈川県／芦ノ湖畔詳細情報はこちら心落ち着く数寄屋造りの空間。自然を感じられる風流さも魅力ですが、時代に関わらず匠たちの技と遊び心に触れられるのも、数寄屋造りの面白さかもしれません。ぜひこれを機に、数寄屋造りの宿に注目してみては。　