新潟・越後湯沢「里山十帖」編 マッキー牧元の“宿・食探訪記”


2020.02.14

一休コンシェルジュ

多くのメディアに登場し、グルメ界では、言わずと知れたマッキー牧元さん。“美食”を求めてほぼ毎日、全国を飛び回る彼ですが、それと一緒に素敵な宿にも泊まられています。今回マッキー牧元さんは、新潟県越後湯沢の宿、「里山十帖」に滞在。その模様を紹介してくれます。マッキー牧元さんが出会った「噛み締めていくうちに涙が出るような料理」とは。二度目の里山十帖である。暖冬で雪は少なかったが、部屋に入ると、窓の向こうに雪原が広がる。
ひっそりと静まりかえった山々を見ながら、まずは部屋の外に配置された風呂に入ることにした。ちゃぽん。
時折自ら動いて立てる湯の音しか聞こえない。
冷気の中で、体がゆっくりと温まっていく。
都会の垢が落ち、しがらみが遠ざかり、ゆっくりと自分の時間が戻ってくる。
この瞬間が好きである。
部屋付きの風呂でも、内風呂でも、露天風呂でもいい、着いたら荷解きもせずにまず風呂に入る。
そうして、慌ただしい日常の生活でこびりついた心の垢を剥がして、裸になる。
それから夕食の時間まで、庭を眺めながら、ゆるりと過ごしたい。陽が落ちてきた。
ぼうっと眺めていると、山の、森の夜は木々の下からやってくることがわかる。
静寂の中で、闇が秘めやかに忍び寄ってくる。ダイニングに移って、夕食をとる。
木製のテーブルの上には、空の小鉢が一つ置かれていた。
そこへ透明なポットから、小豆色をした液体が注がれる。
こうして夕餉は、静かに始まった。「山の薬膳出汁」だという。
山菜の根(ナルコユリ、トコロイモなど)や、山の実(キハダやツノハシバミなど)、庭のハーブの根、野菜の皮を乾燥させたものに、野菜の出汁と鴨の出汁を合わせて煮出した汁である。
飲めば、体と心をじんわりと温める。
普段我々が慣れ親しんでいる表層的な“うま味”とは違う、朴訥で根元的な“うま味”があって、一口で、細胞に染み渡っていく多幸感がある。中に小さな丸い、実のようなものが沈んでいた。
口に含めば、ほのかに甘い。
まだ未熟なムカゴだという。
「大寒の頃 款冬華 ふきのはなさく」と題された、里山十帖の夕食である。
それは、雪深く、実りが少ない山奥でひっそりと息づく命への感謝が迫り上がる始まりであった。二皿目は、朴葉に包んだ「栃餅」で、甘みをつけた大納言と合わされている。
手間暇をかけて作られた栃餅の素朴を、噛みしめる。三皿目は、たこ焼きならぬ「白子焼き」で、白子が詰めて焼かれたたこ焼きが楽しい。
続いてお造りである。ブリのお造りであるが、桑木野シェフにかかると、お造りも日常のスタイルとは異なる。
甘夏と食用菊(かきのもと)、人参の細切りなどが添えられており、合わせて食べると、ブリが違う表情をみせる。
普通に醤油とわさびをつけて食べれば、みっちりとのった脂が、「どうだ」とばかりに迫って舌を圧倒するが、合わせて食べれば、ブリが心安らかに眠っているかのような、優しい滋味が広がるのである。次は、「雪景色」と題された煮物椀である。
八海山の酒粕汁に、牛蒡、人参、大根、黍餅、クワイが入れられている。
「ああ」。一口飲んで、一口食べて、思わず嗚咽が漏れた。
素朴なきび餅に、根菜の味わいに味覚が洗われ、身体に養分が行き渡る。
このお椀に、八海山の大吟醸を合わせてみた。ああなんと。
酒粕の華やかな香りと、八海山の綺麗な甘みが見事に抱き合う。続いては、「大根 保存と発酵」と題された料理である。
自前の発酵部屋で発酵した、黒大根、緑大根、紅しぐれ大根、様々な野菜とそのソースを盛り合わせてある。
それぞれに発酵して、深い酸味をたたえた野菜のおいしいこと。食事の前に、裏手にある様々な野菜や果実が、樽や瓶の中で発酵している部屋を見学させてもらったが、 「ここにいる時が、一番楽しいんです」と、桑木野シェフは嬉しそうに笑われていた。
人里離れた森の中にあるせいだろうか、良き微生物が豊かなのだろう。
どの樽を開けても、芳しい香りが漂ってきた。
今に息づく雪深い山間部での越冬する叡智の味わいは、噛みしめるという行為をうれしく思う味である。続いて魚料理は、「海と大地」と題されていた。
イシモチと白菜と神楽南蛮(この地特有の唐辛子)を合わせた料理である。
この日の最も気に入った一皿だった。
味噌漬けのイシモチの、一瞬そっけないような味わいを、噛み締めていくうちに滲み出ると深いうま味と、白菜の包容力のあるうま味が溶け合う美しさがある。
青菜の香りと神楽南蛮の辛味が、アクセントしてその美しさを盛り立てる。
海と山とは繋がっている。
自然の摂理、大いなる恵みの循環を知って、噛み締めていくうちに涙が出るような料理であった。続いては肉料理の「妙高の短角牛」で、牛蒡、人参、大根、里芋が添えられている。
この牛肉も、乾燥させて保存した、根野菜や大根を巻いて食べるといい。
猛々しい牛肉のエキスと野菜の汁が出会うと、太く、穏やかな味わいになる瞬間があって、素晴らしい。さあそして、最後は「ご馳走ごはん」である。
発酵野菜料理の頃に、目の前に土鍋が火にかけられ炊かれていく。
そのご飯が今炊き上がった。
魚沼の米仙人と呼ばれる、清さんが作るコシヒカリである。
一口食べて目を丸くした。
野生を感じさせる米である。
噛んだ瞬間に、私はやわじゃないよと、言われる。
そんな米だった。普通おいしい米というのは、思わず目が細くなるような甘い香りが漂い、食べた瞬間に米の甘みが口いっぱいに広がって、幸せとなる。
だが清さんの米は、違った。
甘い香りは漂いながら、その中に藁のような、番茶のような、煎った植物が出す香りに似た香ばしさがある。
さらに噛んで噛んで、15回くらい噛むうちに、甘味がずんずんと増していくのである。
そう簡単には、私の甘味を感じさせないわよと、言っているような、凛々しい甘味が口を満たし、陶然となる。
強靭な米なのである。
一膳目は、ご飯だけを噛み締め食べた。二膳目は、自家製の本物の沢庵の酸味を噛み締めながら、食べた。
大根の生命力が宿っている沢庵である。 三膳目は、桑木野料理長が自ら山に入り、苦心してとったという、今では希少な天然自然薯をかけて食べた。
この自然薯がすごい。
ポテポテとした粘りがあって、たくましい滋力が舌を包む。
甘いようだが、甘いと表現するのをためらうような、野生がある。
小鉢に残った自然薯がもったいなく、そこへご飯を入れて混ぜて食べた。四膳目は、釜にへばりついたおこげに塩を振り、湯をかけてこそげ取り、香ばしい湯桶にした。
こうしてご飯は、一粒足らずなくなった。
米にも自然薯にも、沢庵にも野生が宿っている。
それを感じとるということは、自然への“畏怖”を感じ取ることでもある。
現代人にとって、本当の贅沢とは何だろうかと、問われることでもある。
それこそが、「里山十帖」に来る意味なのだと思う。朝6時に起きると、外は雪が舞い散っていた。朝食もまたその事象を感じる食事である。
朝6時に起きると、外は雪が舞い散っていた。
まずは、部屋にある露天風呂に浸かってから、散歩にでた。
部屋に戻って、今度は大風呂の露天風呂でまた一風呂浴び、清らかな水を飲む。7時30分からの朝食では、最初にすりおろし人参ジュースを飲む。
惣菜は、おから、ひじき、黒豆煮 酢蓮根、南瓜煮で、別の木箱には、鮭ほぐし身 いくら、昆布佃煮 海苔佃煮 梅干が盛られる。味噌汁は、目前の土鍋で出汁が沸かされ、具の青菜、大根千六本 豆腐、ネギ
を投入し、味噌を溶く。他はだし巻き卵とイワシ生姜煮と、「切り菜」と呼ばれる、納豆に大根おろしと古漬けを刻んだものを混ぜた郷土料理である。
「切り菜」は、塩も醤油もかけずに、このままご飯と食べるのが正しい。醤油も試しにかけてみたが、醤油味が勝って、素朴感が薄れてしまう。ご飯は、昨夜散々白飯を食べだので、玄米をお願いした。
この玄米が、とてつもなく素晴らしいである。
口に入れるとはらりと散って、一粒一粒が「甘いよ」と囁く。
ただ甘いのではなく、清らかに甘い。
清らかにふっくらとしている。
これは、味噌をちょこんと乗せて、掻き込むのがおいしい。
体に養分が充満していくことを、実感する朝食である。
さあ満腹となった。
また雪を見ながら、一風呂浴びようか。 里山十帖 新潟県/越後湯沢 詳細情報はこちら  

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里山十帖
place
新潟県南魚沼市大沢1209-6
phone
0570001810
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