舞台『薔薇王の葬列』公演レポート
菅野文によるファンタジー漫画『薔薇王の葬列』を原作とした舞台『薔薇王の葬列』が、6月10日(金)に日本青年館ホールで幕を開けた。こちらの記事では本作の公演レポートを公演写真とともにお届けする。
CONTENTS
- STORY・公演レポート
- 公演概要
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STORY・公演レポート
STORY
中世イングランド。
白薔薇のヨーク家と赤薔薇のランカスター家による王座を巡る戦い―"薔薇戦争"。
ヨーク家の三男として生を受けたリチャードは、
同じ名を持つ父の愛を一身に受けるが、
実の母セシリーには「悪魔の子」と呼ばれ蔑まれていた。
戦乱の中、父・ヨーク公爵を王にすることを願うリチャードは、
森で羊飼いの青年・ヘンリーと出会い、束の間の逢瀬に心を通わせる。
互いの素性を知らぬ二人。
しかしヘンリーの正体は、宿敵ランカスター家の王・ヘンリー六世その人であった。
リチャードは運命の戦禍を必死に生き抜いていく。
その身に宿す「男」と「女」、二つの存在に身を引き裂かれそうになりながら―。シェイクスピアの史劇『ヘンリー六世』と『リチャード三世』を原案としたファンタジー漫画『薔薇王の葬列』が原作となっている本作は、百年戦争の最中、ジャンヌ・ダルク(演・佃井皆美)が火刑に処されるところから幕を開ける。その後イングランドで起きた、白薔薇を冠するヨーク家と赤薔薇を冠するランカスター家の王位を巡る戦い『薔薇戦争』がテーマとなっている。
物語の主人公はリチャード(演・若月佑美/有馬爽人(Wキャスト))。自分をこの世に産んだ母親に「悪魔の子」と疎まれ、愛されずに育ったヨーク家の三男だ。身体に男女両方の性を持つという難しい役どころだが、母の愛をどこかで諦めきれずにいる切なさ、唯一の「光」である父・ヨーク公のため剣に生きると決意する悲壮なまでの覚悟、ヘンリーに心惹かれていく様など、切なく揺れ動く心情を見事に演じ切っていた。リチャードならでは鋭く華麗な殺陣も必見である。そして自らの存在すら愛せなかったリチャードが心惹かれるのがヘンリー(演・和田琢磨)だ。森の中でリチャードが出会った羊飼いと名乗るヘンリーの正体は、ランカスター家の当主であり、イングランド国王であるヘンリー六世。戦を嫌い、世を儚むヘンリーの繊細な美しさを和田琢磨が見事に演じている。決して弱々しいだけではない清廉な佇まいは和田が演じてこそのものだ。
リチャードにとって唯一の光は、父であるヨーク公リチャード(演・谷口賢志)の存在だ。ヨーク家の高貴な魂、崇高な志を体現するヨーク公。この物語を力強く推し進める姿はまさに一家の主人であり、物語の大黒柱だ。懐の深さ、強さ、温かさ。谷口の演技が随所に光り、物語の説得力が増していく。
ヨーク公の右腕的存在であり、ヨーク公亡き後は長男エドワードに仕えるキングメーカー・ウォリック伯爵(演・瀬戸祐介)。しなやかな身のこなしは貴族の優雅さそのもの。切れ者である彼の本意は一体どこにあるのか。渦巻く欲望と嫉妬、権力争いの中心に居続ける存在からは目が離せない。
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ヨーク公と対峙するのはマーガレット(演・田中良子)。戦いを好まず王位すら手放そうとする夫・ヘンリー六世を見限り、自ら戦闘の指揮を取っている。彼女のランカスター家、王位への執着は、彼女自身の覚悟そのもの。自らの運命は自らが切り開く、そのためにはどれだけ血を流すことも厭わない。狂気に満ちた芝居の迫力が凄まじく、一幕終盤のヨーク公とマーガレット二人のやりとりは、ただただ圧倒されること間違いなし。必見だ。
そのマーガレットの息子はエドワード王太子(演・廣野凌大)。なかなかに憎めない存在として登場し、彼もまたリチャードに心惹かれていくのだが、その様子が実に微笑ましく一服の清涼剤といったところ。物語が進んでいくにつれ彼が登場する度に、客席からもほっとしたような笑い声が生まれていた。そんな彼にも王太子としてのプライドがあり、その人生をひたむきに生き抜いている。
快活で生来の女好き。父の右腕となって戦果を上げるのはヨーク家の長男であるエドワード(演:君沢ユウキ)だ。父亡き後はヨーク家を背負うものとしての顔も見せるが、二幕では激しい王位争いに巻き込まれていくこととなる。
明るく人懐っこい性格で、エドワードと共に母の寵愛を受けるのは次男のジョージ(演・高本 学)。二幕では一幕での幼さとは裏腹に、己の置かれた立場と不甲斐なさに酒浸りの生活を送るようになってしまう。頭を抱え、己の行くべき道を憂いて慟哭する姿が印象的だった。
リチャードの身体の秘密を知るケイツビー(演・加藤 将)。常にリチャードの傍に控える彼は、リチャードが心を開ける数少ない人物の一人だ。ひたむきにリチャードを支える姿はどこか切なくもあり、彼もまた己の信念と大切な人のために生きる人なのだということを印象付けている。
そして忘れてならないのは殺陣や演じる役どころが多岐に渡り、ステージの回転も多いこの舞台を支えるアンサンブルの存在だ。重厚な物語のリアルさは彼らの存在があってこそ。3時間という長丁場の物語をキャスト全員がまさに一丸となって作り上げていた。
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カーテンコールではキャストを代表し、谷口からの挨拶があった。「国や家族、愛する人のために戦った人々がいた。そういった人達の命や魂を伝えていくことも役者の使命ではないかと思う」
欲望渦巻く中世ヨーロッパを舞台に、懸命に命を燃やす人々の壮大な物語だ。生きることの意味を圧倒的な熱量を持って客席に問いかけてくる。本作は6月19日までの公演とともに映像配信も予定されている。ぜひこの物語を体感してほしい。
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公演概要
■日程・会場:2022年6月10日〜6月19日 日本青年館ホール
■原作:TVアニメ「薔薇王の葬列」
■演出:松崎史也
■脚本:内田裕基
■出演:
若月佑美/有馬爽人(Wキャスト)
和田琢磨
君沢ユウキ 高本 学 加藤 将 瀬戸祐介 廣野凌大 星波 藤岡沙也香 佃井皆美
田中良子
谷口賢志
アンサンブル
伊藤智則 遠藤拓海 小野流星 柿原康希
酒井昂迪 新原ミナミ 末廣拓也 髙久健太
福田真由 山越大輔
ナレーション:斎賀みつき
バッキンガム(声の出演):杉山里穂
■公式サイト:
https://officeendless.com/sp/baraou_stage/
■制作:バンダイナムコクリエイティブ/Office ENDRESS
■主催・企画:舞台「薔薇王の葬列」製作委員会
(C)菅野文(秋田書店)/舞台「薔薇王の葬列」製作委員会
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