床下には日本最大級の心礎!奈良県香芝市「尼寺廃寺跡」


2023.01.25

トラベルjp 旅行ガイド

「尼寺廃寺跡」と呼ばれる古代寺院の遺跡をご存知ですか?古代に都があった現在の奈良県には、仏教の伝来にともない、他の地域に先駆けて数多くの寺院が建立されました。尼寺廃寺もそのうちの一つ。
その名のとおりすでに廃絶した寺院ではありますが、重要なのは近年の発掘調査により、日本最大級とされる巨大な塔の心礎が発見されたことです。今回は国の史跡にも指定されている香芝市の「尼寺廃寺跡」をご紹介しましょう。
日本最大級の心礎が発見された尼寺廃寺跡
「尼寺廃寺跡(にんじはいじあと)」は、奈良県香芝市の尼寺地区にある古代寺院跡。7世紀中期以降に創建されたと考えられています。尼寺廃寺跡の南方には、敏達天皇の皇孫・茅渟王の墳墓と推定されている平野塚穴山古墳があること、「片岡」と呼ばれる当地一帯が敏達天皇系の王族によって代々領有されてきたことなどから、尼寺廃寺の造営は敏達天皇系(茅淳王系)の王族によってなされた可能性が指摘されています。
尼寺地区では、戦前より古代の瓦が多数発見されていること、礎石の残る土壇が2ヶ所に見られることから、以前より南北2か所に分かれる形で古代の遺跡が存在すると考えられてきました。平成に入り、発掘調査が開始。その結果「北廃寺」とも呼ばれる北側の遺跡は塔と金堂とが南北に並び、その東側に中門をもうけた回廊が周囲をぐるりととりかこむ「法隆寺式伽藍配置」の古代寺院であったことが判明しました。
発掘調査の後、北廃寺の周辺は保存整備がはかられ、現在は「尼寺廃寺跡史跡公園」の名で史跡公園となっています。
写真は北廃寺の塔跡。現在は礎石などを配置して当時の規模が示されていますが、実はこの復元された基壇の地下には、これらの礎石とは別の巨大な礎石が埋まっているのです。
地中の巨大な礎石は「心礎」と呼ばれるもので、塔の背骨というべき心柱を下から支えていたもの。その四方は約3.8メートルにもおよびます。
経年により、発掘されたときには中央部で真っ二つに割れてはいましたが、香芝市文化財調査報告書第4集「尼寺廃寺Ⅰ」によると、その規模は現存するものとしては「日本最大級の心礎」であるとされています。
巨大な心礎は調査終了後に埋め戻されていますが、復元基壇には心礎の写真が表示されており、それがどのようなものであったか、視覚的にもわかるようになっています。
調査によると、心礎の中心には心柱を受け止めるすり鉢状の柱座が彫り込まれ、その四方にも添柱を受けるための柱座が見られました。添柱用の孔のある心礎は全国的にも珍しく、貴重。
心礎からは金環や水晶玉、ガラス玉などが検出されており、かつての尼寺廃寺がいかに壮麗な寺院であったかがしのばれます。
金堂や回廊の復元遺構
塔跡の北側にあるのは、金堂跡。
金堂は東西約14.8メートル、南北約16.8メートルの規模で、塔跡と同様に基壇の部分が復元されています。
写真は中門跡からの眺め。左側の基壇が塔跡、右側の基壇が金堂跡です。
塔と金堂をとりかこむようにしてめぐらされていた回廊の規模は、東西約44.3メートル、南北約71.4メートル、幅5.9メートルであったことが判明しています。
巨大な心礎にびっくり!尼寺廃寺跡学習館
敷地内には、尼寺廃寺跡をより詳しく学ぶための「尼寺廃寺跡学習館」も設けられています。尼寺廃寺について詳しく知りたい方は、ぜひ訪れましょう。
館内には、先ほどご紹介した心礎の実物大の模型も展示されています。ガラス張りの床下に見られる巨石がそれ。一見しただけでも、その大きさがおわかりいただけるでしょう。
壁面には、塔基壇の土層を剥ぎ取った土層断面の実物も展示されており、尼寺廃寺跡の規模をうかがい知る手掛かりとなります。
<尼寺廃跡寺史跡公園の基本情報>
住所:奈良県香芝市尼寺2丁目
入園時間:なし(尼寺廃寺跡学習館の開館時間は午前9時~午後4時30分/月曜日および年末年始は休館)
アクセス:JR和歌山線「畠田駅」より徒歩約7分
北廃寺に先駆けて建立された南廃寺
では、もう一方の南廃寺はどのような寺院だったのでしょうか。南廃寺は北廃寺の南西300メートルほどのところに位置しており、その主要伽藍は現在の般若院を中心とした付近にあったと推定されています。
写真はその般若院。境内では当時の基壇の一部が検出されているほか、礎石も点在しています。
般若院の東方50メートルほどのところにある薬師堂には、ご覧のように、土壇状の遺構が残されています。土壇には礎石も点在しているため、こちらもやはり南廃寺に属する何らかの施設があったのでしょう。
ちなみに、南廃寺は北廃寺に先駆けて、7世紀半ばに建立されたと考えられています。南廃寺と北廃寺、それぞれを造営したのが同一の勢力であったかどうかまでは確定していませんが、南廃寺の造営には地形的な制約があったため、南廃寺の造営後、同じ勢力が新たに川を隔てた北側の地に北廃寺を造営したのではないかという説もあります。
<般若院の基本情報>
住所:奈良県香芝市尼寺2丁目92
拝観日時:要事前連絡
アクセス:JR和歌山線「畠田駅」より徒歩約10分 

read-more
尼寺廃寺跡史跡公園
place
奈良県香芝市尼寺2-88
すべて表示arrow
no image

この記事を含むまとめ記事はこちら