ラーメン官僚も絶賛! 北千住『らぁ麺屋のさかいさん』の絶品ラーメン「牛中華」とは?


2023.12.30

食楽web

食楽web 今回は、『らぁ麺屋のさかいさん』を紹介します。2023年8月23日、足立区南西エリアの人口集積地・北千住にオープンしたお店です。ロケーションは、4社5路線が乗り入れ、国内でも指折りの乗降客数を誇る超・巨大ターミナル・北千住駅の東口から徒歩約2分。 同店を切り盛りするのは、酒井康年店主。酒井氏は、異業種からの転身組。ラーメン職人としての振り出しは、千葉県柏市の人気店『らーめん工房けや木』から。『けや木』にて3年間修業した後、牛ラーメンの全国的名店『マタドール』の門を叩き、牛使いの名手・岩立マスターに師事。同店で地道に研鑽を重ね、2号店である『柳麺マタドール』の店長を経て、岩立マスターから店舗を譲り受ける形で独立を果たしたベテランです。店舗外観は、『みそ味専門マタドール』、『柳麺マタドール』と、ほぼ変化なし。関東圏在住のラーメンに明るい方であれば、人気店『柳麺マタドール』の跡地と言った方が、話が早いかもしれません そんな酒井店主に一風変わった屋号(『らぁ麺屋のさかいさん』)の由来を尋ねたところ、以下の答えが返ってきました。「誰が何を作っているのかを明確に示すため、そして、お客さんに『ランチはさかいさんのところに行くか』、『今日はさかいさんのラーメンを食べに行こう』といった親近感を抱いてもらいたいと考え、この屋号に決めました。それに『マタドール』は全国区の名店なので、その新ブランドだと誤解させてしまうのも避けたかった」とのこと。 なるほど、この屋号には、一度耳にしたら忘れることが困難なほどのインパクトがあります。特に、屋号に「さん」を付している点が秀逸ですね。近年、屋号に氏名を冠するラーメン店は増加傾向にありますが、私が知る限り、人名に「さん」を付すラーメン店は、千葉県船橋市の『魚骨ラーメン鈴木さん』など、ごくわずか。このひと工夫で、屋号に絶大なインパクトを付与できるのですから、作戦勝ちと言えるでしょう。店内は、カウンター席のみ7席 さて、ここまで説明すれば、もうお分かりだと思います。全国区クラスのビッグネーム『マタドール』で店長まで経験し、独立に当たり、ラーメン職人界の重鎮・岩立氏から店舗まで譲り受けた酒井氏が腕を振るう新店。いわゆる“優良店フラグ”が立ちまくったお店なのです。 ラーメン好きであれば、そんな存在をスルーできるはずがありません。私も居ても立ってもいられなくなり、オープン当初、及び、後発メニューである「味噌らぁ麺」発売開始直後の2度にわたり訪問させていただいた次第です。牛を巧みに使い分けて作られる圧巻の「牛中華」「塩らぁ麺」「味噌らぁ麺」牛中華」1200円 現在、同店が提供するレギュラー麺メニューは、「牛中華」「塩らぁ麺」と、オープン後、2023年10月1日に登場した「味噌らぁ麺」の3種類。ボタンの並びは、券売機左から「牛中華」「塩」「味噌」の順番。筆頭メニューは「牛中華」で、2段目以降に、これらのバリエーション商品やご飯もの等のサイドメニューが続きます。 価格は「牛中華」が1200円、「塩らぁ麺(にんにくあり)」が980円、「味噌らぁ麺」が980円。北千住の下町という立地の割にやや値が張りますが、「醤油」「塩」「味噌」の各々について、具なしの「かけ中華」「かけ塩」「かけ味噌」も提供しており、これらはすべて650円。麺とスープのみとはいえ、フルポーションのラーメンが650円で食べられるのは、ユーザーフレンドリーとしか言いようがありません。牛ケンネ脂から作る香味油「牛中華」のスープは、牛ラーメンで名を馳せる『マタドール』の1杯よりもさらに強く、牛の存在感を押し出したもの。牛骨スープに、牛チャーシューの煮汁から作る醤油ダレと、牛ケンネ脂から作る香味油を足し合わせ、スープを温める際に、牛の「油かす」を追加投入することで、ラーメン史上稀にみるほどダイナミックな牛感を演出することに成功しています。「醤油ダレはこの1杯の要だと捉え、徹底的にこだわりました。生の牛チャーシューを焼いた後の鍋にチャーシューのタレを注ぎ、チャーシューを低温調理する過程で発生する肉汁などを合わせます。それに『ちば醤油』を合わせ、火を入れず一晩以上寝かせることで、ようやく完成へと至ります」(酒井店主) 文字で表現するのも困難なほど緻密な製作過程に、ただ脱帽するしかありません。「塩らぁ麺(にんにくあり)」980円「塩らぁ麺」は、徹頭徹尾「牛」推しの発想で創られた「牛中華」とは異なるアプローチで紡がれます。「塩」は、トータルバランスを重視して作ったとのこと。他メニューのような牛チャーシューでなく塩麹に漬け込んだ鶏モモ肉をトッピングしたのも、スープ・麺・トッピングが織り成すバランスを考え抜いた結果によるものだそうです。「味噌らぁ麺」980円「味噌らぁ麺」は、酒井氏が『柳麺マタドール』の店長だった当時、お客さんから毎日のように「味噌ラーメンを出してほしい」と懇願され(加えてこの場所は『みそ味専門マタドール』だった時期が長かったこともあり)、「味噌」を出す店として認知されていることを痛感した実体験に基づき、商品化されたものです。「『みそ味マタドール』と同じ内容の味噌ラーメンを出すのは、修業先の岩立マスターから禁じられていました(笑)。なので、『みそ味マタドール』の複雑精緻な味の逆を狙おうと、味噌そのものの素材感にフィーチャーした、素朴で優しい味わいの1杯を作ることにしました」 現在、使っている味噌は、1世紀近くもの歴史を誇る老舗醸造所『窪田味噌醤油』の玄米味噌と生詰こうじ味噌の2種類。「開発段階で、『窪田味噌醤油』の玄米味噌とこうじ味噌を用いたラーメンを試食したとき、すぐにこれが正解だと確信しました」と酒井店主。膨大な試行錯誤を重ねて作り上げた「味噌らぁ麺」は、修業元とは味のベクトルを全く異にする完全なオリジナルの逸品です。スープ素材の一部。2種類の昆布 (羅臼と日高)とシイタケ ベースとなるスープは、「醤油」「塩」「味噌」の種別を問わない共通仕様。牛骨、膝付きのモミジ等の動物系素材に、2種類の昆布 (羅臼と日高)、シイタケを合わせてじっくりと炊き上げた出汁に、時間差で香味野菜を加えたものです。「スープ作りにあたっては、採り入れる素材の種類も大切ですが、素材の持ち味を活かし切ることも、それと比肩するほど重要。当店では、無人状態でも安定的な温度管理ができるよう、IH機器をフル活用した炊き込みを行っています」 それだけではありません。夏場と冬場で煮込む温度を微調整する、うま味の増幅役として昆布とシイタケを大量に使用するなど、数多くの経験を経てきたベテランならではのギミックも、随所に施されています。「牛中華」のスープ。すくった瞬間から牛の旨みを感じられる ひと口スープをすすり上げ、それぞれのラーメンの風味を噛み締めてみました。「牛中華」は、スープの雫が味蕾に触れた刹那、液体と化した牛を丸々一頭いただいているような圧倒的なコクと香りが、舌上を起点として同心円状に拡散。口内の隅々にまであまねく行き渡ります。「油かす」から沁み出す牛エキスも、スープにさらなる厚みを加える役割を十二分に全う。華やかなうま味を持ち合わせた「牛」という素材による華美なうま味のトルネードに、食べ手は、ただレンゲを持つ手を動かし続けるしかありません。「塩らぁ麺」のスープ。心地よい塩ダレの香りが漂う「塩らぁ麺」は、重層的な牛成分のうま味とそれを真正面から受け止める塩ダレとが相互補完的に作用し、さらなる高みへと到達。“牛肉と塩とを上手く掛け合わせれば垂涎の味わいが現出される”。そのセオリーが揺るぎのない真実であることを、ラーメンスープという枠組みの中で、見事に証明してみせています。「味噌らぁ麺」のスープ。特徴的な香りと味が堪らない「味噌らぁ麺」は、スープの一滴一滴を構成する有機米麹や国産大豆の形状までもが脳裏に浮かぶほど圧倒的な素材感が魅力。そんな土の恵みの息吹の向こう側で、心臓の鼓動のように規則正しく脈打つ牛の存在感も、スープの水準の底上げに大きく貢献。店主の言葉どおり、「素朴で優しいテイストでありながら、物足りなさは一切感じさせない」会心の出来映えに仕上がっています。「牛中華」「塩」「味噌」ともに、一度手を付けたら最後、“飲み干す”以外の選択が許されないほど秀逸。“剛の牛中華”・“総合力の塩”・“柔の味噌”といった具合に、それぞれがまったく異なる趣を有しながら、等しく凄まじく美味です。各ラーメンの麺。手前から「牛中華」、「味噌らぁ麺」、「塩らぁ麺」 スープに合わせる麺も三者三様です。「『牛中華』は、オープン直後に麺の仕様を2回変えました。タレをブラッシュアップし、作り慣れてくると、もう少し柔らかな麺の方がスープとの相性が良くなるのではないかと考え、今は『春よ恋』を使った細めの麺を使っています。『塩らぁ麺』の麺は、『マタドール本店』で使っている全粒粉入りの細麺、『味噌らぁ麺』の麺は、『みそ味専門マタドール』で用いていた中太平打ち麺をチョイスしました。スープをしっかりと受け止め、麺自体の風味も良好です」 いずれの麺も、精魂を込めて創り上げたスープの魅力を、寸分も損なうことなくダイレクトに食べ手へと伝え切る“このスープにしてこの麺あり”の傑作。どれだけすすっても飽きることがありません。牛チャーシュー『さかいさん』のトッピングで特筆すべきなのは、他店では滅多に食べられない、牛チャーシューです。舌上でとろけるようなソフトな触感と牛らしい重厚なコクと甘美な香りを兼ね備えた、同店の牛チャーシュー。その作り方を酒井店主にお聞きしたところ、以下のような答えが返ってきました。「牛肉は、他の動物の肉と較べて保水力が低く、単純に煮込むとパサついてしまいます。かといって、煮込みを避けて低温調理で保水力を得ようとすると、筋が固くなり、とろけるような食感が得られません」。「そこで、筋を柔化させる酵素を混ぜたソミュール液に一晩漬け込み、液から取り出した後、肉の表面を焼き、タレと共に真空処理を施して一晩寝かせ、真空調理の技法で8時間かけてゆっくりと熱を加えることにしました」 筋を柔らかくする酵素と最適温度を探り当てるのに苦労したと、店主が述懐するとおり、気が遠くなるような手間暇をかけて開発した絶品中の絶品です。 名店『マタドール』から薫陶を受けながらも、自分らしさを追求する姿勢に、大いに好感が持てました。これからも、末永く応援していきたいと思います。●SHOP INFO店名:らぁ麺屋のさかいさん住:東京都足立区千住旭町43-13TEL:090-3207-6561営:11:30~14:30、18:00~21:00、日、祝11:30~16:00休:水曜●著者プロフィール田中一明「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。酒井康年店主のプロフィール・バイク関係、自動販売機の営業、人材派遣業などの異業種を経て、ラーメン職人の道へ。柏の葉キャンパスの人気店『らーめん工房けや木』で3年間ラーメン作りのイロハを学んだ後、北千住の名店『マタドール』の岩立マスターに師事。見習いから正社員を経て、2号店『柳麺マタドール』の店長を任されるまでに至る。・2022年5月より、『柳麺マタドール』の店長を務めながら、庚申塚にて、月2回の間借り営業を始動。2023年8月、『柳麺マタドール』の店舗を譲り受ける形で、独立店『らぁ麺屋のさかいさん』を開業。現在へと至る。・注文を受けてから商品が提供されるまでに要する時間は、5分程度。店主のラーメン作りのオペレーションは、清流のせせらぎのように淀みなくスピーディー。さすがは、店長時代から同じ空間に立ち続けていただけのことはあり、厨房を完璧に使いこなされています。・「レギュラーメニューは、地域の方々や近隣に勤務する方々のランチのレパートリーに加えてもらえるような1杯、限定メニューは、マニアにもズバンと刺さる訴求力のある1杯を提供できればと考えています。『さかいさんであれば、間違いない』。そう思ってもらえるようなお店に育てていきたいですね」(酒井店主)。・店舗の入口はオールガラス製で、券売機の存在や客席の状況を明確に視認することが可能。黄色い屋根、漆黒の外壁、ガラス製の入口越しに覗く真紅の絨毯によって構成されるファザードは、日本中のラーメン店を探訪しても、同店以外には存在しないと断言できそうなほどユニークです。 

read-more
らぁ麺屋のさかいさん
place
東京都足立区千住旭町43-13 杉山ビル 1F
opening-hour
11:30-14:30/18:00-21:00[日祝…
すべて表示arrow
no image

この記事を含むまとめ記事はこちら