いつでもどこでもチョコレートが食べられる時代に、「あえて食べたい」「誰かと分け合いたい」そう思わせてくれる不思議な六角形のチョコレート。尾道・向島のチョコレート工場「USHIO CHOCOLATL(ウシオ チョコラトル)」には、そんなチョコを求めてお客さんが県外からも押し寄せます。男3人で始めたというチョコづくり。どんな人が作っているのか気になってお話を伺いに行ってきました。
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01
山の中のチョコレート工場
尾道から目と鼻の先の向島(むかいしま)の山奥にあるチョコレート工場兼カフェ「USHIO CHOCOLATL(ウシオ チョコラトル)」。
意気揚々とレンタサイクルを借りて向かったのですが、想像以上のくねくね山道に悪戦苦闘。体力に自信のない方はぜひお車での訪問をおすすめいたします。大きな白い看板の次にポリスマンが見えたらあと少し~
到着したのは小高い山の中腹にある2階建ての建物。植え込みに立てられた看板を見つけなければ、本当にこんなところにチョコレート工場があるの?と思ってしまうような外観。
学校のような建物だけど・・・
チョークボーイが手がけたというアーチを抜けて2階へ
ここだ、着いたーー!
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02
島時間が流れるオシャレ空間
店内に漂うのは、なんともいえない穏やかでゆる~い空気。ふんわりと漂うチョコレートの香りが山道の疲れも帳消しにしてくれそう。
初めて来たのに、なんかほっとする。
店内には、そっけない外観からは想像できなかったオシャレワールドが広がります。チョークアートやカウンターなどDIYでつくられた内装から、並々ならぬセンスを感じる!
今回取材に応じてくださったのはスタッフのA2C(あつし)さん。お店を立ち上げたメンバーの一人で、チョコレートよごれ付きTシャツさえなんだか味に見えてくる雰囲気のあるお兄さんです。
山道での疲労が隠しきれなかった筆者に、みかんジュースを出してくれました。愛媛のみかんを皮ごとしぼっているそうで、色も味もそんじょそこらのみかんジュースとワケがちがう濃厚さ。お、おいしい。
USHIO CHOCOLATLのチョコレート、実は東京・代々木八幡の「Little Nap COFFEE STAND」でも取り扱われていて一度食べたことがあったのですが、ひと口食べたときの衝撃が忘れられず。そのことをA2Cさんにお話すると、せっせと奥から運んできた箱をごそごそ。
「せっかくなので食べながらどうぞ」と、ベトナム、ハイチ、ガテマラのチョコの即席食べ比べセットをつくってくれました。おいしく頂きながら、お話をうかがうことに。謎の文字「ゴロ太S」
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03
決して甘くない、男3人の“チョコレートストーリー”
USHIO CHOCOLATLでチョコレートを立ち上げたのは、ひょんなことから尾道で出会った3人の男たち。工場長のシンヤさん、そしてめがねがトレードマークのやっさんさん、そしてヘアスタイルの変遷激しめのA2Cさんです。3人の中に尾道出身者はいませんが、尾道がなんとなく心地よくて居ついてしまったのだとか。
左からやっさん、シンヤさん、A2Cさん
もともとチョコレートに全く興味がなかったというA2Cさん。あるときシンヤさんからもらったチョコを食べて「これはなんだ。」と衝撃を受けます。そのチョコはカカオ豆から成型するまでを一括して行うアメリカのチョコレート店のもので、シンヤさんは日本でもこんなチョコを作りたいと工場立ち上げに勧誘。
思わぬチョコのポテンシャルに感銘を受けたA2Cさんは、その誘いをふたつ返事で快諾します。そこへ尾道の喫茶店で働いていたやっさんも加わり、3人の奮闘が始まったのでした。ひとかけらのチョコが人生を変えることってあるんですね!
この3人、実は「ケミカルクッカーズ」というヒップホップグループを結成し、チョコレートづくりの傍ら音楽活動もしています。ラッパーチョコ職人、おそらく日本いや世界を探しても彼らだけなのでは?ちなみにA2Cさんは“MCねこぜ”という名前で活動中。取材中も韻をふんでました。
ケミカルクッカーズのグッズもセンス炸裂
USHIO CHOCOLATLのチョコの特徴は、カカオ豆と砂糖だけで作られているということ。シンプルだからこそ生きる素材の味。そこには3人が「アーティスト」と尊敬してやまない農園さんの存在が大きく関わってきます。
カカオ豆もコーヒー豆のように、育つ土地や農園によって個性がいろいろ。3人は実際にアフリカや東南アジアなどの農園に赴き、直接交渉をしてカカオ豆を仕入れることにも果敢にチャレンジしています。現地でのコミュニケーションに苦戦したり、取引のあった農園がなくなってしまったりと苦労も多いそう。それでも自分たちの感覚でしっかりといいものを選んで作ることにこだわっているのです。カカオの産地ごとに名付けられた“ウシチョコ”
使われているお砂糖にも工夫が。四国東部で伝統的に生産されている「和三盆」を、ウシチョコ用にアレンジ。盆の上で砂糖を“3度研ぐ”という工程をあえて2度に止めることで、黒糖の香りやコクを残したオリジナル「和二盆」を完成させました。こういった豆の味を引き立てる工夫にも、農園さんへのリスペクトがひしひし伝わってくるのでした。
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04
こんなチョコ食べたことない!“ウシチョコ”のひみつ
店内で購入できるチョコレートは常時6~7種類で一枚700円。一般的なチョコに比べるとお高めに感じますが、食べれば納得のお味です。
包みを開けると鼻腔に広がる濃厚な香り。このチョコ一体何者?!と思わせるようなパワーを感じます。ひと口食べれば、カカオ豆の種類によってお花やフルーツ、はたまたナッツ?と思わせるような様々なフレーバーが顔を出し、初めて体験する味にきっと翻弄されるはず。今までのチョコスタンダードがひっくり返ります
チョコレートの形が六角形とめずらしかったので、A2Cさんに理由を聞いてみました。
「きゃわわだからです。」
・・・きゃわわ・・・・。(まさかのおちゃめ回答に困惑)
しかし、そのあとには
「ハニカム構造として、広く強く繋がっていきたい」
「三角形が真ん中に向かって等間隔に並ぶ。そうして外側を結ぶと六角形。3人ではじめたチョコは、“3”という数字がラッキーな数字かなぁ」と。
飾らずありのままに答えてくれるA2Cさん。チョコに対する想いが本当にまっすぐなんだなぁと感じたのでした。パッケージはお気に入りの作家さんに書いてもらっているそう。きゃわわ。
店内では、チョコレートの購入はもちろん、「ホットチョコレート」や「カカオミルク」などのドリンクで一服することもできます。チョコレートは人気のため午前中にすべて完売してしまうこともあるとか。ぜひ早足で来店してください。
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“USHIO=潮”のように。
自然と目を奪われてしまうのが店内の窓の外に見える絶景。穏やかな海が青々と光り輝いて、それはそれは清々しい眺めなのです。
工場が入るこの建物は、20~30年前に尾道市が建てたという市民会館。利用者が減少し、再利用としてのテナント募集がかかったところを偶然発見して、現在2階部分を借りているのだそう。
手づくり感あふれる店内も心地よさのひみつ。店内に置かれた家具は町で不要になって処分される寸前だったもの。見かけはちょっとよくなくても、この空間では絶景を一人占めできる特等席です。お客さんも思い思いの席でまったり
お店の名前の由来は、工場長・中村さんの娘さんの潮(うしお)ちゃん。朝の海をあらわす「潮」ということばには、“日の出”というニュアンスも隠されていて、日本から発信していくことの意味や、世代を超えて残していきたいという想いが込められているそうです。
「チョコでもさきいかでも、うまみがあれば挑戦したい。」とA2Cさん。猫背気味な姿勢から発される言葉には力強いものがありました。チョコづくりもラッパーもこなす器用な3人。いつか想像のななめ上をいくような姿を見せてくれる日を期待してしまいます!チョコレートの表面にも“朝日”と“潮”が
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“人”が作るチョコだから面白い
今回お話をしたのはA2Cさんだけでしたが、他のお2人の人柄も伝わってくるような固い絆を感じました。やるからにはとびきりかっこよくて楽しくて、おもしろくておいしいものを。3人に共通するそんな男らしい心意気がウシチョコファンを増やしている理由でもあると実感。お土産に購入したチョコレートをかじりつつ、小さなこの島から漂うチョコレートの香りと歌声がずっと続いていくことを願ってやまないのでした。
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