幸せの黄色い列車に乗って島原鉄道の旅


2019.02.16

NAVITIME TRAVEL EDITOR

幸せの黄色い列車に乗って島原鉄道の旅

長崎県の島原半島を有明海の海岸に沿って走るローカル私鉄の島原鉄道。路線の半分近くが廃止となってしまったが、諫早と島原外港の間は健在である。鮮やかな黄色に塗られ、アクセントとして可愛いイラストが描かれた小さな1両のディーゼルカーがのんびり走る魅力的なローカル線を旅してみた。

  • 01

    旅の始まりは諫早駅

     九州の鉄道の中心である博多駅から特急かもめで1時間半少々、長崎駅からは、同じ特急かもめを利用すると20分足らずで島原鉄道の起点諫早駅に到着する。改札口を出て、島原鉄道のりばという案内に従って進むと、JR諫早駅の隣に島原鉄道のホームがあった。すでに黄色いディーゼルカーが乗客を待っている。車体のトイレに相当する窓のない部分には、「おどみゃ島原の…」で始まる島原の子守唄をイメージした可愛らしい母子のイラストが描かれていて微笑ましい。さっそく車内に入って、ボックス席の窓側に腰を下ろした。

    島原の子守唄のイラストが描かれた車体

    島原の子守唄のイラストが描かれた車体

     窓からホームを眺めるとSLの大きなイラストが壁に描かれている。明治初期の古典的なSLで、「日本初の蒸気機関車が走った島原鉄道」とのこと。補足すると、日本最初の鉄道である新橋~横浜間を走った記念すべき1号機関車が、後年、払い下げられて島原鉄道で働いていたのである。20年ほど島原鉄道に在籍したのち、保存のため鉄道省に戻され、今では、さいたま市にある鉄道博物館で展示されている。

    1号機関車が走った島原鉄道

    1号機関車が走った島原鉄道

     由緒ある1号機関車も走ったであろう線路を黄色いディーゼルカーは走りだした。JR長崎本線と分かれ、諫早城址のある公園の下をトンネルでくぐると本諫早駅に到着する。近くに市役所がある本諫早駅は、諫早駅よりも諫早市の中心に近い。ここで早くも降りる人がいるけれど、乗ってくる人もいる。無人駅の多いローカル線には珍しく駅員さんに見送られて発車。「ようこそ、幸せの黄色い列車王国へ」の看板もあり、島原鉄道の旅は、ここから本格的に始まるのだ。

    諫早駅を発車する黄色い列車

    諫早駅を発車する黄色い列車

  • 02

    幸せを感じ、有明海と雲仙岳の車窓を楽しむ

     次の幸(さいわい)駅は、おめでたい駅名に因んで黄色い駅名標が掲げられている。他の駅は青地に白抜きの駅名標なので異彩を放っている。

     市街地を離れると、平坦な田園地帯の中をガタンゴトンと走っていく。愛野(あいの)駅、吾妻(あづま)駅という駅があり、先ほどの幸い駅と合わせ、「幸せを愛のわが妻へ」ともじった「幸せ記念乗車券」を発売しているとか。結婚式の引き出物、恋人への愛のメッセージなどにも使えると島原鉄道ではPRしている。

     その吾妻駅を過ぎたあたりから、列車は左手に有明海を見ながら走る。有明海は干満の差が大きな遠浅の海で、潮が引いている時は、干潟が沖合まで広がり独特の海岸風景である。一方、右手を見ると近年噴火した雲仙岳が聳えていて、1991(平成3)年に多くの犠牲者が出た火砕流発生を思い出すと少々不安な気分になる。

     列車は、海岸線ぎりぎりのところを走ったり、やや内陸部を走ったりを繰り返しては島原半島の北辺を時計回りに進み、次第に南下していく。

     有明海対岸の熊本県にある長州港までのフェリーが発着する多比良港が近い多比良町駅のホームにはサッカーボールをあしらったモニュメントが立っている。この駅がある国見町は、高校サッカーの強豪国見高校のお膝元で、その活躍を応援しようと町全体で盛り上げているようだ。

  • 03

    幸せ祈願スポットがある海の見える大三東駅

     一旦内陸に入り、再び海岸に出る。今度は波打ち際すれすれのところを進む。次の大三東(おおみさき)駅はホームのすぐ下まで海となっている。地元の高校の放送部が交代で沿線の説明を録音して車内放送として流してくれるが、「日本一海に近い駅」とのこと。実際には、全国に海岸ぎりぎりのところにホームがある駅はいくつもあるので、正確に言うと「日本一海に近い駅のひとつ」であろう。

     ホームの一角には黄色いハンカチが多数欄干に洗濯物のように吊るされている。「幸せの黄色いハンカチ」としてメッセージを書いたものを広く応募して掲げているのだ。「幸せ祈願スポット」として聖地化を図り、イベント会場として島原鉄道とその沿線を盛り上げるのに貢献していて、ドラマのロケも行われたことがある。絵になる風景なので、車内から見ているだけでも幸せな気分に浸れる。

    大三東駅ホームの黄色いハンカチ

    大三東駅ホームの黄色いハンカチ

  • 04

    鯉駅長のいる島原駅で途中下車、城下町を散策

     大三東から12分ほどで島原駅に着く。かなりの乗客が席を立つ。諫早駅から1時間以上乗り通して来たので、からだがほぐすために下車してみよう。島原駅は、近くにある島原城と一体感を保てるようにと考えたのか、城郭風の重厚な大きな駅舎で、内部も広々としている。改札口の脇には、水槽が置いてあり、駅長室とある。不思議に思って近寄ると島原駅の特別駅長は鯉、名前は「さっちゃん」と言うそうだ。「幸せの黄色い列車王国」にちなんで、幸せの幸(さち)から命名されたとのことである。鯉が駅長に選ばれたのは、島原の市街地の清流に鯉が放流されているからだ。さっちゃんだけでは淋しいので、水槽の中には金魚の助役れんちゃんとあいちゃんも泳いでいる。

     島原駅を出るとロータリーがあり、その先には島原城、背後には雲仙岳が聳えている。ゆるやかな坂を上って行くと島原城を囲むお堀に出る。時間があればゆっくりと散策したい町だ。駅舎同様、お城と一体感を保つような街並みは落ちついていて癒される。

    島原駅の駅舎

    島原駅の駅舎

    島原駅の駅長室(笑)

    島原駅の駅長室(笑)

    島原駅前の情景、島原城と雲仙岳

    島原駅前の情景、島原城と雲仙岳

     次の列車で、島原鉄道の終点へ向かう。島原市の市街地を進み、島原鉄道本社前駅に停車。ホームと反対側には霊丘(れいきゅう)神社のある公園が広がる。線路近くには蒸気機関車が静態保存されている。かつて島原鉄道で活躍した国鉄のC12形と同じ形の機関車でC1201というプレートが見えた。

     南島原駅には車両基地があり、黄色いディーゼルカーが何両も休んでいて壮観だ。車体に描かれたイラストは何種類もあるようで、すべて撮影できたら楽しいと思う。

  • 05

    現在の終点、島原外港からは船旅も可能

     そして次は終点の島原外港駅。島原駅から10分の距離だ。ホームに立つと、線路はまだ先まで延びている。加津佐駅までの35.3kmが2008年に廃止になって久しい。私としては、乗れなかったのが悔やまれる。

     駅名のように、歩いて5分程の所に島原外港があり、フェリーに乗れば有明海を横断して1時間で熊本港へ行ける。船の旅も面白そうだが、今回は諫早駅に荷物を預けてきたので戻らなければならない。有明海を横断するのは次回の楽しみにして、折返し列車で諫早方面へ戻ることにした。

     島原鉄道では、有明海を眺めながら飲食ができる「しまてつカフェトレイン」を月1回程度の割合で運行している。海に近い大三東駅で45分停車するなど2時間かけて諫早駅と島原駅を結ぶ観光列車だ。再訪する楽しみが一杯の島原鉄道である。

    現在の終点、島原外港駅

    現在の終点、島原外港駅

    島原港
    place
    長崎県島原市下川尻町
    すべて表示arrow
    no image
    島原
    place
    長崎県島原市片町
    すべて表示arrow
    諫早
    place
    長崎県諫早市永昌町
    すべて表示arrow
    no image
    place
    長崎県諫早市幸町
    すべて表示arrow
    no image

この記事を含むまとめ記事はこちら

野田 隆 NODA Takashi
ライターのプロフィール画像
NAVITIME TRAVEL EDITOR
「乗り鉄」を中心に鉄道の面白さ、楽しさを、SL列車、観光列車やローカル線から\通勤電車、地下鉄に至るまで幅広く紹介する旅行作家。\著書は、2018年8月に21冊目となる「シニア鉄道旅のすすめ」(平凡社新書)が上梓された。\日本旅行作家協会理事