新しい夜の過ごし方。飲み屋ならぬ「nomiya」で“スイーツとお酒を


2020.03.10

Harumari TOKYO

北千住の隠れ家的スイーツ居酒屋北千住駅の東口に降り立ち、年季の入った居酒屋や味のある中華屋など個性豊かな店が軒を連ねる商店街をまっすぐ5分程歩く。細い路地を入ってすぐ見えてくるのは、提灯にのれん…と、まるで割烹居酒屋のような和な店構えだ。「ここはカフェではなくてやはり飲み屋?和食系居酒屋なのか…?」と店に近づくとガラス戸の向こうに見えるのは…なんと、ずらっと並んだケーキたち!ショーケースの灯に吸い寄せられるように扉を開くと、途端に鼻孔をくすぐるお菓子の香ばしい香りに思わず顔が緩んでしまう。「こんばんは〜」と店内を包む香りと同じくらい癒し効果抜群の優しい笑顔で出迎えてくれるのが店主でありパティシエの川﨑さんだ。店内はカウンターの五席のみで棚やテーブルには種類豊富なお酒のボトルが並んでいる。ケーキのショーケースと店に充満するお菓子のにおい以外の要素は完全に居酒屋だ。居酒屋だと思って入店してくるお客様も多いのでは?「以前は居酒屋さんだったんですよ、この場所。全面改装して新しいお店にしました。のれんがあるので、居酒屋さんと思って入店されるお客様もまれにいらっしゃいます。たまたま前の居酒屋さんがお店を閉めるのでその後ここで店をやらないかって声をかけてもらったんです」川崎さんは、カフェでパティシエとして勤務をしている最中だったのだとか。「もともと私はOLをやってたんですけど、昔から手作りケーキの味が好きだったんです。ある日、大好きなケーキ屋さんに出会ってしまったことがきっかけで会社を辞めました。その大好きなケーキ屋さんで2年くらい修行させてもらいました。その後、都内のカフェでパティシエとして5年程働き、そのタイミングでここの場所に声をかけていただいたんです」自身がつくりたいスイーツと、居酒屋さんを引き継ぐような形で試しにお酒も出してみたのだそう。「たまたまあうじゃん! と思いついて。偶然が重なってできているようなお店です」一度味わったら抜け出せない。スイーツとお酒のマリアージュスイーツはショーケースに常時7~8種類。フルーツの旬に合わせてラインナップが変わる。まずは一番人気のショートケーキからはじめよう。「ケーキ全体に言えることなんですけど、甘さは控えめにしています。なので全種類食べていく方もいらっしゃるんですよ!」一口、口に運んだ途端……溶けてなくなってしまう生クリーム。たっぷり使われているのにしつこさがない。さっぱりとした後味。エンドレスに食べられてしまいそう。ケーキを全制覇するという人の気持ちがわかる。ちなみにほとんどのケーキにお酒は使用していないそうだ。ショートケーキには川崎さんおすすめの白ワインをペアリング。苺、スポンジ、生クリームとシンプルな材料を使ったショートケーキがワインの香りと絶妙に重なりあい、爽快感のある幸せを運んでくれる。確かにクリスマスや誕生日、「ケーキとワイン」は鉄板の組み合わせ。いつだって幸せな味がするもの。なぜか特別な日に出てくるペアではあるけれど、こうやって日常的に登場してくれるのは嬉しい限りだ。ショートケーキを平らげた後は、川﨑さんのこだわりが詰まったカヌレがおすすめ。一般的なカヌレよりもかなり固めに焼いているといい、このカヌレを求めて足繁く訪れるリピーターも多い。実際取材中にも、開店前にも関わらず常連さんの地元マダムがカヌレを求めて来店する姿があった。噛むと同時にサクサク、中はしっとり。違った食感を一口で楽しめるのはお得感たっぷりだ。この重厚な味わいのカヌレには“ダークラム”を。アルコール度数が高く、ストレートで飲むにはハードルが高いお酒だが、カヌレとあわせると不思議と飲み進められてしまう。クセになり、ハマる人がいるのも頷ける。ラムだけを飲むとお酒が強くて飲めないくらい強いのに、カヌレと一緒だとどんどん食べ飲み続けてしまう、なんとも魅惑的な組み合わせ。身体の中から活力が湧いてくるような心地がする。別々にいただくのではなく、もはやカヌレをダークラムに付けて食べたい……と思わず呟いたところ、「それ、いいですね!ありかもしれないです!」と川﨑さん。お客さんとの会話から新しいペアリングが生まれることもあるといい、ここにもまた偶然が存在する。このスイーツにはどのお酒があうのか、試しながら夜な夜な過ごすのもワクワクしそうだ。ゆるく広い心で受け入れてくれる人と場所の仕掛けカウンターに座っているとちょうど川﨑さんに見守られるような位置関係になるのも心地が良い。最初に店内に入った時には少し窮屈かな? と思われた店内も実際に席に着いてみると自分の部屋のようにピタッとフィットし、安心感を覚える。耳触りの良い音楽とブルーグレーに塗られた壁も心を穏やかに整えてくれる。下町の飲み屋の居心地の良さは健在なのだ。川﨑さんが一人で切り盛りするnomiyaにはスイーツの他にも魅力的な手作りおつまみも用意され、駅前の立ち飲み屋で疲れた人がゆったりのんびりするためにやってきたりもするそうだ。ショートケーキを食べた時に「美味しい!」と自分の心の声が漏れると「よかったです〜」と満面の笑みで応えてくれる川﨑さんの顔が店を出た後も脳裏に焼き付いて離れず、また訪れたいと素直に思える。ケーキはテイクアウトもできるので、幸せのお裾分けをすることも可能。お店では食べられなかったものを持ち帰って、深夜の背徳の別腹タイムを楽しむのもいい。北千住の飲み屋街。“飲み屋”でなく“ノミヤ”へ。未だかつて体感したことのない、甘くて深い至福の時間に酔いしれてみてはいかがだろうか。取材・文:森田文菜
撮影:きくちよしみ 

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