雪山? いえいえ、はんぺんです!江戸時代から愛されてきた〈神茂〉の手取りはんぺん


2024.01.23

Hanako.tokyo

雪のように真白く芳醇な〈神茂〉の手取りはんぺんができるまで創業三百三十余年。かつて日本橋に魚河岸があった時代から、この地に歴史を刻む〈神茂〉。歌舞伎役者がおでん種の「すじ」にかけて、筋のいい若手が出てくると「あの野郎、ちょいとカンモだねえ」なんてシャレた隠語で褒めたという逸話もあるほど、練り物で知られる名店だ。手取りはんぺん1枚432円。生でわさび醤油と、ちょいと炙あぶって生姜醤油も最高。名だたる料亭や寿司店も贔屓にする蒲鉾やはんぺんを、日本橋に構える本店の地下工房で、今も職人が真摯に手作りしている。なかでも看板の一つが、あの四角錐のフォルムが美しい「手取りはんぺん」。今やはんぺんの原材料がタラやイトヨリが中心になる中、〈神茂〉は江戸中期から変わらぬサメ肉のみを使い、〝本来の〞はんぺんを作り続ける希少な一軒だ。お行儀よく整列して湯に浮かぶ手取りはんぺんの愛らしさ。一度に茹でられるのは50個。90℃の熱湯で片面9分30秒、裏返してさらに8分30秒茹でたら完成!「1680年ごろ、〈神茂〉の前身である〈神崎屋〉の5代目が日本橋にあった魚河岸でサメ肉を買い、蒲鉾の技術ではんぺんを製造したのが始まりです。当時サメのヒレは幕府の重要な輸出品で、ヒレ以外の部位を魚河岸で売っていたんですよ」と、18代目店主・井上卓さん。使い込まれた「手取り」の道具(右)。木型と狭匙と呼ばれる木ベラで四角錐の形を作る。工房は毎朝、サメを捌く工程からスタートする。気仙沼や焼津など各地の漁港から直接届くサメを2種類使用。身が締まって味わいの濃いアオザメと、はんぺんのベースとなるヨシキリザメを4:6のバランスで合わせる。ヨシキリザメは〝水ザメ〞と異名を持つほど身が柔らかく、軽やかな口どけに不可欠だ。気仙沼産20㎏のアオザメ。澄んだ身が美しい。「捌くときに大事なのは血合部分をきれいに取り除くこと。血合が混入すると消化酵素がタンパク質を分解し、はんぺんの食感が損なわれてしまうので」(井上さん)。そうした切り身の良い部分のみを濾し機にかけ、筋を取ったものが一度しぼり(または一番肉)。この一度しぼりだけを使い、塩、山芋、卵白、みりんなどを加えながら石臼で45分ほどすり上げていくと、ピンク色を帯びていた生地が空気を含んでボリュームを増し、やがて純白になっていく。サメを捌く大切な工程は熟練職人の岡敏男さんが担当。二度の濾しとすり上げを経て完成する生地は、ホイップクリームのようにエアリー!さらに二度目の「濾し」でキメを整えたら、いよいよあの特徴的なフォルムを作る「手取り」の工程へと移る。木型と狭匙と呼ばれる木ベラを使い、タン、タン、タンッ、タンッ、とリズミカルに四辺を切って中央を尖らせていく。手早く型取りすることで、ふっくらと空気を含んだ極上の食感に仕上がる。これぞ〈神茂〉伝統の技、見ていて実に小気味いい。「手取り」の作業。生地を木枠にのせ、木ベラで四面を削って四角錐に。「1面3回ずつで計12回、1個15秒目安ですね」と次期19代目の井上拓紀さん(奥)。茹でてふくふくと膨らんだ手取りはんぺんは、口に入れるとシュワッとエアリーにとろけ、芳醇で濁りのない旨味があふれ出る。保存料に頼らない昔ながらの製法だからこそ、はんぺんは本来、こんなにも素材の旨味に富んでいることに気づかされるのだ。ふくふくと膨らんで茹で上がった手取りはんぺん。年末年始を迎える最盛期の冬は、はんぺんの仕込み量が夏季の10倍にもなり、日に約3,000枚を製造する。「原価も手間もかかるから大変だけど、これを待っている料理人やお客さんがいる限りやめられない」と笑っていた井上さん。既存の〝はんぺん観〞が覆るほどの味わいは、江戸期から受け継ぐ心意気が支えている。神茂 本店住所:東京都中央区日本橋室町1-11-8
TEL:03-3241-3988
営業時間:10:00~18:00(土~17:00)
定休日:日祝休
HP:https://www.hanpen.co.jp/かつて宮内省の御用も務めた老舗練り物店。「御蒲鉾」2,052円など名作多数。photo_Kiichi Fukuda text_Yoko FujimoriNo. 1228No.1228 『贈りたい、もらいたい、手みやげ。』 2023年12月27日 発売号なにかと人と会う機会が増える年末年始。お世話になっているあの人に、日頃の感謝の気持ちを込めてとっておきの手みやげを贈りませんか? 絶対ハズさない老舗の名品、並んででも買うべき新作スイーツ、季節・地方の限定品、知る人ぞ知るお取り寄せまで、見ているだけでも心が躍る約200品を集めました。 そして贈り上手な人たちが、実際に贈って喜ばれたものもご紹介!秋元康さんの手みやげリスト、アイナ・ジ・エンドさんとアオイ・ヤマダさんの友達コンビ、ハライチ岩井勇気さんと神田愛花さんの『ぽかぽか』コンビがお互いに贈り合った物、ぼる塾田辺さ … もっと読む 

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神茂本店
place
東京都中央区日本橋室町1-11-8
phone
0332413988
opening-hour
10:00-18:00[土]10:00-17:00
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