榎原神社

鮮やかな朱塗りの二の鳥居と楼門。楼門は宮崎県内でほかに例を見ない古さ

緑の森に映える朱塗りの社殿

鹿児島県との県境からほど近い、宮崎県日南市南郷町の国道220号沿いに鎮座する榎原神社。一の鳥居をくぐり、山間の集落にある参道を進んで行くと、見えてくる朱塗りの二の鳥居と楼門がとても印象的だ。日南市には「鵜戸さん」の愛称で親しまれ、外国からの参拝者も訪れる縁結びの神社として有名な鵜戸神宮があるが、この榎原神社はあまり知られておらず、観光客が多いわけでもない。しかし、境内には大きな「夫婦楠」や、種類の異なる木がひとつになった「結びの木」があり、古くから地元の人々には縁結び神社として親しまれてきた。昨今、恋愛のパワースポットとして知る人ぞ知る場所となっている。

閑静な山間の参道を進み、二の鳥居と楼門を通り抜けて本殿へ向かう

県の有形指定文化財に指定された楼門

遠くからも目をひく印象的な楼門は、1816年(文化13)に建設され、2002年(平成14)に県の有形文化財に指定された。神仏習合の影響を色濃く残しており、両脇に仁王像が安置され、阿形は青い目、吽(うん)形は赤い目で楼門を守っている。建立時の棟札と1830～1842年(天保元～天保12)の再興時の棟札も残されていて、柱には地場産の飫肥杉(おびすぎ)を材料とし、礎石や地盤には榎原石が使われるなど、地方的特色が顕著だ。手水舎の隣には1842年(天保13)に建立され、1979年(昭和54)に県内初の有形文化財に指定された鐘楼が堂々とたたずむ。組物(くみもの)・蟇股(かえるまた)・木鼻(きばな)の細部に入念な仕上げが施され、造形的に最も優れている。大晦日にはこの鐘楼の鐘の音が境内に鳴り響く。

高さ11mを超える鐘楼は、上部の躍動感と下部の袴腰の安定感が好対照だ

天照大神の祀られた本殿と内田万寿姫を祀る桜井神社

榎原神社は1658年(万治元)、神女として崇められていた内田万寿姫の進言により、飫肥藩主が鵜戸神宮より分霊を勧請し創建された。現在の本殿は1707年(寛永4)に建立され1798年(寛永10)に改修。飫肥杉を使った社殿には豪華な彫刻が施された。こちらも鐘楼に続き、1983年(昭和58年)に県の有形文化財に指定されている。御祭神は天照大神(あまてらすおおみかみ)で縁結びにご利益があるといわれる。また、本殿の脇に建つ摂社「桜井神社」の社殿には、日南の海で伊勢えびが豊富に獲れたことを物語る伊勢えびの木鼻が取り付けられ、本殿にも見劣りしない。ここには神通力で多くの人を助けた巫女、内田万寿姫が祀られている。良縁や子宝に恵まれたという評判が広がり、2柱の神様が強いパワーを授けてくれると人気を集めている。

本殿のすぐ横には寄り添うかのように摂社桜井神社が建っている

摂社の桜井神社も合わせて参拝し、縁結びのご利益にあずかりたい

本殿の周辺には風変わりな樹木が息づく

社殿横の遊歩道には、御神木である樹齢600年の夫婦クスがそびえ立つ。高さ40m、幹回り8mの男楠と、高さ38mで幹回り7.5mの女楠は、寄り添って立っているわけではないが手(枝)を伸ばせば互いに届きそうな位置にあり、縁結びのご利益があるといわれる。このほかにも鐘楼の裏側ではエノキとイマヌキが巻き付き、2本の木が1本のようになっている事から縁結びのシンボルとされる。ほかにも社殿裏の遊歩道入り口には「長寿のソテツ」と呼ばれる曲がりくねったソテツがあり、須佐之男命(すさのおのみこと)が退治した八岐大蛇(やまたのおろち)を連想させる。榎原神社は建築だけでなく、周辺の植物や樹木に注目しても楽しいスポットだ。

桜井神社の横には榎原神社以前にこの地にあった地福寺の開山である地福寺1世の墓があり、墓石前の顔の石像は「歯の神様」として信仰されていた

夫婦クスに願い事をすると夫婦円満のご利益があるとのこと