谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館

モダンな外観の「谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館」

MoMAを手がけた谷口吉生氏が設計

にし茶屋街から寺町通り沿いに南東へ歩いて約5分、寺院や古い木造住宅の多い寺町に現れるのが現代的な石壁と1階部分を全面ガラス張りにした「谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館」だ。同館は、金沢市の名誉市民第1号で文化勲章受章者でもある建築家・谷口吉郎氏の住まい跡地に、氏の長男で、ニューヨーク近代美術館(MoMA)新館や東京・京都の国立博物館、「GINZA SIX」などを手がけた国際的な建築家・谷口吉生氏の設計で2019年(令和元)7月に開館。両氏を顕彰し、金沢の建築とまちづくりを紹介するミュージアムである。

通りを行く人が気軽に入れる雰囲気のラウンジ

谷口吉郎氏の代表作「游心亭」を再現

地上2階、地下1階の同館に入ると、1階のラウンジはミュージアムショップになっている。光あふれる2層吹き抜けの空間で、吉生氏デザインのテーブルとともに寺町のメインストリートの眺めを楽しめ、ここまでは無料で入場できる。2階の常設展示室と地下の企画展示室は有料となり、観覧料金は「常設展」のみと「常設展＋企画展」の2種が設定されている。常設展示室では、東宮御所や東京国立近代美術館、東京国立博物館東洋館などを手掛けたモダニズム建築の第一人者としての吉郎氏の業績を解説。さらに、吉郎氏の代表作のひとつ、迎賓館赤坂離宮和風別館「游心亭」の広間と茶室を忠実に再現し、現存する施設を展示するというこれまでにないスタイルをとっている。

2階に上がり最初に目にする吉郎氏の業績解説

再現した「游心亭」は柱や天井、壁などの素材も本物と同じものを使っている

和風建築と水鏡のような庭が美しい

迎賓館はサミットなどで国賓を招く場であり、なかでも游心亭は軒先からコイにエサをやるシーンでおなじみの場所だ。中へ入ると、右手に47畳の広間が広がり、賓客をもてなすやわらかな日本の伝統的建築美を目にできる。一方、左手には池に見立てた水庭があり、広間から廊下、そして外の水庭までが一体となった空間は、どこを切り取っても美しい。本物の游心亭では、池の先に日本庭園が広がるが、ここでは木々の向こうに空と犀川が広がり、日の光が水に差し込むと本家と同様、廊下の天井に「ゆらぎ」が投影される。奥の茶室は一見シンプルな造りだが、平天井と傾斜天井を組み合わせた「掛込天井」と、木を編んだ「網代(あじろ)天井」があり変化に富んでいる。

水庭越しに犀川や市内中心部を眺めることもできる

茶室はお茶をたてる様子を、周囲の椅子席から眺められるようになっている

市内には「谷口建築」がいくつも

地下の企画展示室は、建築やまちづくり、吉郎・吉生両氏の創作活動に関する展示会を年2回のペースで開催している。また、寺町台地に建つ同館には、寺町通りと犀川べりを結ぶ回遊路が整備されており、晴れた日は犀川べりを散歩するのもおすすめだ。このほか、金沢には金沢市西町教育研修館と石川県立伝統産業工芸館の2つの吉郎作品が残っており、吉生氏は鈴木大拙館の設計も手がけている。吉郎・吉生両氏の唯一の共作、金沢市立玉川図書館もあり、「谷口建築」をもっと知りたいならこれらの建物も見学してみるのもいいだろう。

地下の企画展示室 (撮影:北嶋俊治)