豊島区立トキワ荘マンガミュージアム

ありし日の姿を徹底的に調べ、よみがえったトキワ荘

若きマンガ家たちがともに暮らした「マンガ家の梁山泊」

西武池袋線の椎名町駅から徒歩15分。子どもたちが遊ぶ広場の一角に、クリーム色のレトロな建物がある。表に立つ錆ついた看板には「トキワ荘」と大書され、辺りに懐かしい雰囲気が漂う。この建物はマンガの巨匠たちがかつて暮らしたトキワ荘を再現したものだ。

2階の共同炊事場。当時、住人たちは流しで洗顔や洗濯をした

トキワ荘は1952年(昭和27)に完成した2階建てのアパートで、当時すでに人気マンガ家だった手塚治虫に続き、駆け出しのマンガ家が次々に入居した。彼らは励まし合って創作に臨み、のちに多くが有名になったため、トキワ荘はマンガファンにとって聖地のような存在となった。老朽化で1982年(昭和57)に解体されたが惜しむ声が多く、2020年(令和2)、300mほど離れた南長崎花咲公園に鉄筋で再現された。

実際の幅で再現された2階の廊下。マンガ家たちが暮らした部屋が左右に並ぶ

細部にまでこだわった建物の外観

トキワ荘の再現にあたってはさまざまな工夫が凝らされた。建物は築後10年頃をイメージしており、壁の汚れや手すりの錆などのエイジング加工を施している。苦労したのは外壁の色。設計図が残されていなかったため、写真や文献を資料としたが、写真はモノクロが多く色がわからない。そのため当時を知るマンガ家や専門家と相談し、細部まで考証が重ねられたという。

夜には部屋に明かりが灯り、マンガ家たちが原稿を書いている様子を想像させる

建物の外にも見どころは多い。表に立つ看板は、実物が年代により書体を変えていたことから、2種類の書体で書かれている。玄関前に再現された電話ボックスは、固定電話がまだ少ない時代、マンガ家たちが出版社と連絡を取るために使用したものだ。

マンガ家たちが暮らした2階の部屋

建物には靴を脱いで上がる。ギシギシときしむ音まで再現された階段を上ると、廊下の両側に四畳半の部屋が並ぶ。マンガ家たちはこの2階で暮らしていた。14号室には手塚治虫や藤子不二雄Ⓐ、藤子・F・不二雄(のちに15号室に移動)が、16号室に赤塚不二夫が、17号室には石ノ森章太郎が住んだ。これらの部屋ではトキワ荘や周辺地域の紹介パネルが展示され、18、19、20号室と共同炊事場、トイレでは当時の様子を再現している。再現にあたっては居住していたマンガ家に当時の様子を聞き、昭和のセット製作を得意とする美術チームが家具や道具を担当。食べ終えたままの丼や、紙くずでいっぱいのごみ箱など生活感たっぷりで、まるで今でも人が暮らしているかのようだ。
※石ノ森章太郎の「ノ」は55％の縮小での表記

よこたとくおの再現部屋(20号室)。当時ここで描かれた原稿の複製が見られる

石ノ森章太郎のアシスタントをしていた山内ジョージの部屋(18号室)

多くの見どころがある「マンガの街」

2階でタイムトリップ気分を味わったら、企画展示室とマンガラウンジのある1階へ。マンガラウンジでは企画展ごとに変わる書籍とトキワ荘のジオラマを展示している。手塚治虫直筆のイラストが描かれたトキワ荘の天井板もあるので、忘れずに見ておこう。
※手塚治虫の「塚」は旧字体

壁一面に昔のマンガがディスプレイされたマンガラウンジ

ミュージアム周辺にも見どころが多い。6000冊以上のトキワ荘ゆかりのマンガ家たちの作品が自由に読める「トキワ荘マンガステーション」や、オリジナルグッズを販売し、寺田ヒロオの再現部屋などがある「豊島区トキワ荘通りお休み処」もおすすめ。おなかが空いたら、マンガ家たちがこよなく愛した中華料理店「松葉」へ。当時から営業する数少ない店で味わう、昔懐かしい醤油味のラーメンは格別だ。