秋水美術館

刀身のほか刀装具にも注目を。優美な加飾を施した拵(こしらえ)は美術的価値が高い

中世から現代までの刀や絵画、工芸品を公開

甲冑を思わせる墨色の建物へ一歩入れば、静かに枯山水の庭が出迎えてくれる。窓にはさりげなく組子細工が施されるなど和の素材を随所に配してあり、日本の美に浸るのにぴったりの美術館である。富山市を南北に貫く国道41号線に面し、JR富山駅から市電環状線のトラム利用でも、北陸自動車道富山ICから車でも、ともに所要10～15分ほどの便利な場所に立地する。富山県内の実業家が長年にわたって集めたコレクションを公開するため、2016年(平成28)に開館。2020年(令和2)に運営を公益財団法人秋水美術館に移管したのにともない、現在の名称に変更してリニューアルオープンした。平安時代中期から現代までの約200振りの刀剣コレクションをメインに、中世から現代までの絵画や工芸品なども含めて「日本の美」を追求する作品を多数所蔵・展示している。

甲冑の鎧張りをイメージしたアルミ製の外壁が目をひく外観

2階鑑賞室では約30点の刀剣を展示する。なお、常設展示品は絵画や工芸品などに替わる場合がある

越中は多数の刀工が活躍した刀剣の産地

富山県は刀と縁が深い地域である。日本刀製造の全盛期とされる鎌倉時代から始まる中世期、越中国は五大産地には含まれないものの、256もの刀工が活動した有数の産地だった。なかでも名刀工正宗の兄弟子といわれる則重(のりしげ)や、豊臣秀吉が愛した「天下三作」の一人である郷義弘(ごうのよしひろ)、宇多派の開祖宇多国光(うだくにみつ)が名高い。2階鑑賞室では、これら地元に縁の深い刀剣のほか、国の重要文化財である虎徹や正宗をはじめ貴重な重要美術品を随時、展示する。刀は実用を極めると同時に、芸術的価値の高い宝としても扱われてきた。その美しさを堪能できるよう、闇の中に刀剣を浮かび上がらせる特注のLEDスポットライトをはじめ、展示スタイルにも徹底してこだわっている。宮本武蔵や幕末の志士など、刀を手にした歴史的人物に思いを巡らせるのも楽しい。

宮本武蔵が所持したと伝わる鎌倉時代後期の太刀「銘 了戒(りょうかい)」＝特別重要刀剣　

日本刀の構造や部位ごとの名称が理解しやすいよう、細かなパーツに分けた展示もある　

幅広く日本の美を伝える場に

1階にしつらえた枯山水の庭は、刀工の活躍と重なる戦国時代、応仁の乱以降に流行した様式である。都が焼かれて経済的に疲弊し、池泉庭園を造るのが難しかったことが誕生の背景にある。同時に池ではなく砂、石、草木で自然や宇宙を表現した独特の世界観が、日本の美の象徴ともされる。グローバル化の時代だからこそ、日本独自の芸術文化の価値は重みを増す。秋水美術館ではコレクションのジャンルを広げており、横山大観、川合玉堂、竹内栖鳳(せいほう)のほか九谷焼の徳田八十吉ら、日本の近代美術を代表する画家、陶芸家の作品が収蔵リストに並ぶ。新たに収集して2022年(令和4)にお披露目した重要文化財・佐竹本三十六歌仙絵「源重之(みなもとのしげゆき)」など、美術ファンが喜ぶコレクションが今後もっと厚くなっていきそうだ。

手入れの行き届いた根上がりの松を中央に据え、日本各地の銘石を配した枯山水の庭

3階鑑賞室では様々な企画展を開催。写真は富山県出身の芸術家である松原賢の作品を紹介した展覧会