猿沢池
興福寺五重塔を水面に映す、奈良を代表する名勝地
天平時代の人工池
もとをたどれば隣接する興福寺が営む「放生会(ほうじょうえ)」のための池として造られたもの。殺生を戒めるという仏教の戒律を背景とした、生き物を放つ宗教行事の放生会。現在では池の生態系を守るため、あらかじめこの池に棲んでいるコイ科のモツゴなどを捕獲しておき、それを池に戻している。
池の南側から眺める興福寺五重塔の風景はもちろん、西側から山並みを眺めると春日山原始林も美しい。じっと目をこらすとその手前に円錐形の御蓋山(みかさやま)の山稜を認めることができるだろう。神の降り立った山、古刹の塔、法会の池。市街地でありながらそこはすでに奈良ならではの場所であるのだ。
帝に仕えた采女(うねめ)の物語
この池は有名な悲恋の伝説の舞台ともなっている。「奈良の帝に仕えていた美しい采女がたった一度だけそばに呼ばれたものの、その後寵愛が失われたことを嘆いて、猿沢池のほとりの柳に衣を掛けて入水してしまった」という話が今に伝わる。その後その霊を慰めるために、采女を祀った社を建てたものの、わが身を投じた池を見るにしのびないので、一夜の内に社殿はうしろ向きになってしまったという後日談も。猿沢池のほとりに建つ采女神社が鳥居を背にして社を構えているのはそのためだといわれている。春日大社の境内外末社でもある采女神社は今や縁結びを叶えてくださる神様として知られるところとなった。
桜やカエデそしてヤナギに魚
江戸末期の奈良奉行として有名な川路聖謨(かわじとしあきら)。彼は興福寺や東大寺の境内へ桜とカエデの植樹を思い立ち、町民にも呼びかけた結果、植樹は佐保や高円を含む広範囲に及んだと記録に残っている。その事績を顕彰する石碑「植桜楓之碑(しょくおうふうのひ)」が猿沢池北側に建てられている。
また、猿沢池の周囲に植えられ景観を形作ってきた青々としたシダレヤナギ。2000年(平成12)を過ぎた頃から弱り始めてしまったが、現在は手を尽くして復活の途にあり、年々若葉が生い茂るようになって、樹勢も少しずつ回復している。興福寺は近畿大学農学部などと連携し、古い瓦を再利用した魚礁を池の底に設置して、在来種の魚の保護育成にも努め始めたところだ。
猿沢池の七不思議
采女伝説のほかにも「澄まず、濁らず、出ず入らず、蛙はわかず、藻は生えず、魚が七分に水三分」といわれる七不思議も多くの人がいまだに口にしている。池を望むオープンテラスのカフェがオープンしたり、古くからの旅館が新しく生まれ変わったりという動きのなか、つねに人々が行き交う猿沢池。南には率川(いさがわ)が流れ、その小さな橋を渡って南に進むと花街の風情を今なおとどめる元林院町(がんりいんちょう)があり、その先にはならまちへと続いている。奈良観光の起点でもあり、見どころ多い猿沢池。通り過ぎるだけでなく、池のほとりをくるりと一周しながら、山を望み、塔を見上げそして街並みを眺めてみてはいかがだろうか。
スポット詳細
情報提供: ナビタイムジャパン
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