長安寺
五百羅漢の滑稽な姿や表情に癒やされる
箱根で600年以上前から信仰されてきた禅寺
仙石原にある曹洞宗の寺で、創建は1356年(延文元)とかなりの古刹だ。もとは姥子に「箱根姥子山長安寺」として立っていたが、老朽化により1655年(明暦元)に現在の場所に移り、機山労逸(きやまろういつ)大和尚により開山された。その後、享保年間に姥子が元箱根の領分になり、山号を「龍虎山」と改めたという。本堂の建築は創建当時のものといわれてる。本尊は釈迦如来。ほかに薬師如来、延命地蔵菩薩、観世音菩薩、文殊菩薩、普賢菩薩など諸仏が祀られており、地元をはじめ全国から参拝に訪れる。禅宗の寺らしく、参道も本堂も深閑として派手さはないが、往来の激しい国道138号線から一歩入っただけで空気が澄んだよう。別世界の空間が待っている。
自分に似ている顔があるかも、五百羅漢
長安寺の参拝客の心をほっと癒やすのは、境内のあちこちに点在する五百羅漢の像たちだ。釈迦の弟子で、仏道修行し悟りを得た聖者、つまり人間としての最高位ともいえる「阿羅漢」を500人集めたものが五百羅漢。その姿は喜怒哀楽にあふれ、実に人間味のある表情に満ちている。長安寺の境内には、そんな五百羅漢が杉の大木の根元や池の端、はたまた苔むした木陰にちょこんと座っていたりとさまざまな場所に鎮座し、その姿態に笑ったり考えさせられたり。一体ずつ写真を撮ったり話しかけているとあっという間に時間が過ぎていく。1985年(昭和60)から五百羅漢を建立し、今後も増えていく予定という。これを観にくるだけでも十分に価値がある参拝だ。
花を愛でに来る人も多い寺
長安寺はまた、花の寺としても知られている。シャクナゲ、ヒメシャガ、白イワタバコ、シュウメイギクなど季節ごとに素朴で美しい花々が境内に花開く。また秋の紅葉も見ごたえがあり、写真愛好家たちがこぞって訪れ、五百羅漢とのコラボショットを狙っている。境内は広く、鐘楼堂や豊川稲荷、子守り地蔵尊などの社が立つほか、筆塚や、池には弁財天も祀られている。どこの風景を切り取っても絵になる美しさがあふれている。箱根史に記される立派な寺なのだが、どこかモダンで、まるで美術館のような寺だ。長い参道から大門、山門をくぐり、五百羅漢を見ながらぐるりと境内を1周して40分ぐらい。ただし離れられないほど気に入った羅漢さんに出会ってしまったら、1時間はすぐに過ぎる。
仙石原を静かに見守っている
長安寺の周辺は仙石原温泉の旅館・ホテル街で、高級旅館から保養所まで20軒以上が立ち並ぶ。また、箱根ラリック美術館、箱根ガラスの森美術館、ポーラ美術館など美術館も数々あるので、参拝とあわせて美術館巡りも楽しめる。仙石原は、古くは「千穀原」と記された。その由来には諸説あるが、豊臣秀吉の家臣仙石秀久に由来する説や、源頼朝が雄大な原野を眺めて「この地を開墾すれば米千石は採れるだろう」と言ったとする説もある。今は箱根の誇る温泉地だが、機山労逸大和尚もまさか、後世に関東一の大リゾートになるとは思ってもいなかっただろう。仙石原の賑わいを忘れさせてくれる長安寺の静けさに身を置く時間は貴重なひとときだ。
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情報提供: ナビタイムジャパン