坂戸城跡

365日登山者の絶えない坂戸山は、花と雲海を楽しめる歴史ある里山

かつて新田氏が築いた城砦があった坂戸山は、街に近く気軽に登れる人々の憩いの場。整備された道を、花を探しつつ山頂まで歩けば、田園風景と周囲の山々、蛇行する信濃川が織りなす絶景が待っている。

越後を代表する由緒ある山城

坂戸山が山城として使われるようになったのは鎌倉時代後期-室町時代初期といわれており、『太平記』にその名前が初めて文献に確認できる。坂戸山に城を構えた新田氏は、ほかにも魚沼地方にたくさんの城砦を築き、南朝方として最後まで抗戦するも敗退。この新田一族を徹底的に追討したのが、北朝方についていた上杉氏とその家臣である長尾氏である。上杉氏は、新田氏を放逐し越後の守護(司令官)になり、坂戸城に配置されたのが上田長尾氏。関東平野を結ぶ陸上交通の抑えとして、また魚野川を利用した河川交通の要所としても重要であった上田地方のなかで、坂戸山は山城として大切な役割を担うことになった。また五大老を務めた上杉景勝、その右腕でもあった直江兼続が生まれたのもこの坂戸城であり、2009年(平成21)にはNHKの大河ドラマ『天地人』の舞台としても注目を集めた。

休日ともなればふもとの駐車場は満杯

JR上越線・六日町駅から徒歩15分のところに坂戸山の登り口はある。関越道六日町ICからは5分程度。登り口は3本あるが、今回はいちばんスタンダードな「薬師尾根コース」を紹介する。

ふもとにある鳥坂神社で事故や怪我がないことを祈念する

トイレや水場などもあるので必要な場合はここで済ませておくこと。途中には設備がないので注意。標高634mと聞くとそれほど高い感じはしないが、急な登りが非常に多く想像以上にハードな山として有名。健脚者であれば45分くらい、ビギナーで90分を想定しておけば間違いないだろう。しっかり水分を用意して運動靴で臨んでほしい。登山道はしっかり整備されていて、子どもでも安心して登れる。夏場だけではなく春夏秋冬、365日誰かしらが登るのも坂戸山の特徴。すれ違う人たちとあいさつをしながら進んでいくと、いつの間にか気分が良くなってくるから不思議だ。15分に1回程度、休憩を入れながら登ると気持ち良く登れる。

取材を行った7月の下旬はヤマユリが満開。10月には黄色と赤、紅葉の世界を楽しめる。春、桜の開花に合わせて咲く「カタクリ」の群生は一見の価値あり。坂戸山の代名詞といえる景色でもある。ちなみにヤマユリの花言葉は「人生の楽しみ」。

季節の植物が登山者を出迎えてくれる

7合目半にはベンチのある休憩所もあるので眺めを楽しみながら一服してほしい。疲れを癒やす甘いものをバッグにひそませておこう。夏場は特にこまめな水分補給を心がけたい。山頂には直江兼続公が建立したといわれている「富士権現(ふじごんげん)」が威風堂々とこの場を守っている。建物の中に置かれた登山ノートへ、記念に一筆したためておこう。ゆっくり休んで下山モードに心と体を切り替えること。

黒い階段が見えたら、もう頂上は目の前

登山者は手を合わせ、山に登れる幸せをかみしめる

山頂からは魚沼盆地を一望できる。寒暖の差の激しくなる春先や秋口には「雲海」が見られるのも人気の理由。雲海を求めて関東から訪れる登山者も少なくない。また厳冬期の銀一色の景色は思わず息をのむ美しさ。街から聞こえてくる雑音のすべてを雪が吸収することで生まれる圧倒的無音の世界。遠くに見える山々は水墨画のような趣のある姿に変貌し、日本人の心に眠る「和」の心を思い出させてくれる。また山城としての価値も非常に高く、曲輪(くるわ)や切岸(きりぎし)などの遺構もいたるところに見ることができる。先ほど紹介した富士権現の裏には当時の「石垣」がそのままの姿で残っており、遺構マニアからは一目置かれている。歴史的遺産と市民の日常が混在する里山を、その足で味わってほしい。

歴史に思いを馳せながら眺めたい山頂からの景色