太平山三吉神社総本宮

三柱の神様が祀られている本殿。両脇に赤い梵天(ぼんでん)が飾られている

秋田県民から慕われている神様「みよしさん」「さんきちさん」

太平山三吉神社総本宮は、天武天皇の時代、673年(白鳳2)に役の行者小角(えんのぎょうじゃおづぬ)により創建されたと伝えられている。標高1170mの太平山山頂に奥宮、秋田市広面(ひろおもて)に里宮(さとみや)を祀る山岳信仰の神社で、毎年夏場の2か月間は奥宮を開き神職が山に籠もる。本殿に祀られているのは三柱の神様。大己貴大神(おおなむちのおおかみ)は別名大国主命(おおくにぬしのみこと)と呼ばれる家内安全・縁結びの神様だ。少彦名大神(すくなひこなのおおかみ)は、健康や子授けのご利益がある神様。そして、秋田生まれの神様・三吉霊神(みよしおおかみ)は、太平山に籠もって霊力を身に付けたとされている勝利成功・事業繁栄の神様で、姿は荒々しいが気はやさしくて力持ち。正義感が強く弱い者を助け、悪いものをやっつけたという伝説が県内各地に残されており、「みよしさん」「さんきちさん」の愛称で慕われている。

「太平山三吉神社」は北日本各地に分社があり、遠くはブラジルのサンパウロでも、移民した人たちが故郷の神様を祀って心の拠り所にしている

力持ちだが気のやさしい三吉霊神は、親しみを込めていくつかの絵に描かれている。姿を描かれる神様は、とても珍しい

霊峰・太平山の山頂で1泊し、御来光を仰ぐ

秋田市のシンボルである太平山は、古くから薬師の峰、修験の山として崇められてきた。秋田県のほぼ中央に位置するため、天気のよい日には山頂から男鹿半島(おがはんとう)や白神山地、鳥海山(ちょうかいさん)を一望することができ、「新日本百名山」にも選ばれている。毎年、神社主催の「太平山登ろう会」「山ガール登山会」などの登山行事を開催しており、山頂の奥宮を参拝し、お祓いをしたあと、山小屋に1泊する。天然秋田杉やブナの林が広がる登山道を3時間半ほどかけて登り、夜は360度視界をさえぎるもののない広大な星空、早朝には神々しい御来光を仰ぐことができる。勝利成功の神である三吉霊神のご利益にあやかろうと、スポーツ選手が登山行事に参加することもあるという。

里宮の境内からは、太平山を望むことができる

「太平山登ろう会」などの行事にはガイドが同行するため、初心者でも安心して参加することができる

山頂から望む360度のパノラマは格別だ

勇壮に盛り上がる「けんか梵天」

毎年1月17日に里宮で開催される神事「三吉梵天祭(みよしぼんでんさい)」は、秋田の冬の風物詩として知られている。五穀豊穣や商売繁盛、家内安全を祈願して、約60本の梵天と呼ばれる神様が宿る依代(よりしろ)を奉納する祭事で、梵天を担ぐ男性たちが境内で激しくもみあいながら先陣争いを繰り広げるのが特徴。三吉霊神が勝利成功の神様であることから、争いが激しければ激しいほどご利益があるといわれている。最後は太平山に向けて梵天を奉納し、神事を終える。秋田県内では各地で特色ある梵天祭が行われているが、ここの梵天祭はその力強さや勇ましさから「けんか梵天」とも呼ばれ、参拝者も一体となって盛り上がる勇壮な祭りとして有名である。

梵天を担ぎ、勇ましく先陣争いを繰り広げる。町内や企業、団体など約60本の梵天が奉納される神事だ