鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ

雪原に舞う野生のタンチョウを見られる、絶好のフォトスポット

特別天然記念物タンチョウが、冬場にエサが獲れなくなることを憂いたある人物が、1966年(昭和41)にここで始めた給餌(きゅうじ)。それが今につながり、冬になると特に多くのタンチョウが集まるスポットとなった。

タンチョウについて知りたいなら、入り口にあるネイチャーセンターを訪ねよう ※写真提供:日本野鳥の会

釧路湿原の北にある鶴居村は、たんちょう釧路空港から車で40分、JR釧路駅から60分ほどのところにある。特別天然記念物タンチョウの生息地であることから、1937年(昭和12)に「鶴居村」と称するようになった。鶴居村にある「鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ」は、公益財団法人日本野鳥の会が運営している。ここでは雪に閉ざされ、多くの河川などが凍結し、エサの乏しくなる11～3月にかけて、タンチョウに給餌を行っている。サンクチュアリの大部分は、開拓農家としてこの地を開墾し、1966年(昭和41)から個人でタンチョウに給餌を続けてきた故・伊藤良孝さんから提供された土地だ。

給餌場に集まるタンチョウたち写真提供:日本野鳥の会

冬になると、エサを求めたタンチョウが最大300羽ほどサンクチュアリに飛来する。タンチョウの頭は赤い。丹は「赤」で、頂は「てっぺん」。つまり頭が赤い鳥ということから「タンチョウ(丹頂)」の名がついた。ちなみにアイヌ語では「サルルンカムイ」、湿原の神という意味だ。道東を中心にタンチョウの保護が進み、個体数は増えてきている。しかし個体数が回復することで、越冬地への集中化による感染症まん延の恐れ、農場敷地内へ侵入するなどの人との軋轢(あつれき)、交通事故などの問題が起きている。また開発などにより、繁殖地である湿原は減少している。タンチョウにとって給餌場は命をつなぐ大切な場所。サンクチュアリでは給餌活動のほか、繁殖地や越冬環境の保全に取り組んでいる。

頭頂部の赤いところは羽ではなく、ニワトリのとさかのような皮膚。興奮すると大きくなる写真提供:日本野鳥の会

タンチョウの大きさは約150cm、翼を広げると220～240cmもあり、日本最大級の鳥といわれている。オリーブ色のクチバシと、赤い頭頂部、そして白と黒の翼が美しい。北海道では、夏でも野生のタンチョウに遭遇できることがあるが、真っ白な雪の上に多数のタンチョウが舞い降りる給餌場の光景が人気で、冬に好んで観察や撮影に訪れる人が多い。2月中旬にはつがいによる求愛のダンスが見頃を迎える。タンチョウの雄と雌はほとんど見分けがつかないが、雄は「コー」、雌は「カッカッ」と鳴く。つがいになると生涯、同じパートナーと添い遂げる。

求愛のダンス。この光景を目当てに冬場にはカメラマンが集まる写真提供:日本野鳥の会

サンクチュアリのネイチャーセンターは、給餌を行わない夏期(4～9月)は休館している。冬期(10～3月)は開館しており、給餌が行われている11月半ば以降は休館日(火・水曜、祝日除く)でも給餌場でのタンチョウ観察や撮影は可能。ただし野生の鳥なので必ずいるとは限らない。またここでの撮影や観察は、タンチョウの保護が第一。どんなに近くで見たいと思っても、立ち入り禁止区域には入らないこと。大声を出す、ドローンおよびフラッシュ撮影など、タンチョウを驚かせる行為も厳禁。かわいいからといって、エサをあげるのはもってのほかだ。タンチョウの生息地や越冬地を守るため、ボランティアの受け入れも行っている。古くから日本画の題材にも選ばれてきた、美しいタンチョウの姿をいつまでも見られるよう、一人ひとりがルールをしっかりと守ろう。