吉水神社

初期書院造の貴重な建築である吉水神社書院

吉野山指折りの絶景地

吉水神社は、もとは吉野山にある金峯山寺の僧坊・吉水院(きっすいいん)だった。神社となったのは、明治時代に行われた神仏分離の政策による。吉野山の中心エリアに位置しており、宿や商店が並ぶ通りに、同社へと導く鳥居と碑が建っている。鳥居をくぐり、ゆるやかな下り坂を少し行くと石段があり、その先に同社の門が見えてくる。この門を入ってまず目を奪われるのは境内から大きく開ける視界。「一目千本」と讃えられるそこは、春になれば「中千本」「上千本」と呼ばれる山肌を埋めるような桜を一望することのできる吉野山きってのビューポイントだ。このダイナミックな景観は、新緑や紅葉、冬景色も、もちろん魅力的だ。

「一目千本」と呼ばれる境内の絶景ポイント

文化財や宝物の展示が充実。撮影もOK！

歴史上の人物との縁も多い。兄の源頼朝と対立し、悲しい最期を遂げた希代のスーパースター・源義経が、愛妾の静御前や弁慶らとともに追手から逃れ、身を隠したのが吉水神社(当時は吉水院)。また現在御祭神として祀られる後醍醐天皇は、京都から脱出して吉野にたどり着き、一時、行宮(皇帝や天皇の一時的な宮殿のこと)とした。2人の痕跡は吉水神社に色濃く残されている。吉水神社の書院(重要文化財)には、義経潜居の間や、後醍醐天皇の玉座の間があり、義経の鎧(重要文化財)など縁の品々の展示も見ごたえがある。写真撮影(フラッシュは控えて)を許可してもらえるので、ひと声おかけして記念としたい。

後醍醐天皇の玉座の間

文化財や宝物の展示スペースも書院内に設けられている

太閤秀吉もやってきた

境内にはちょっとおもしろいものが。弁慶が岩に指で押し込んだと言い伝えられる大きな石だ。よく見ると石の上面に釘が打たれており「弁慶の力釘」と呼ばれている。添えられた立て看板によると、のちの世で豊臣秀吉が、この釘から力を授かろうとしたという。権勢をふるった秀吉は、名だたる武将や茶人など総勢5000人を引き連れて吉野山で花見の宴を開いた。花見の際に本陣としたのが吉水神社で、その折に残された逸話なのだそうだ。太閤との関わりについては、吉水神社書院で展示されている豊臣秀吉愛用の金屏風、秀吉が寄贈した青磁の壺といった宝物、そして花見の際に、秀吉みずから設計したと伝わる桃山様式の庭園などが、往時の栄華をしのばせる。

石の上面の2か所に釘が打たれている

庭園側から書院を眺める