有松・鳴海絞会館

古い町並みになじむ白壁の外観が美しい有松・鳴海絞会館

敷地内には有松・鳴海絞の開祖の碑も

名鉄名古屋本線有松駅を降り、東海道沿いに広がる古い町並みを左に入って、しばらく歩くと見えてくるのが、白壁が美しく映える有松・鳴海絞会館だ。絞りの伝統を次の世代に伝え、理解と普及促進を図ることを目的に1984年(昭和59)に開館した。名古屋市に合併する前の旧有松町役場跡地に建てられ、1階は絞り商品の販売コーナー、2階は絞り職人の「くくり」の実演と、伝統工芸士が手がけた作品や資料を展示するコーナーがある。また、研修室では絞り体験教室が開かれ、みずから絞ったハンカチやTシャツなどを染め上げ、後日返送してくれる。会館の隣には来館者駐車場があり、その奥に有松・鳴海絞の開祖とされる竹田庄九郎の石碑があるので忘れずに見学しておきたい。

伝統工芸士の作品を展示・解説する2階のコーナー

手仕事で生み出す、世界でたった1つの絞り

そもそも有松・鳴海絞とは、糸をくくって固く締めることで防染し模様にする絞り染めで、その技法は100種類以上に及ぶ。1975年(昭和50)には国の伝統的工芸品に指定された。会館2階に上がる階段の壁に詳しい説明パネルが掲げられているので、目を通しておこう。技法は大きく「くくる」「ぬう」「たたむ」の3つに分けられ、すべて手作業となる。ひとりの職人がひとつの技法を極めることが多い。また、絞る力加減や微妙な染色の差によって、世界に2つとないものを生み出せるのが魅力だ。そして、絹や綿、化繊などさまざまな素材に採り入れることができ、応用範囲の広いことが特長となる。この応用を利かせた究極の作品ともいえるものが、2階に展示されている甲冑(かっちゅう)と襖(ふすま)絵だ。甲冑は鎧(よろい)と兜(かぶと)の表面に、襖絵は絵の輪郭や模様部分に絞りの技法を採り入れているというから驚きだ。

名古屋城本丸御殿の襖絵を絞りの技で再現

職人の思いが込められた、種類豊富な絞り商品

絞り技法の幅の広さは、特別な作品だけに生かされているわけではない。1階の絞り商品の販売コーナーには、浴衣から小物まで、日常生活で使えるものがずらりと並ぶ。和装品なら浴衣、洋装品ならワンピースやスカート、Tシャツ、小物類なら扇子、コースター、財布など、絞りが生かせないものはないと思えるほどバリエーションが豊富だ。伝統の技を受け継ぎながら現代の感性も採り入れた商品群に、職人をはじめ有松・鳴海絞をもっと知ってもらいたいという人たちの気概が感じられる。絞りが生み出す独特の凹凸のおかげで、肌に密着しないことから爽やかな着心地となり、衣料品にその良さがいちばん表れるのかもしれない。気軽に購入できるスカーフやハンカチなどが、土産に最適といえるだろう。

和装品から洋装品まで並ぶ1階の販売コーナー

多彩な小物に生かされた絞りの技

絞りや染色の違いで生み出されるカラフルなスカーフ