Osteria Gioia(オステリア ジョイア)

ランチコースの前菜は、自家製野菜をふんだんに取り入れた盛り合わせ

店の食卓に並ぶのは朝採れ野菜

以前勤めていた店が経営難に陥ったとき、目玉になることを考え自家製野菜のレストランを思いついたジョイアのオーナー・飯田博之さん。はじめはハーブだけを栽培するたった33平方メートルの小さな畑だったのが、今では年間100種類以上の野菜を収穫する1980平方メートルもの大きな菜園になった。トマトは南米、イタリア、フランスから直接取り寄せ、ヨーロッパの珍しい野菜はイタリアの種苗会社などから種を調達、近隣の農家に教わりながら、農薬をいっさい使わず有機肥料で野菜を育ててきた。飯田さんのこだわりは自ら作った路地畑の野菜を店の料理に100％使って提供すること。飯田さんがジョイアを立ち上げたのは2010年(平成22)。それから今日にいたるまで、台風や野菜特有の病気などの逆風を経験しながらも、自然から受ける恵みへの感謝を忘れることなく、1つずつ乗り越えてきた。

畑では収穫を待つ野菜が日々色づいていく

畑ボランティアの参加も歓迎

レストランにうかがう前にぜひジョイアの畑を見てみたいと思い、早起きして都内から車を走らせた。朝8時30分には大船駅にほど近い飯田さんの畑に到着。すでに飯田さんはスタッフと2人で黙々と畑作業をしていた。本格的な畑できびきびとナスをもぎ、ズッキーニを収穫する手際のよさにも驚かされた。カゴにはあっという間にたくさんの野菜が積まれていく。収穫だけでなく、作物を育てるための土づくりから始まって、畝(うね)を作って種をまき、間引きをし、ときには支柱を立てたり、ビニールのトンネル掛けを作ったり。畑の仕事はやることが山積みだというのに、飯田さんはお昼のランチ前には店に野菜を持って戻るという。鎌倉は観光シーズンになると大渋滞が起きるので、その時間も考慮すると本当に大急ぎの作業になる。

本日の収穫の一部を手にした飯田さん。うしろには自身の菜園が広がる

あるときから、ジョイアの野菜を食べて興味を抱いた客が畑仕事を手伝いに来るようになったという。それが続いて今では主婦やサラリーマン、料理人など、いろいろな人がボランティアとして飯田さんの畑を訪れている。飯田さんは誰でも歓迎してくれるが、実は畑仕事の役に立てるのは何度も参加している常連さんで、一見(いちげん)さんにできることは少ない。実際、今回お邪魔してみても、役に立つことはなく、見ていることしかできなかった。それでも飯田さんは、土いじりをし、畑で野菜に触れ、自然を感じることができれば、参加資格はあるという。自分が足手まといだと感じながらも、新鮮な空気を体いっぱいに浴び、採れたてのズッキーニの甘さを生で味わうと、ここで作った野菜を使ったイタリアンを食べてみたい気持ちが募っていった。

畑の野菜を楽しめる料理の数々

鎌倉駅東口を出て、若宮大路を鶴岡八幡宮に向かって歩くこと5分。ジョイアは若宮大路の大通り沿いにあるが、少し奥まっているので隠れ家的な雰囲気をもつ。畑にうかがったあと、楽しみにしていた訪問だ。扉を開けるとオーナーソムリエの飯田さんが、畑のときとは別人のようなスマートな姿で出迎えてくれた。きっと土付きの野菜を店に運び入れたあと、あっというまに変身したのだろう。イタリアでスローフードを学んだ飯田さんの店では、ランチメニューにも畑で採れたこだわりの野菜が並ぶ。玉ねぎ、トマト、赤や黄色のピーマン、ズッキーニ、飯田さんの畑で掛け合わせたオリジナルのかぼちゃなど、数えたらきりがない。けれど、ジョイアはベジタリアンの店ではないので、野菜に魚や肉も組み合わせる。前菜だけでなくパスタ料理、魚、肉それぞれのメイン料理、またデザートにいたるまで野菜が使われていたが、決して添え物ではなくメインを引き立てるうまみになっていた。

アットホームな店内。黒板に描かれた絵とメッセージはオーナー・飯田さんの手描き

前菜の盛り合わせとパスタのランチは2200円。写真のパスタは「自家製ツナとアイコトマトの3種チーズのパスタ」

前菜＋パスタに魚か肉がついたランチは3500円。本日の魚料理から「長井港産真鯛の香草パン粉焼き」(この料理は＋500円)

ワインとのマリアージュも楽しいイタリアン

ジョイアのワインリストには銘柄が載っていない。記載されているのは価格と「しっかりした味わい」とか「スッキリ」といったイメージだ。それぞれの客が望む価格帯で好みのものを提供したいと飯田さんはいう。今回ランチの乾杯時にいただいたのはシチリア、Scilio(しりお)というワイナリーのETNA BIANCO(えとなびあんこ)。暑い夏の昼下がりにピッタリのキリッとした味わいのワインだった。また、ジョイアには有志を迎えて料理とワインを楽しむペアリングの会が企画されることもあるという。ペアリングでは1皿ごとに1杯ずつそれぞれの料理にあうワインを飯田さんが選んで提供してくれる。料理にあう畑の野菜とソムリエ厳選ワインのマリアージュはなんとも楽しみで、野菜もワインもお互いを引き立てあうことだろう。これにはぜひ参加してみたいと思った。

メインの肉料理をサーブする飯田さん。この日の肉のメインは脂身が淡泊でおいしい山梨県美桜(みおう)鶏のロースト

店舗裏側にもある入り口脇には1席のみひっそりとテラス席が設けられ、ペット同伴も可能