文化も自然も美食も!東京・小金井「はけの森美術館」を散策する


2020.02.14

トラベルjp 旅行ガイド

現在も美しい自然が残る東京都・小金井市には、近代洋画壇の重鎮・中村研一がかつて居を構えたアトリエがありました。藤田嗣治ら著名な文化人も多く訪れた中村の旧宅は、現在は「市立はけの森美術館」として一般公開されています。今回は見どころたくさんのはけの森美術館をご紹介します!
洋画家・中村研一と「はけ」
中村研一は1895年に生まれ、岡田三郎助に学んだのち帝展、日展等で活躍しました。妻をモデルにした婦人像や、国内において藤田嗣治に次ぐ数の戦争画の制作を残したことでその名を知られています。もともとは代々木初台にアトリエを持っていたものの、1945年の東京大空襲でアトリエと画材道具を失いました。終戦直後の新たな生活のスタートに小金井を選んだ中村は、1967年に亡くなるまでこの地で制作を続けました。
中村の旧宅周辺の地域は「はけ」という名称で親しまれています。この「はけ」とは、武蔵野台地の崖線を解説する際に使われる方言であり、小金井では国分寺崖線を指します。
「はけ」の周辺は湧水豊かな地域で、それを利用した邸宅・庭園が中村の邸宅を筆頭に数多くつくられました。こうした恵まれた環境は小説の舞台としても魅力があったようです。戦後を代表するベストセラーとなった大岡昇平作「武蔵野夫人」では、この地に住む人物が主人公となっており、また「はけ」そのものについても触れられています。
選りすぐりの作品がいっぱい!「はけの森美術館」
中村の死から約20年後の1989年、妻富子は作品を後世へ伝えるべく、彼の貴重な作品群のコレクションを展示の中心とした「中村研一記念美術館」を開館しました。
美術館はのちに小金井市に寄贈され、改装を経て、2006年に現在の「はけの森美術館」に名称が変わりました。
館内では、中村の油彩画、素描、陶芸作品を主に展示しています。油彩画は夫人の富子氏をモデルにした裸婦像が中心ですが、果物や花などを描いた静物画も多く残っています。
また、素描も数多く展示されており、特に見ておきたいのが「猫」の素描画です。子猫、成猫、丸くなった姿にきちんと座って佇んでいる姿などバリエーションも広いので、猫がお好きな方はぜひ一度ご覧になることをお勧めします。
館内にはそのほか、愛用していたパレット等の絵画用具など、生前の中村を知ることができる貴重な遺品も展示されています。
さらには、年間4回程度の展示替えで行われる所蔵作品展のほか、年に1,2回ほど美術館の企画による特別展なども開催されています。ほかにも子供向けの教育プログラムが組まれるなど地域の芸術文化活動の拠り所となっており、幅広い年齢層の人々が訪れやすい場所となっています。
散策にも最適!「美術の森」と「花侵庵」
はけの森美術館の敷地内には、「美術の森」と呼ばれる緑地があります。国分寺崖線の貴重な自然を残すため保全されている場所で、広々とした森の中にたくさんの種類の動植物がすんでいます。
崖のところどころからは豊かな地下水が湧き出ており、散策に訪れる人の目を楽しませています。また周辺には大きな道路等もないため、喧騒から離れた静かな場所で自然を満喫することができます。
緑地の中ほどには「花侵庵(かしんあん)」と呼ばれる茶室があります。老朽化のため現在は一般公開されていませんが、2018年に市内の建造物では初の国登録有形文化財に登録されました。
建築・設計に携わったのは、日光プリンスホテルの設計や施工でも知られる佐藤秀三です。
建物だけでなく内部の家具や照明の製作を独自に手掛け、建築をトータルでデザインするなど、非常に先進的な取り組みを行っていました。この茶室も、建築素材に中村の邸宅と同じ古材を用いるなど、随所にこだわりが見られます。
中村の日記にはしばしば、茶碗を愛で、自ら作陶に打ち込んだという記述も登場しており、実際に彼の作品の中には茶碗もいくつか存在します。「茶」に対して強い興味があった中村は、それを実践できる空間を設けることで理想的な住環境を実現しようとしたのでしょう。
オシャレな内装に美味しい食事!「はけの森カフェ」
素敵な作品と敷地いっぱいの自然を楽しんだら、ラストはぜひ美味しい料理で締めくくりましょう。美術館の緑地内にある「Musashino はけの森カフェ」では、地元産の新鮮な野菜を使った料理や、美味しいスイーツ、ドリンクなどを楽しむことができます。
中村は、実は美食家でもありました。往時の中村家の家庭料理をイメージしたというカフェメニューの一押しは、中村が親しんだライスカレーをもとにアレンジした「はけの森特製欧風ビーフカレーセット」です。国産の牛すね肉を煮込んだルーと、玄米との相性は抜群。セットにはピクルスとサラダもついており、大変ヘルシーです。
カフェではそのほか、日替わりキッシュや野菜のスープ、ケーキなども提供しています。特に一つ一つ店内で焼き上げているケーキは絶品です!焙煎したてのコーヒーと一緒に、ぜひ一度お試しを。
三角形の大屋根が特徴的なこちらのカフェは、旧中村研一邸を改装したものです。
茶室と同じく佐藤秀三の設計であり、切妻造りの二階建ての伝統木造を基調として、客間兼居間と食堂を一空間で設けるなど現代的な空間構成を取り入れています。
また、カフェの中には中村の一生を知ることができる書籍のほか、作品が掲載された画集も置かれており、自由に読むことができます。
暖炉が残り、明るい日の光が差し込む空間は、のんびりと芸術や食文化を楽しむのにうってつけです。
建築、絵画、食文化とさまざまな魅力がつまった「はけの森美術館」。ぜひ一度訪れてはいかがですか? 

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はけの森美術館
rating

4.0

10件の口コミ
place
東京都小金井市中町1-11-3
phone
0423849800
opening-hour
10:00-17:00
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