神奈川県小田原の江之浦測侯所で、人類とアートの起源を感じる


2018.01.11

トラベルjp 旅行ガイド

現代美術家・杉本博司氏が構想10年、設計10年の歳月を経て、2017年10月にオープンさせた「小田原文化財団・江之浦測侯所」。
相模湾を望む1万1500坪の斜面に、茶室、舞台、門、石など、様々な時代の建築作品が集められ、それらの歴史を踏まえつつ、素晴らしい景観と合わせ、感覚を研ぎ澄ませて過ごす楽しさは格別。
美術館でも公園でもないこの場所のパワーを、体全体で感じて下さい。
自然に抱かれた、癒しの空間
JR東海道線根府川駅から、シャトルバスで約10分。
「江之浦測侯所」は、嘗てのみかん畑だった山の斜面に造られたこともあり、相模湾が眼下に広がります。1年を通して日当たりがよく温暖で、自然に恵まれた、まるで桃源郷のような場所。
アートを鑑賞するためのギャラリー棟、光学ガラスでできた舞台、巨石を使用した石舞台、千利休の「待庵」を写した茶室などで構成されるこの施設。現代美術作家にして、写真家、建築家、さらに文楽の総合監督などの、多彩な顔を持つ杉本氏の集大成だと言っても過言じゃありません。
駐車場からゆるい坂を上がって最初に訪れるのが、受付でもある「待合棟」。建物は4面をガラスで覆われたモダンな造りで、箱根の外輪山を望むことが出来ます。
ここで、施設の詳細や注意事項を聞き、後は自由行動。
地下にはロッカーも完備されているので、大きな手荷物は預けるのがベターです。
また、施設の全てで写真撮影が可能なので、カメラは忘れずに持って行きましょう。
この「待合棟」で目を見張るのは、中央に置かれた大テーブル。これは、樹齢1,000年を超える屋久杉が使われているとの事。
その荒々しく削られた天板には、高野山の末寺・大観寺にあった、石の水鉢がテーブルを支えるように埋め込まれていて、これも作品の1つとなっています。
アートと太陽との関わりが存在する場所
受付を済ませて、待合棟の前にある「100mギャラリー」に入ってみましょう。
海抜100m地点に立つ、100mのガラス張りのギャラリーで、ガラス窓には柱が1本も無い状態の、37枚のガラス板が使われています。また、片側の壁は大谷石の自然剥離肌に覆われ、ガラス窓とは対照的な力強さを感じます。
ここには、杉本氏の代表作である、水平線をテーマにした「海景」シリーズ7点を展示。
ギャラリーの先端部の12mは、海に向かって張り出されている大胆なデザインは、夏至の海から昇る太陽の光が、このギャラリーを真っ直ぐに駆け抜けるような設計になっています。
古き時代への想いが偲ばれる、建造物の数々
「100mギャラリー」より北側にある庭園には、日本各地から集められた貴重な建造物があり、その置かれている位置にも、太陽との関わりが。
「雨聴天(うちょうてん)」という茶屋は、千利休作と言われている「待庵(たいあん)」という茶室を模したもので、「待庵」は利休の目指した侘び茶(豪華な茶の湯ではなく、簡素簡略の境地すなわち「わび」の精神を重んじたもの)の1つの完成形と言われています。「雨聴天」も、屋根には嘗てみかん畑にあった小屋のトタン屋根を利用するなど、利休の精神を受け継いでいるとわかり、とても興味深いでしょう。
また手前の「石造鳥居」は、山形県小立部落にある重要文化財の石鳥居の形式に準じて組み立てられており、春分・秋分の日の出がこの鳥居を通って、茶屋に差し込む仕掛けになっています。
中央に大名屋敷の大灯篭を支えていた伽藍石を置いた「円形石舞台」。周囲には京都市電の敷石を放射状に敷き詰めてあり、舞台の周りを、江戸城の石垣の為に切り出された巨石が取り囲みます。
ここで面白いのは、この「円形石舞台」から「100mギャラリー」の向こう側まで、約70mの鋼製の隧道(トンネル)作られています。この通路を「冬至光遥拝隧道(とうじこうようはいずいどう)」と言い、この先にある相模湾から昇る、冬至の日の出の軸線に合わせて造られているのです。
「冬至光遥拝隧道」の中央には、採光の為の「光井戸」があります。井戸枠は、室町時代のものとされていますが、はっきりした年代はわかっていません。
井戸の中には光学硝子破片が敷き詰められ、雨天時には、天井に開いた窓から雨粒が注ぐ仕組みで、真っ暗闇の隧道で、ホッと落ち着く場所でもあります。
相模湾を望む、光り輝く硝子舞台
相模湾に向かって、山の斜面に造られているのが「光学硝子舞台」と「古代ローマ円形劇場写し観客席」。そして舞台の脇に造られている茶褐色のものが「冬至光遥拝隧道」。つまり北側の「円形石舞台」から隧道を抜けてくると、こちらに辿り着くという訳。
硝子舞台は、京都の清水寺で知られる檜の懸造り(かけづくり)で、その上にはカメラレンズにも使われている、光学硝子が敷きつめられています。
更に観客席は、イタリア・ラツィオ州のフェレント古代ローマ円形劇場跡を実測して再現。この観客席から、硝子舞台が水面に浮いて見えるようになっているので、チェックしてみて下さい。
これ以上先へは、立ち入り禁止。
この石は施設各所の立ち入り禁止区域に、そのしるしとして置かれていますが、この隧道の上は周りに囲いなど一切無いので、命の保証はしませんという意味もあるのかもしれません(笑)。しかし、この上で相模湾を眺める爽快感は、何物にも代えられないものがあります。
石の持つ存在感に圧倒される庭
硝子舞台の後ろ側にある、美しく砂紋が施された庭に配されているのは、古代から近代までの貴重な名石。
天の岩戸伝説にインスピレーションを得たという「石舞台」は、能舞台の寸法を基本に計算され、この地から出土した夥しい数の転石を主に利用。舞台四隅の偶石には、江戸城石垣の巨石、また橋掛りに使われているのは、福島県川内村の23トンもの巨石です。
そして、この石橋の軸線も、春分・秋分の朝日が相模湾から登る軸線に合わせて設定されています。
藤原京の石橋が移築して造られた石塀。
藤原京は、日本初の唐風都城として作られた、平城京や平安京よりも広い古代最大の都で、この石橋は城内にあった旧家の庭にあったもの。
この様に、普通の庭園だったら、何も考えずに素通りしたり、踏みつけてしまいそうな石も、ここではことごとく意味や歴史があるのです。
藤原京の石橋の手前にあるのが「明月門」。駐車場から上がってくると右手に見える門で、スタッフの方が、ここで来客の送り迎えしてくれる場所でもあります。
室町時代に鎌倉の建長寺派明月院の正門として建てられこの門は、数奇な運命を経て、2006年に東京・港区にある根津美術館から寄贈され、ここに移築されたもの。
建築様式としては、室町期の禅宗様式。塀は竹を半割にして並べた木賊張りという方法で造られていて、その代表的なものに、桂離宮表門や伊勢神宮茶室などがあります。 

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小田原文化財団 江之浦測候所
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4.5

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place
神奈川県小田原市江之浦362-1
phone
0465429170
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