ラーメン官僚が激推しする大田区の新星ラーメン店『ひなり竜王』の死角皆無な一杯とは?


2022.12.08

食楽web

食楽web 京急本線の品川-京急蒲田駅間は、駅周辺に、そこに住む人々の生活の息吹が身近に感じられるノスタルジックな街並みが広がるエリアが多く、特に街歩きが好きな人にとっては、“天国”のようなゾーンです。 中でも、今回とり上げる『らーめん亭 ひなり竜王』の最寄りとなる梅屋敷駅周辺は、駅の改札を出てすぐに大きな商店街が東西に伸びる、生活感に満ちあふれたエリアです。『ひなり竜王』は、これら2つの商店街のうち、「梅屋敷東通り商店街」をひたすら直進した場所の左手に鎮座。駅から徒歩で7~8分。具体的には、産業道路に出る少し手前。同商店街の出口付近に位置します。梅屋敷の隣駅である大森町駅からも徒歩10分弱ですが、梅ヶ丘駅からアクセスしたほうが、道中の景色が変化に富んでいて圧倒的に楽しいのでオススメです。商店街の風景に違和感なく溶け込む『ひなり竜王』。既存の環境を肯定的に受け入れ、馴染もうとする姿勢は、ラーメン店のみならず、新参の飲食店が地元に根付くために必要不可欠な要素 さて、この『ひなり竜王』。都内で活動するラーメンマニアにとっては周知の事実でしょうが、東京城南エリア屈指の実力店『中華そば 和渦TOKYO』(北品川)の4thブランド。以前、このコラムでご紹介した『MENクライ』(浜松町)と同グループに属するお店です(ちなみに、『MENクライ』は、『和渦』の2ndブランド)。 現在、同店の店長を務めているのは、我満(がまん)真也氏。『和渦グループ』4店舗を率いる高橋宏幸店主を師と仰ぎ、高橋氏が恵比寿の『九十九ラーメン』で店長を務めていた頃から、共に苦楽を分かち合ってきた直弟子。つまり、我満店長は、高橋店主のラーメンづくりのノウハウを知り尽くした作り手の一人ということになります。 最近、『和渦グループ』内で、各店舗の厨房に立つ職人配置の見直しが行われ、我満氏は『ひなり竜王』を任されることになったそうですが、グループの最新店舗に重鎮を配置し、円滑な立ち上げに盤石を期す。店舗経営の要諦を的確に押さえた、素晴らしい判断だと思います。すべてのメニューがハイクオリティ! 『ひなり竜王』のラーメンの旨さの秘密とは?シンプルな店内。無駄な要素が一切なくラーメンに真剣に向き合える空間 現在(私が最後に『ひなり竜王』を訪問した2022年11月12日現在)、同店が提供する麺メニューは、「醤油らーめん」「塩らーめん」「つけめん(醤油)」「つけめん(塩)」の4種類と、そのバリエーション。上から3列目に「まぜそば」のボタンもありますが、現在「×印」が点灯中でした(※1)。『和渦グループ』の「汁なし」は、先行店舗である『MENクライ』や『手打式自家製麺メイドインヘブン』(京急蒲田)(※2)において絶賛提供中であり、類似の品を出すつもりであれば、すぐにでも商品化できたはず。なので、『ひなり竜王』の汁なしは、既存のものとは全く異なる新しい味になるかもしれません(確証は持てませんが)。登場が楽しみですね!(※1) 2022年11月12日時点で「まぜそば」は開発中だったが、その後、同年11月29日より、店舗にて提供を開始(※2) 『手打式自家製麺メイドインヘブン』とは……『和渦グループ』が手掛けるラーメン店の3rdブランド。2022年5月2日、京急蒲田駅の近傍に開業。「油そば」「もち小麦油そば」等の汁なしラーメンを主力メニューに据えている。手前が「塩らーめん」1000円、左が「つけめん(塩)」1100円、右が「醤油らーめん」1000円 我満店長のオペレーションは、さすが経験豊富なベテラン職人だけのことはあって、動きに一切の無駄がありません。「醤油」「塩」「つけめん」のいずれも、食券を渡してから数分も待てば、手元へと差し出されることでしょう。「醤油らーめん」「醤油らーめん」、「塩らーめん」は、丼の中央部に、調理技法の粋を尽くして創作された大判の『岩中ポーク』の低温調理チャーシュー、厚みのある『信玄鶏』のモモ肉が、まるで海面から突き出した巨大な岩のごとく、ドカンと鎮座。「塩らーめん」 また、これらの肉によって形作られた塊の頂上部に、ネギ、細切りメンマなどのトッピングが品良く盛り付けられ、色彩的、視覚的に華を添える役割を担います。細かな話ですが、「醤油」には刻み青ネギ、「塩」には白髪ネギと三つ葉を配するなど、メニューによって合わせる薬味に変化を付けている点も、特筆に値するところ。「つけめん(塩)」「つけめん」では、これらの肉類が、別皿かつ塩付きで提供され、あたかも麺とスープの“肴”のような感覚で、フルボディの肉の味わいを堪能できます。これらをひとところに包み込む丼として、保温性に優れた有田焼を採用している点も、看過することができないポイントでしょう。「有田焼には、スープの塩カドを抑え込み円やかにする効果があります。スープを構成する様々な素材の持ち味を活かし切るために、丼には有田焼を用いることにしました」と我慢氏。食べ手が感じ取る食味の機微に、ここまで思いを巡らせることができる。その気配りの細やかさに、頭が下がるばかりです。心地良く、旨そうな香りが立ち上るスープ スープ(出汁)は、トッピングの肉として使われている岩中ポークと信玄鶏に加え、浜の漁師が手間ひまを掛けて干し上げた天然真昆布、香り高い椎茸、甘味と滋味を潤沢に蓄えた香味野菜を、素材ごとに最適なうま味抽出時間を計算しながら炊き上げたもの。まるで体液のように、エキスが体中の細胞へと沁みわたる滋味の塊です。 スープ(出汁)に合わせるタレ(カエシ)にも一切の妥協はありません。「醤油ダレ」は、店内で火入れした数種類の木桶仕込みの生揚げ醤油をブレンド。加えて、コハク酸が凝縮したアサリ出汁を溶け込ませることで、濃密で力強いうま味を表現。「塩らーめん」のスープ「塩ダレ」は、沖縄のシママース、宮古島の雪塩に、香味野菜のナチュラルな甘味を過不足なく添えることで、スープの素材感を引き立たせる、穏やかで余韻のある味わいを演出。「醤油らーめん」のスープ「『醤油』は、骨太で雄々しいカエシの骨太な風味を前面へと押し出した構成、『塩』は、出汁の素材感を徹底的にクローズアップした構成となっています」と我慢氏が言うように、確かにスープをすすると、「醤油」は、アサリと醤油とが融合して生まれる芳醇な風味が、出汁と真っ向からせめぎ合う構成、一方の「塩」は、出汁を構成する等身大の各種素材のうま味がダイレクトに楽しめる構成となっています。味の構築の仕方は「醤油」と「塩」とで全く異なるものの、いずれも、レンゲを持つ手が止められない垂涎の味わい。「つけめん(塩)」のつけ汁。昆布水に浸かった麺との相性が絶妙 ラーメンのスープだけではありません。つけ麺の麺を浸す昆布水も、他店のそれとは一線も二線も画した完成度を誇ります。「津軽海峡に面した最高の産地で採取された『黒口浜真昆布』を用いています。この昆布は、防カビ剤が接触しないよう、浜に敷かずに吊るして干し上げています。味も極上ですよ」(我慢氏)麺。左「醤油らーめん」、右「塩らーめん」 これらに合わせるのは、小麦粉の種類・配合から、加水率・厚み・太さに至るまで、何十回となく試行錯誤を重ねて開発した自家製麺。「スープとの一体感をしっかりと確保しながらも、スープに競り負けず、毅然と存在感を示す。そんな麺を生み出すため、日夜、麺生地との格闘を繰り広げました」という我慢氏の言葉通り、なめらかでモッチリとした触感から、すすり心地の快適さ、食感のみずみずしさに至るまで、随所に研鑽の跡が垣間見える、非の打ちどころのない逸品。 北海道産小麦を100%用いた中華麺用の粉である「和華」をメインに紡ぎ出した手打ち式の麺は、適量のスープを確実に口元へと運び込み、食べ手を恍惚の境地へと誘います。「醤油」「塩」「つけめん(塩)」。そのいずれもが、開業したばかりの新店とは思えないほどのクオリティの高さを誇る傑作。最近オープンした新店の中では、夜営業の終了時間が22時30分までとかなり遅めであることも、特に社会人にとっては、ありがたく感じるところでしょう。ご興味のある方はぜひ万難を排して足を運んでみてもらいたいと思います。我満真也店長のプロフィール・恵比寿の人気店『九十九ラーメン』での修業中に、当時、同店で店長を務めていた高橋宏幸氏と出会い、同氏を師と仰ぐように。高橋氏のラーメンづくりに対する真摯な姿勢に感銘を受け、ラーメン職人として生きていくことを決意する。・高橋氏が『和渦』を立ち上げるタイミングで、同氏の右腕として『和渦』グループへと移籍。以降、グループ内の各店舗において、メインとなる作り手のひとりとして八面六臂の活躍を見せる。現在は、グループの最新店舗である『ひなり竜王(2022年9月14日オープン)』の店長。・『ひなり竜王』の屋号は、「将棋の駒の『飛車』のように、真っ直ぐにラーメンづくりに取り組み、やがては、数多くの人々に愛される『竜王』のような存在になりたい」という想いが込められたもの。店長自身も、店に恥じない作り手になろうと、日々、邁進中。●SHOP INFO店名:らーめん亭 ひなり竜王住:東京都大田区大森中2-14-17TEL:非公開営:11:00~14:30、18:00~22:30休:日曜●著者プロフィール田中一明「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。 

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らーめん亭 ひなり竜王
place
東京都大田区大森中2-14-17
opening-hour
11:00-14:30/18:00-20:30
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