こんな本屋があるから、この町に行きたい_松本編<本とステイケーション>


2021.06.24

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◆こんな本屋があるから、この町に行きたい_松本編<本とステイケーション>
観光旅行以上、移住未満。ローカルの日常を暮らすように楽しむステイケーション。いい本屋のある町はいい町だ、とよく言われますが、「いい本屋」とは、私たちと町をつなぐ窓のようなもの。いい本屋を足がかりに町をのぞいてみれば、きっと知らなかったもうひとつの日常に出会えるはずです。そこで今回は、松本を訪れる理由となる本屋「栞日」の菊地さんに栞日の本と活動の話を聞いてきました。
◆松本を訪ねる理由は、本屋「栞日」があるから
コーヒーは1杯ずつ丁寧にハンドドリップ。朝は7時からオープン、ほぼ毎朝菊地さんが出迎えてくれます
”自分なりのスターバックス”をこの町に作りたいと思ったんです
 北アルプスの山稜を望む長野県松本市。民藝、クラフト、演劇、音楽などさまざまな文化が根付くこの町に、「栞日」はあります。場所は松本駅からあがたの森公園へとまっすぐに伸びる大通りの中ほど。ガラス扉を開けると、店主の菊地徹さんが満面の笑顔で迎えてくれました。
 「ここに来る前どこか寄りました?ああ、珈琲美学アベ。あそこのお父さん、最高ですよねえ」
 本屋の店主というより、気さくな町のお兄さんといった雰囲気。店内に並ぶ本はリトルプレスやZINE などエッジの効いた独立系出版物が中心ですが、近寄りがたさがまったくないのは、菊地さんの親しみやすいキャラクターによるところが大きいのかもしれません。
栞日ブレンド500 円、メープルナッツスコーン350 円。焼き菓子は菊地さんの妻・希美さんの手作り 
 静岡出身の菊地さんが、ここ松本に「栞日」を開いたのは8年前。その経緯は、実に意外なものでした。
 「本屋をやりたかったというより、誰かの居場所をつくりたかったんですよね。僕はもともと国際協力に関心があって、大学では国際関係学を専攻したんです。でもいざ勉強し始めると、扱うスケールが大きすぎて、果たして自分がやる意義があるのだろうかと疑問が湧いてしまって」
 そんな折に始めたのが、スターバックスコーヒーでのアルバイト。これが大きな転機となります。
 
「お客さんは近隣の方が多かったんですが、みんなお店に入ってきたときより、出て行くときの方が少し上向きな気持ちになっているのが表情からわかるんです。僕が淹れたコーヒーや交わした会話でそれが叶うのであれば、これこそ自分の性に合うスケールの仕事だなと思ったんですよね。そのときから、“いつか自分なりのスターバックスを作りたい”と考えるようになりました」
文芸誌や詩集など、じっくり向き合える書物が多数。今回おすすめしてくれたのは、ウチダゴウさんの詩集『鬼は逃げる』( 三輪舎)、美術作家・永井宏さんの言葉を集めた『愉快のしるし』( 信陽堂)、地域を再発見するためのヒントが詰まった雑誌『日常』( 真鶴出版)の3冊
 自分なりのスターバックスとはつまり、地域の人が自宅や職場以外でホッとできるような、もうひとつの居場所のこと。屋号は大学の講義中にノートに書き出して考えた結果、「栞日」に決めました。
 「日常に栞を差す日という意味で、日々の句読点となるような場所を作れたら、と」
 その「栞日」を作る機会は、それから6年後にやってきました。場所は大学卒業後に就職した温泉旅館のある松本です
「なんの店をやろうかと、いざ町を見渡してみると、本屋のバリエーションが少ないことに気付いて。当時の松本には大きな新刊書店やいい古本屋さんはあったけれど、インディペンデントなセレクトブックストアはなかったんです。松本は物づくりをしている方も多いので、彼らのクリエイティビティを日常的に刺激する場所があってもいいのではないかと思ったし、僕自身もともと本が好きで、好きなものならやり続けられるという思いも後押ししました」
旧店舗の2Fから上を毎回1組限定の中長期滞在者向けの宿「栞日INN」に改装。調理器具や食器、洗濯機なども備え、松本に暮らすような滞在が可能に
 それから8年。その間、栞日は旧店舗から数軒隣の今の場所へ移転をしました。新しいお店は面積が約2倍に。棚も大きくなり、アートブックなどより尖った本にも出会えるようになりました。その後、旧店舗を中長期滞在者向けの宿「栞日INN」に改装、一昨年には蔵を改装したギャラリー「栞日分室」も誕生しました。
 「自分の中で次のステージが開けたなと思うのが栞日INNの開業ですね。都会で暮らす人が一時的なワークスペースとして使ったり、移住検討組にとっては地元の肌感を感じられる場所を作れたのかなと思います」
先代オーナーから引き継ぎ、古きよき佇まいはそのままに、より幅広い層が楽しめる銭湯にアップデートされた「菊の湯」。ロビーにはオリジナル銭湯グッズも
この町の日常と地続きの場所を作りたい。菊地さんの中でそうした思いがさらに強まった頃、さらなる転機が訪れます。なんと、通りを挟んで向かいにある銭湯「菊の湯」の経営を引き継ぐことになったのです。
 「実は継承のお話をいただく前から、銭湯のあるこの町の風景を守りたいと考えていて。銭湯って、地域のおじいちゃん、おばあちゃんが集まって、毎日のように井戸端会議が繰り広げられているじゃないですか。こういう地域にとって欠かせない居場所作りこそ、僕がやりたかったことだと。学ぶべき場所がこんなに近くにあったと気付いたんですよね」
 わずか22坪の小さなお店から始まり、今では宿にギャラリー、さらには銭湯と、本屋の域を超えて活動の幅を広げる菊地さん。
 「事業内容がバラバラですね、とよく言われるんですけど、自分の中では全部『栞日』なんですよね。すべてに共通しているのは、もうひとつの居場所であり、シェルターのような場所だということ。日常からはぐれる先がここにあるから、たまにははぐれていいんだよ、とささやくようなね」
『すこしはぐれて あすは栞日』、店内に置かれた栞のこの言葉が胸に響きます
 ここまで話を聞いて、わかったことがあります。「栞日」での時間が心地いいのは、ここに誰をも受け止めてくれる優しさがあるから。
 『すこしはぐれて あすは栞日』
 店頭に置かれている栞には、ウチダゴウさんによる美しい詩の一節が書かれています。慌ただしく流れていく毎日に栞を差すように、ほんのひととき立ち止まり、他の町の日常を感じてみる。人生にはときにそんな時間も必要で、だからこそ私たちは栞日に足を運ぶのかもしれません
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栞日-sioribi-
place
長野県松本市深志3-7-8
phone
0263505967
opening-hour
7:00-20:00
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