南東北の2大都市、仙台と山形を結ぶのがJR仙山線である。電化された都市間連絡路線で快速電車以外の優等列車や観光列車も定期的には走っていない、と聞くと大して面白くなさそうな路線と言うイメージを与えるかもしれない。しかし、実際に乗ってみると、険しい山の中や渓谷に沿って走り、車窓の楽しみが多い絶景路線である。今回は、途中にある3つの特色ある駅に途中下車しながら、仙台から山形までの旅をご紹介しよう。
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仙山線の3つの駅で途中下車する秘策は?
仙山線は、仙台の近郊路線の役割もあるので仙台駅発の電車は昼間でも1時間に3本ほどある。ただし、仙台駅から25分程の愛子(あやし)駅で折り返す電車が多く、終点の山形駅まで行く電車は、1時間に1本、その半数は快速電車となる。今回の旅の主たる目的である面白山高原駅は、快速が停車しないので、2時間以上も間隔があいてしまう時間帯がある。軽い気持ちで行くのにはちょっと厳しいけれど、上下列車の時刻表をチェックして路線を往ったり来たりすれば、比較的短い滞在時間で楽しめることができるだろう。それを念頭に置いて仙台駅からスタートしよう。
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最初は作並駅で途中下車、周辺の見どころは?
東北地区の普通電車はロングシートばかりで編成も短いという旅には不向きの車両が多いけれど、幸い仙山線の電車は、4人向かい合わせのボックス席が主体でドア付近がロングシートというセミクロスシートの車内だ。指定席はないので、早めにホームに行って、窓側の席を確保したい。
仙台駅を発車し、地下鉄との乗換駅である北仙台を出ると、住宅街が続く。山あいを切り開いて造成したエリアなので、ところどころに未開発のところがあり、早くも山岳風景や渓谷の車窓を楽しめる。多くの電車が折り返す愛子を出ると、いよいよローカル色が強まる。
陸前白沢駅と熊ヶ根駅間で第二広瀬川橋梁を渡る。谷底まで51mもあり、目も眩むようで迫力満点だ。それほど長い鉄橋ではないので、見逃さないようにしたい。第二広瀬川橋梁を渡る
険しい山並みが迫ってくると作並駅に到着。快速に乗れば、仙台駅から35分ほどだ。まずは、ここで途中下車してみよう。
作並駅に到着
この駅は作並温泉の最寄り駅であり、仙台の奥座敷とも言われている。温泉街は駅から歩ける距離ではなく、送迎バスで5分程かかる。また、温泉街とは反対方向にはニッカウヰスキー仙台工場があり、工場見学や試飲もできる。赤レンガの工場はヨーロッパ風で、北海道余市の工場とともに訪れる人が多い。休日には送迎バスが駅前から運行される。
作並駅のホームには、「交流電化発祥地」の石碑がある。大都市近郊以外ではコスト面から普及が進まなかった直流電化に代わるものとして交流電化を進めて鉄道近代化を図ることにしたのだが、その試験線に指定されたのが仙山線だった。その成果が東北地区などの幹線の電化、さらには新幹線にも採用され、日本の鉄道発展の礎となったのが、ここ作並であった。交流電化発祥地の碑
温泉街が遠いこともあって、駅前はひっそりとしている。次の電車を待つ間、ホームからはゴリラ山の愛称がある奇妙な形の鎌倉山も見える。秘境駅とまではいかないけれど、静かでのんびり過ごせる駅である。
作並駅から見える鎌倉山
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面白山高原を素通りして山寺へ
山形行きの電車に乗って、面白山高原と山寺で途中下車する場合、順番に降りていくと、面白山高原駅で長時間足止めを食らう場合がある。そこで、まずは山寺駅を目指そう。
電車は県境の険しい山岳地帯を走り、5361mもの長さのある仙山トンネルをくぐって山形県に入る。快速電車は面白山高原駅を通過し、渓谷沿いを走って山寺駅に到着する。
ホームからは、駅名にもなっている山寺、正式名「宝珠山立石寺(ほうしゅさんりっしゃくじ)」が目の前に見える。1200年ほど前の平安時代に円仁(慈覚大師)が創建した天台宗の寺だ。江戸時代の俳人松尾芭蕉が「閑(しずか)さや岩にしみ入る蝉の声」という句を詠んだ場所として有名で、参道には句碑がある。
断崖絶壁の岩山にしがみつくように建つお寺、その奥の院までは1015段の石段を登らなければならない。日頃運動不足であれば苦行に近いけれど、奥の院から地上を見下ろす眺めは絶景である。壮年の元気な人なら1時間半ほどで上下できるだろう。駅前にはお店も多いので、一息つくことも可能であるし、山に登るのは諦めて駅前で見上げるだけでも楽しく過せるであろう。駅前から見た山寺
山寺の納経堂と開山堂
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いよいよ秘境駅面白山高原へ
時刻表を確かめて、仙台行きの各駅停車に乗ると、7分程で面白山高原駅に到着する。乗ってきた電車がトンネルに吸い込まれるように行ってしまうと、滝の音しか聞こえない静寂が訪れる。かつては駅前にスキー場があり、道路が閉鎖となるため鉄道でしか行けないスキー場として有名であったが、10年くらい前から休止状態で訪れる人は激減した。面白山高原とはいうものの、駅付近は高原というよりは渓谷である。紅葉川渓谷というので秋に訪問するのがベストかもしれない。階段を上って線路をまたぐ陸橋から周囲を眺めてみると、渓谷に注ぐ「藤花の滝」がよく見える。時間があれば小道をたどってハイキングするのもいいけれど、陸橋から滝と周囲の情景を眺めているだけでも癒されるであろう。
面白山高原駅ホーム
面白山高原駅から見える藤花の滝
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山形新幹線に乗り換えても車窓の楽しみは続く
次の電車に乗ると、先ほど途中下車した山寺を通り、25分程で山形駅に到着する。首都圏へ向かうために山形新幹線に乗り換えても、絶景を眺める車窓の旅は続く。山形新幹線とは言うものの福島までは在来線を走るので、山形盆地から眺める蔵王連峰、米沢から福島までの板谷峠の車窓は見ごたえがある。
首都圏と仙台を往復するとき、時間に余裕があれば、片道を仙山線&山形新幹線にしてみるのもおススメだ。途中下車をする暇がなく、通り抜けるだけでも結構満足できる列車旅となるであろう。
2019年春の場合、山寺駅から一旦面白山高原に戻り、30分程の滞在時間で山形方面へ向かう列車ダイヤは、午後の場合、以下の2通りのみである。
山寺15:14⇒15:21面白山高原15:54⇒16:01山寺⇒16:25山形
山寺17:16⇒17:23面白山高原17:53⇒18:00山寺⇒18:21山形
真夏であれば、夕涼みを兼ねた2番目の行程がいいかもしれない。30分程の滞在時間でも充実した途中下車の旅が楽しめると思う。