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JRKYUSHU SWEET TRAIN「或る列車」で優雅な旅を楽しもう

 かつては軍港として栄え、戦後は米海軍基地があり、佐世保バーガーといったエキゾチックなご当地グルメでも知られる佐世保。その玄関であるJR佐世保駅の一番海側にある6番線ホームからは、入港しているクルーズ客船や航海練習船の雄姿が望まれる。他のホームに比べて発着する列車が少ないためか人影もまばらな6番線の中ほどに赤い絨毯が敷かれ、やがて早岐(はいき)方面から金色の車体を朝陽に輝かせながら2両編成の列車がやってきた。港に停泊中のクルーズ客船に勝るとも劣らない豪華な列車は「或る列車」という名前で、JRKYUSHU SWEET TRAINという別称でもわかるように車内で食事、とくにスイーツが提供されるグルメ列車である。なお、「或る列車」は季節により、大分コース(大分~日田)と長崎コース(佐世保~長崎)の2種類がある。今回乗車したのは、長崎コースだった。

目次

  • 「或る列車」とは

  • クラシカルな内装の1号車、落ち着いたコンパートメント式の2号車

  • スイーツに舌鼓を打ちつつ、風光明媚な景色を楽しむ

  • 「或る列車」とは

     「或る列車」とは、明治末期に九州鉄道がアメリカのブリル社に発注した豪華な5両編成の客車のことである。完成時には九州鉄道は国有化され、運営主体が変更になったためもあり、この車両は充分に活用されないままいつしか消えてしまった。車両の正式名がなかったため、ミステリアスな運命をたどったこの車両は「或る列車」と呼ばれ、後年、鉄道模型愛好家の原信太郎氏が模型化した。2012年に横浜にオープンした原鉄道模型博物館に「或る列車」の模型が展示された頃から、「或る列車」はにわかにクローズアップされ、2015年に原氏の子息原健人氏の協力により水戸岡鋭治氏がデザイン・設計を担当、「或る列車」のコンセプトを現代に活かした車両が誕生した。諸般の事情から5両編成ではなく、2両編成のディーゼルカーであるが、キロシという形式名でも分かる通り、グリーン車以上の豪華さをもった食堂車として走り始めたのである(キ=気動車<ディーゼルカー>、ロ=グリーン車、シ=食堂車を意味する)。また、この列車の「或る」ARUとは、A=Amazing(素晴らしい)、R=Royal(豪華な)、U=Universal(世界中の皆様に愛される)の意味をかけているとのことだ。

    左/乗車証の入ったフォルダーおもて 右/乗車証の入ったフォルダーうら

    左/乗車証の入ったフォルダーおもて 右/乗車証の入ったフォルダーうら

  • クラシカルな内装の1号車、落ち着いたコンパートメント式の2号車

     乗車時間となったので、レッドカーペットを踏みしめながら車内へ。アテンダントさんに誘導されながら席へ向かう。入口は一ヶ所に限定されているため、1号車の前のドアから入り、2号車へ向かう。

    1号車車内

    1号車車内

     1号車は、明るいメープル材を使った広々とした空間で、2人用あるいは4人用のテーブル席が並んでいる。厨房を横に見ながら2号車へ。そちらは通路をはさんで両側に個室が並んでいる。ややダークな茶系の落ちついた色とウォールナットの組子に囲まれた個室は高級感が漂う。そのうちの一部屋が、これから長崎までお世話になる席である。すでにお弁当の箱がテーブルに据えられていた。

    2号車車内、両側に個室がある

    2号車車内、両側に個室がある

    2人用個室

    2人用個室

     発車時間になり、列車はゆっくりとホームを離れる。横断幕を持ち、小旗を振る駅員さん達に見送られながらの旅立ちだ。まもなく、女性アテンダントさんが、ウェルカムドリンクを持って挨拶にやってきた。オレンジジュースあるいはスパークリングワインのどちらかを選べる。お昼前で少々気が引けたのだが、食がすすむようにワインに決めた。九州の宮崎産とのことだ。

    ウェルカムドリンクを運んできたアテンダントさん

    ウェルカムドリンクを運んできたアテンダントさん

     テーブル上の弁当箱を開けると、大分県国東半島産の牡蠣の炊き込みご飯、長崎県産トラフグと白菜、大分名産のカボスのポン酢サラダ、佐賀県産みつせ鶏のモモ肉と紅芯大根など、いずれも九州産の食材を使った軽食が用意されていた。「冬の陽だまり」と題された食事とこれからでてくるスイーツは、東京・南青山のレストランNARISAWAのオーナーシェフ成澤由浩氏がプロデュースしたものであり、食はもちろんのこと食器の選定にまで工夫を凝らしているとの説明があった。

    「冬の陽だまり」

    「冬の陽だまり」

  • スイーツに舌鼓を打ちつつ、風光明媚な景色を楽しむ

     列車は、早岐で数分停まった後、大村線に入る。まもなく右手にはヨーロッパのお城のような建物が見えてきた。テーマパーク「ハウステンボス」に隣接したホテルだ。川のような早岐瀬戸と呼ばれる狭い海峡、つまり海の対岸にオランダを模した街並みが再現されている。ハウステンボス駅までは博多から特急列車が運転されているけれど、或る列車はあっさりと通過してしまう。

    車窓から見たハウステンボスのホテル

    車窓から見たハウステンボスのホテル

     やがて右手に大村湾が広がり、列車は海岸沿いに走っていく。彼杵(そのぎ)を通過する頃から、スイーツが運ばれてきた。まずは、紅茶のプリンでみかんなど柑橘類のミックスソースが添えられている。柑橘類は佐賀県と熊本県産のもので、選び抜かれた農家のものを使うこだわりがある。また「告白」というタイトルが付けられ、食事とスイーツ全体のコースは「想い」と命名され、ストーリー性のある内容としているところが興味深い。

    紅茶のプリン

    紅茶のプリン

     食べていることに夢中になっていると車窓にはそれほど注意がまわらない。それを見越してか、車内の窓は決して大きくはなく、むしろ食事に集中できるようなインテリアとも思える。しかし、たとえばドアの窓にはめ込まれているステンドグラスは、注意して見ると、車窓の海が映っていて或る意味幻想的な情景を楽しむことができた。

     列車はいつの間にか大村を過ぎ、諫早からは長崎本線へと入る。10分もしないうちに喜々津に到着。長崎本線は、ここで長大な長崎トンネル経由でショートカットする新線と大村湾沿いに走る旧線の二手に分かれる。先を急ぐ旅ではないので、「或る列車」はカーブが多いけれど風光明媚な旧線をのんびり進む。山あいの斜面にはみかん畑が広がる。長崎みかんは皮が薄く、甘味が強いとのことだ。

    大村湾に沿って走る或る列車(喜々津駅近くの入江にて撮影)

    大村湾に沿って走る或る列車(喜々津駅近くの入江にて撮影)

     スイーツの第2弾、セントバレンタインと命名されたチョコレートのバリエーション、続いて誓いと命名されたイチゴと佐賀県産フロマージュプランのコンビネーションが第3弾として運ばれてきた。いずれも盛付けがきれいで、インスタ映えする美しさである。食べてしまうのがもったいないほどだ。

    セントバレンタイン

    セントバレンタイン

    誓い(イチゴと佐賀県フロマージュブランのコンビネーション)

    誓い(イチゴと佐賀県フロマージュブランのコンビネーション)

     食べている間に、アテンダントさんが或る列車特製グッズの販売にやってきた。商売熱心である。洒落たものが多く、お値段もそれなりのものばかりだ。乗車記念に、列車のロゴマークにスワロフスキーをあしらったキーホルダーを購入した。

     スイーツ最後の第4弾は「ロマンス」という名の3点セット。熊本産のまるごと金柑、佐賀県産ゴーダチーズのケーキ、鹿児島県産ピーナッツのパリブレストと並んでいる。どれから食べようかなと思っていたら、左から順番に食べてくださいとの説明があった。

    ロマンス

    ロマンス

     すべて食べ終わる頃に、列車は浦上駅を通過して長崎市内を走っていた。紅茶を飲みながら余韻に浸る時間もないまま、終点の長崎駅1番ホームに滑り込んでいった。個室は狭く荷物を置くスペースがなかったので、アテンダントさんにコートと一緒に預けておいたのだが、それを受け取るのにやや時間がかかった。列車というよりは、動くホテルといったおもてなしの方法は、慣れないと戸惑うけれど、豪華列車ななつ星in九州に準じたクルーズトレイン風のやりかたなのであろう。すべてが慌ただしさとは正反対の優雅な時間の流れ方だった。ホームに降りると、佐世保駅のホームで見送ってくれた人数の倍以上のJR九州の関係者が横断幕を持ち、小旗を振って出迎えてくれた。

    長崎駅ホームの歓迎

    長崎駅ホームの歓迎

     佐世保と長崎を1時間50分ほどで結ぶ区間快速列車シーサイドライナーよりは30分程余計にかかる2時間20分程の旅だったが、心地よい車内で美味しいものを食べているとあっと言う間の時間だった。乗車券と食事込みの料金は、最低でも一人2万5000円と安くはないけれど、何かの記念や御褒美に、あるいはひと味違う鉄道旅行としておススメしたい列車である。

     「或る列車」公式サイト
    http://www.jrkyushu-aruressha.jp/

     取材協力=JR九州

    長崎(長崎県)
    住所
    長崎県長崎市尾上町
    電話番号
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野田 隆 NODA Takashi
ライターのプロフィール画像
NAVITIME TRAVEL EDITOR
「乗り鉄」を中心に鉄道の面白さ、楽しさを、SL列車、観光列車やローカル線から\通勤電車、地下鉄に至るまで幅広く紹介する旅行作家。\著書は、2018年8月に21冊目となる「シニア鉄道旅のすすめ」(平凡社新書)が上梓された。\日本旅行作家協会理事

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