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大井川上流の秘境を行くミニ列車の旅

SL列車で有名な大井川鐵道。その本線の終点である千頭駅からさらに奥地へ延びる路線がある。大井川鐵道井川線、愛称は「南アルプスあぷとライン」と言い、大井川上流の渓谷に沿ってミニ列車がのんびり走っている。秘境ともいえる人家のほとんど見当たらない山間部を縫って走るこの路線は、水力発電所建設の資材運搬用トロッコを走らせるために造られたもので、のちに旅客列車を走らせるようになった経緯がある。山あいを縫うように急カーブが連続し、トンネル断面も小さい。そのため小型の車両を使っていて、車体の幅も狭く、天井も低い。ほかの鉄道はひと味異なるユニークな鉄道なので、一度、乗車体験するのも楽しいであろう。

大井川上流の秘境を行くミニ列車の旅

目次

  • 井川線を走る列車の特色

  • 窓を大きく開けられる開放的な車両

  • 国内唯一のアプト式鉄道

  • 観光名所奥大井湖上駅、接阻峡温泉駅、そして究極の秘境駅

  • とりあえずの終点閑蔵駅も秘境駅

  • 井川線を走る列車の特色

     起点の千頭駅で、金谷や新金谷からの汽車や電車を降りると、先頭に向かってホームを歩き、左手に進んで井川線のホームに向かう。ミニ列車にはトイレがなく、終点までは1時間ほどかかるので、トイレを済ませておいた方が賢明であろう。
     ミニ列車は赤い客車数両にディーゼル機関車が連結されている。機関車は千頭寄りにつながっているので井川方面へ向かう時は最後尾になり、列車を押していく。千頭へ戻る時はディーゼル機関車が先頭に立ち列車を牽引する形で走る。ドアから客車内に入ると、かなりの段差があるので、躓かないように気をつけよう。一昔前のバスや路面電車のような出入口でバリアフリーではない。天井が低く幅の狭い車内は通路をはさんで一人掛けと二人掛けの座席が向かい合うように並んでいる。

    ミニサイズの車内

    ミニサイズの車内

    客車の端は4人ほどが横に並んで座れるシートで、バスの最後部のような席だ。つまり、連結部の通路がないので、隣の車両には車内から移動できない仕組みとなっている。車両を移動するときには、面倒でも一旦列車から降りなければならない。車内で待ち合わせをするときには、このことを知らないとすぐには落ちあえないことになる。
     2018年末現在、井川線の末端区間である閑蔵~井川間は、2018年5月の大雨で発生した土砂崩れのため不通になっている。当面、列車は閑蔵で折り返すので注意したい。また、列車本数が1日5往復と少ないので、あらかじめ列車ダイヤをじっくり調べて乗車し、途中下車をするなら、その後の列車ダイヤを検討してからにしたほうが賢明であろう。

  • 窓を大きく開けられる開放的な車両

     定時に千頭を発車。駅付近の市街地を抜け、大井川を右に見ながら進み、車両基地のある川根両国駅を出ると、いよいよ大井川上流の渓谷に沿って走る。急カーブが多く、列車は車輪を軋ませながらゆっくりと進む。窓を大きく開けることができるので、冬場を除くと爽やかな空気に触れることが出来て気持ちがよい。絶景が続くので、写真を撮りたくなるけれど、あまり身を乗り出すのは危険である。電柱やトンネルの側壁に触れなくても、木の枝に触ったりして思わぬ怪我をすることもあるので充分気をつけたい。沿線の見どころを的確に案内してくれる車内放送が流れるので、注意深く聴いておこう。

     土本駅は秘境駅のひとつと言われるけれど、意外にも駅周辺に民家があり、ちょっとがっかりだ。むしろ次の川根小山駅の方が何もなくて秘境感が横溢している。この駅で千頭行きの列車とすれ違う。井川線の雰囲気を少しだけ味わって帰路に着くなら、ここで上り列車に乗り換えるとよい。ただし、列車の死角に入り上り列車の車掌さんに見えないようなので、降りたら車掌さんにその旨を伝えないと、どちらの列車からも取り残されることがあるので要注意だ。車掌さんは駅に到着する毎に、ホームで周囲を見渡して安全確認をして列車を発車させる。ドアの開閉は手動なので、その点にも注意を払っている。何もかもがアナログ方式なのは意外に新鮮である。

  • 国内唯一のアプト式鉄道

     次の奥泉駅は、寸又峡温泉への乗換駅。美女づくりの湯で知られる秘湯へはバスで30分程だ。時間があれば、1泊したい。散策コースもあり、「夢の吊り橋」が有名だ。
     寸又峡温泉で過したあと次の観光スポットに向かうツアー客がここで大挙乗りこんできて、小さな列車はぎっしり満員となった。沿線は過疎地だが、井川線は観光列車として大繁盛のようだ。
    トンネルを抜けると、アプトいちしろ駅。ここから次の長島ダム駅までの一駅間は、90パーミル(1000m進む間に90m上る)という日本の鉄道で一番勾配がきつい区間で通常の車両では坂を登ることができない。そこで、2本のレールの間に歯形のレールを敷き(ラックレールという)、それを機関車の下に取り付けた歯車で噛み合わせて滑らないように上り降りする仕組みとしている。スイスやオーストリアに多い歯車式鉄道の一種でアプト式というものだ。

    アプトいちしろ駅で小休止

    アプトいちしろ駅で小休止

    井川線は、もともと架線の張られていない非電化区間でディーゼル列車が運行されてきたのだが、長島ダムが完成して一部の区間が水没することになり、ルート変更を迫られた。それで、1990年に急勾配の新しい区間に切り替えることになったのだが、あまりの急勾配のため、この区間だけ電化して、アプト式電気機関車2両で後押しすることにしたのである。かつて碓氷峠を走っていた信越本線の横川~軽井沢のアプト式区間が1963年に廃止されて以来のアプト式復活で日本唯一のもの。珍しさもあり、立派な観光資源となっている。
     機関車を連結する作業のため列車は4分停車。連結作業を見学するもよし、ホーム脇にトイレがあるので用を足すもよし、観光シーズンには売店もでき、一息つくためにホームに降りる人で一時の賑わいを見せる。もっとも、ここで途中下車しても周囲には何もないので、停車中の下車に留めておいた方が無難だ。
     専用の電気機関車2両とディーゼル機関車の全部で3両の機関車に押されながら列車は急勾配を上っていく。巨大な長島ダムを眺めているうちに長島ダム駅に到着。ここで電気機関車は切り離され、元のようにディーゼル機関車に押されて出発する。

    アプト式電機関車登場、手前の線路のラックレールにも注目

    アプト式電機関車登場、手前の線路のラックレールにも注目

    アプト式電気機関車を連結した列車_帰路は機関車が先頭になる

    アプト式電気機関車を連結した列車_帰路は機関車が先頭になる

  • 観光名所奥大井湖上駅、接阻峡温泉駅、そして究極の秘境駅

     トンネルを抜けると、右手にはダムでせきとめられてできた接阻湖が見える。ひらんだ駅を過ぎ、湖と化した大井川を渡ると奥大井湖上駅に到着だ。駅の両側は鉄橋でレインボーブリッジという。東京の真似かと思ったら、こちらの方が古いそうである。奥大井湖上駅ではツアー客が全員降りていった。展望台や幸せを呼ぶ鐘Happy Happy Bellがあり、ホームは大いに賑わっていた。湖上の展望を楽しんだ後、接阻峡温泉まで歩くか、途中で迎えのバスに乗って周遊するのである。

    奥大井湖上駅からの眺め

    奥大井湖上駅からの眺め

    奥大井湖上駅の賑わい

    奥大井湖上駅の賑わい

     かなり空席が目立つようになった列車は、次の接阻峡温泉駅でもかなりの人が下車し、すっかり寂しくなった。周囲は山間部の秘境的雰囲気が濃厚で、次の尾盛駅は、秘境駅ランキングの2位にランクインする究極の秘境駅だ。かつてはダム建設関係者の集落があったが、廃屋と化し利用者は皆無である。
    7~8年前にクマが出没したという情報もあるので、知っておいたほうがよいかもし
    れない。車内からでも、すさまじい秘境ぶりが伝わってくる。

    究極の秘境駅尾盛

    究極の秘境駅尾盛

     誰も降りなくても車掌さんはホームに降り、安全確認をして列車を発車させる。この先では渓谷から71mの高さという目もくらむような関の沢鉄橋を恐る恐る渡る。誰もがこわごわ窓を開けて谷底に見入っている。中々にスリリングだ。

    関の沢橋梁からの眺め

    関の沢橋梁からの眺め

  • とりあえずの終点閑蔵駅も秘境駅

     千頭を出ておよそ1時間半。当面の終点である閑蔵駅に到着である。ホームの脇は鬱蒼とした木立という、ここもまた秘境駅と言われても納得の駅だ。小さな鉄道関係者の詰所、トイレ以外は何もない。数十メートル歩くとバス停に出て、その前には一軒だけ食堂があった。ただし、11月以外は週末のみ営業で、冬はお休みとのこと。列車から降り立った人の多くはバスで千頭へ戻って行った。バスなら千頭まで30分。道路状況は画期的によくなったのである。食堂でおでんを食べて温まり、40分程待って折返し千頭行きの列車に乗り込んだ。次の列車が到着し、慌ただしく折り返す観光客をかなり乗せ、再び1時間半かけて千頭へ戻った。しかし、見どころが多いので飽きることがなく、あっという間の楽しい列車の旅だった。

    閑蔵駅

    閑蔵駅

     金谷から大井川本線、千頭から閑蔵まで往復するなら、大井川周遊きっぷ(2日間有効で4400円が便利だ。帰路は閑蔵から千頭までバスにも乗れるし、寸又峡温泉へのバスにも使える。単純に金谷~千頭~閑蔵を往復すると5760円なので、それだけでもかなりオトクだ。なお、新金谷~千頭間でSL列車に乗る場合は、別途SL急行料金800円(片道)が必要となる。

    大井川鐵道井川線の公式サイト
    http://oigawa-railway.co.jp/abt

    千頭
    住所
    静岡県榛原郡川根本町千頭
    電話番号
    閑蔵
    住所
    静岡県静岡市葵区
    電話番号
    南アルプスあぷとライン
    住所
    静岡県榛原郡川根本町千頭1219-1
    電話番号
    0547592137
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野田 隆 NODA Takashi
ライターのプロフィール画像
NAVITIME TRAVEL EDITOR
「乗り鉄」を中心に鉄道の面白さ、楽しさを、SL列車、観光列車やローカル線から\通勤電車、地下鉄に至るまで幅広く紹介する旅行作家。\著書は、2018年8月に21冊目となる「シニア鉄道旅のすすめ」(平凡社新書)が上梓された。\日本旅行作家協会理事

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