戦艦大和の生まれ故郷、旧軍港市呉を巡る--大和・海自カレーも忠実再現


2018.04.30

マイナビニュース

●アニメ映画「この世界の片隅に」の聖地巡礼も
今回の旅先は、広島県の呉市だ。呉は横須賀、佐世保、舞鶴と並んで旧海軍の鎮守府が置かれた旧軍港市であり、現在も、海上自衛隊の呉地方総監部が置かれている。呉には旧軍港市ならではの様々な見所があるほか、2016年に公開され、日本アカデミー賞 最優秀アニメーション作品賞を受賞し、この夏のテレビドラマ化も決まっている「この世界の片隅に」など、様々な映画の舞台にもなっていることから、映画の聖地めぐりを楽しむ人も多い。
○あの戦艦「大和」も呉で造られた
広島駅から呉駅までは、JR呉線を走る快速「安芸路ライナー」に乗れば30分ちょっとだ。呉の観光地を巡るなら、徒歩のほかバスを上手に利用するのがオススメだが、これまで土休日に運行されていた呉探訪ループバス「くれたん」は、3月31日で運行終了。かわりに4月1日よりバスの一日乗車券「1Day呉パス」の発売が開始され、指定エリアの路線バスが一日乗り放題になる。
呉駅の北口(山側)に出て、まずは駅前から市街地をブラブラ散歩してみよう。呉の市街地は「蔵本通り」「本通り」といった大通りが縦に走り、それに横方向の大通りがクロスする京都や札幌に似た碁盤の目のような街になっている。これは明治時代に旧海軍が呉に鎮守府を設置した際の街づくり計画によるものだという。
海軍が来る以前の呉は小さな農漁村にすぎなかったが、その後、武器や艦艇等を造る呉海軍工廠(こうしょう)なども設置され、あの戦艦「大和」も造られた。そこで働く人たちも含め、太平洋戦争中の昭和18(1943)年に最盛期を迎え、人口40万人を超える大都市になった。
ちなみに、呉の街を歩いていて北東方向に常に見える山が、呉市のシンボルともいえる灰ヶ峰(標高737m)だ。頂上には気象観測レーダーがあり、夜景の名所としても知られている。この灰ヶ峰を水源として、呉の中心市街地を南北に貫くように流れているのが二河(にこう)川と堺川だ。
この内の堺川に架かる橋のひとつに、昭和7(1932)年に架けられ、空襲にも焼けることなく残った堺橋があり、昔は、この橋の上を呉市電が走っていた。アニメ「この世界の片隅に」の中にも、橋の上を市電が通過していくシーンがある。
呉市は海軍のおかげで、水道・電気・病院・鉄道などのインフラがよその街に比べて早く整備された。鉄道に関しては、明治36(1903)年には広島~呉間に呉線が開通したのに続き、明治42(1909)年に呉市電(当時は呉電気鉄道)が開通したが、これは大正元(1912)年開業の広島電気軌道(現・広島電鉄)開業よりも早かった。
なお、呉市電の敷石は、後で訪問する入船山記念館の園内通路の敷石として再利用されているので、鉄道ファンならば要チェックだ。
○10分の1戦艦「大和」はまさに本物
さて、堺川沿いの蔵本通りを南に進み、呉港を目指して歩いていこう。呉港周辺には、「大和ミュージアム(呉市海事歴史科学館)」、「てつのくじら館(海上自衛隊呉史料館)」、「艦船めぐり」の遊覧船という3つの大きな観光スポットがあるので、ここでは十分に時間を確保したい。
大和ミュージアムは、10分の1サイズで忠実に再現した戦艦「大和」を中心に、零式艦上戦闘機(ゼロ戦)六二型や人間魚雷「回天」等の実物資料を展示するほか、呉の歴史や造船技術等を映像やパネルなどを使って展示する博物館だ。2005年4月のオープン後、2017年6月に来館者数1,200万人を突破した。年間およそ100万人が来館しており、全国に4,000以上ある博物館の中で、上位にランクインするという。
館のシンボルである10分の1大和は、自衛隊の艦艇の修理を得意とする地元呉市の山本造船に発注し、細部まで再現されている。制作費は2億1,000万円かかったが、「ここまでお金をかけたからこそ、全国や海外から何度も見に来てくれるのではないか」と館内ガイドをしてくださった男性は言う。
実は、戦艦「大和」の3万枚以上の設計図は最高機密資料であり、終戦時に旧海軍がその大部分を焼却してしまったため、艦の正確な姿を知る手掛かりは当時の写真などに限られ、再現するのはとても大変だったという。
戦艦「大和」は呉海軍工廠で造られ、昭和15(1940)年8月に進水。レイテ沖海戦等に参戦した後、昭和20(1945)年4月7日、沖縄へ向かう途上、米軍機の攻撃により沈没し、現在も海底に眠っている。戦後、数度の潜水調査が行われるなどし、徐々にその姿が明らかになってきている。10分の1大和は完成後も新発見と共に手が加えられ、今後も新たな発見があれば、さらに進化していくのだ。
大和ミュージアムについて、館長で海軍史研究家の戸高一成氏は、「戦艦『大和』に関する現存する文書資料の90%以上は当館が所蔵していると思う。今後は、大和に関する実物資料を収集していきたい」と話す。
○呉海自カレーを平らげよう
大和ミュージアムと通りを挟んで反対側にあるのが、建物前面に据え付けられた本物の潜水艦「あきしお」がシンボルになっている「てつのくじら館」だ。同館は、「海上自衛隊鹿屋(かのや)航空基地史料館」、「佐世保史料館(セイルタワー)」と並ぶ、全国に3カ所ある海上自衛隊の史料館のうちのひとつで、1階では海上自衛隊の歴史をパネル展示し、2階が掃海艇のフロア、3階が潜水艦のフロアになっている。
同館で最もワクワクするのは、潜水艦あきしおの艦内体験ができることだろう。3階の通路から潜水艦内部に進むと、中は驚くほど狭い。定員75人というが、よく長期間にわたって大勢の人間がこの狭い空間の中で、場合によっては危険な任務を遂行しつつ生活できるものだと思う。
さて、てつのくじら館を後にし、「艦船めぐり」の遊覧船に乗船するために、呉中央桟橋1階ターミナルへ向かおう。海上自衛隊呉基地や旧海軍の戦艦「大和」建造ドック跡地などを巡る、およそ30分の船旅が楽しめる。海上自衛隊の艦艇のみならず、建造中の巨大タンカーなども間近で見ることができ、迫力満点だ。
船旅が終わったならばランチタイムにしよう。今回食べたのは、2015年にスタートした新しい呉の名物グルメ「呉海自カレー」(以下、海自カレー)だ。海自カレーは、現在の呉基地に所属する海上自衛隊の各艦艇や呉教育隊などの陸上部隊で実際に食べられているカレーを忠実に再現している。それぞれの部隊のカレーのレシピに基づき、海上自衛隊の調理員が呉市内の飲食店に直接作り方を伝授し、現在、市内の29店舗で提供されている。
A店では「護衛艦うみぎり」のカレー、B店では「潜水艦うんりゅう」のカレーというように、店ごとに違うカレーを提供している。また、カレーを食べるともらえる「部隊オリジナルのロゴデザインシール」を集めると、景品と交換できる「シールラリー」も行われているので、食べ歩くのも楽しい。
おなかも満たされたところで、午後の散策を始めよう。
●戦艦大和の製造ドックも! 歴史めぐりは海風に吹かれながら
○鎮守府司令長官官舎を見学
大和ミュージアムから堺川を渡り、海上自衛隊の敷地の間の道を歩いていくと、入船山公園に突き当たる。この公園の北東側にある「入船山記念館」を、まずは目指して歩いていこう。
入船山記念館に向かう途中にある外壁を赤く塗られた建物は、「この世界の片隅に」を観た人なら、見覚えがあるかもしれない。旧海軍時代の下士官兵集会所で、現在は海上自衛隊呉集会所として使われている建物だ。昔は外壁にスクラッチタイルが張られたモダンなつくりだったといい、アニメでもそのように描かれている。
入船山記念館は、旧呉鎮守府司令長官官舎が見学の中心となる。この建物は初代の長官官舎が明治38(1905)年の芸予地震で倒壊したため、同年、再建されたもので、表の洋館部分と長官の家族が生活する和館部分が合わさっているのが興味深い。洋館の内壁に貼られている全国的にも珍しい豪華な「金唐紙」が、ひとつの見どころになっている。
また記念館敷地内には、明治23(1890)年5月から1年8カ月の間、呉鎮守府参謀長として在任していた当時の東郷平八郎が住んでいた屋敷の離れも移築されており、中に入って休憩することもできる。
入船山記念館の見学を終えたら、「眼鏡橋」バス停からバスに乗り、「子規句碑前」バス停で下車しよう。バス停のすぐ近くにある「歴史の見える丘」からは、呉港を一望することができ、いくつかの造船ドックが見える。中でも異彩を放っているのは茶色い大屋根だが、あれこそが戦艦「大和」を建造したドックの屋根なのだ。大和の建造は秘密裏に進められたため、周囲からの目隠しのために取り付けられた屋根が、そのまま今も残されているという。
再びバスに乗り、「潜水隊前」バス停で降車し、本日最後の目的地「アレイからすこじま」を目指そう。散策路として整備されているこの場所からは、すぐ近くに潜水艦を見ることができる。潜水艦がこれだけの至近距離でみられる場所は、国内外を探してもまずないのではないか。日本はやはり平和なのだ。
夕暮れ時、今回の旅を締めくくる素敵なセレモニーが待ち受けていた。朝夕に、艦船上での国旗や自衛艦旗の掲揚と降納に合わせて響き渡る、ラッパの音を聞くことができたのだ。旅をしていると、その土地ならではの音を耳にすることがある。このラッパの音をSNSにアップしたところ、呉の出身者という方から「懐かしいです」とのコメントをいただいた。このラッパの音色は、私にとっても、呉という土地の思い出の音になりそうだ。
○海上自衛隊の艦艇なども見学可能
以上で紹介したほか、呉の大きな見どころとして、事前申請が必要で、原則日曜日のみの公開となるが、海上自衛隊の施設等を見学することもできる。
具体的には、明治40(1907)年に竣工した、レンガ造りの「呉地方総監部 第一庁舎」(旧呉鎮守府庁舎)、呉地方総監部敷地内に残されている「旧日本海軍地下作戦室」、および、週替わりで一隻ずつ、現役で任務に当たっている艦艇に乗艦し間近で見学できる「艦艇の公開」も行われている。これらの施設等の一般公開に関する情報は、海上自衛隊 呉地方隊のホームページを確認してほしい。
呉市は2016年4月に、横須賀、舞鶴、佐世保とともに「海軍とともに歩んだまち」「日本近代化の躍動を体感できるまち」として、文化庁から日本遺産の認定を受けた。これを記念しての「日本遺産WEEK」(2018年も秋頃実施予定)期間中は、普段は非公開の施設の特別公開やイベント等も実施される予定だ。呉を知る絶好の機会になるだろう。
○筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)
慶應義塾大学卒。IT企業に勤務し、政府系システムの開発等に携わった後、コラムニストに転身し、メディアへ旅行・観光、地域経済の動向などに関する記事を寄稿している。現在、大磯町観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員、温泉ソムリエ、オールアバウト公式国内旅行ガイド。2017年秋には、NHK『ごごナマ』に「紅葉」のゲスト講師として出演。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。 

read-more
大和ミュージアム
place
広島県呉市宝町5-20
phone
0823253017
opening-hour
9:00-18:00(最終入館17:30)
すべて表示arrow
海上自衛隊呉史料館(てつのくじら館)
rating

4.5

560件の口コミ
place
広島県呉市宝町5-32
phone
0823216111
opening-hour
10:00-18:00(入館は17:30まで)
すべて表示arrow
呉艦船めぐり
rating

4.5

44件の口コミ
place
広島県呉市宝町4-44 呉中央桟橋ターミナル1F
phone
0822514354
opening-hour
[1便]10:00[2便]11:00[3便]12:…
すべて表示arrow
place
広島県呉市宝町
すべて表示arrow

この記事を含むまとめ記事はこちら