誰でも本屋になれる。吉祥寺にある本好きたちのオアシス(前編)


2020.02.07

Harumari TOKYO

誰でも本屋になれる、ブックマンションどこかレトロで落ち着ける街並みが人気の、吉祥寺。駅を出てすぐの商店街を5分ほど歩くと見えてくる「吉祥寺×4ビル(バツヨンビル)」。このビルの地下一階にあるのが、ブックマンションだ。中に入ると……、壁一面に並ぶ本がが目に入る。普通の本屋であれば当たり前の光景かもしれないが、実はこの31cm四方の棚はそれぞれ、違うオーナーが管理している。いわば棚の一つ一つが小さな本屋さんなのだ。本棚はひと枠3850円(月額)で借りることができる。本棚に置く本は自由で、新しい本を仕入れても、同じ本を何冊置いても、自分が読み古した本でも、自作の本を販売しても良い。価格も自由に設定できる。31cm四方にきっちり区分けされているので、見た目もとても整っている。このユニークなコンセプトが口コミで広がり、現在84人ものオーナーが棚をシェアしている。個性あふれる本屋さんの数々棚にはどんな本が置かれているのだろうか?その一部をご紹介しよう。
まずはとても雰囲気あるこちらの棚から。木材などで飾り付けた棚のオーナーは美大出身。販売する本も自作のものだ。本棚ごとその世界観が楽しめる。こちらは、大学のゼミで管理している棚。ゼミの生徒がそれぞれオススメの本の帯を作っている。帯はなんと切り絵になっている。そして少し変わっているのが、本に書き込みができる棚「読跡文庫」。本を開くと、誰かがコメントを残していた。赤い色が目立つこちらは、栃木県出身の広島カープファンが作った棚。栃木にはカープファンが少ないため、本棚を通じてカープに興味のある人と繋がりたいという思いがあるのだそう。こうして眺めているだけでも、他人の頭の中を覗き込んでいるようなワクワク感がある。「本屋の夢を叶えられた」では、実際に本棚を借りているオーナーの人はどんな気持ちで利用しているのだろう?取材の日、店に訪れていた2人に話を聞いた。1人目は、もともと本屋の夢があったというフリー編集者の宮本さん。「本屋をいつかできたらいいなってぼんやりと思っていた。(ブックマンションは)本当気軽じゃないですか、数千円でひと棚で。これ全部の棚を本屋として運営すると難しいけれど、限られた空間だから、だったら参加できるかなって」前職でビジネス系の出版社に勤めていた宮本さんの本棚は、仕事で手がけた本のほか、インタビュー取材の参考にした本、言葉使いの参考にしているという本が揃っている。よくよく見ると…、何やら付箋を貼った本が…。「取材前に本を読むのですが、読んでいて面白いと思ったところに付箋をつける。インタビューのポイントになるところなんですけど、それをあえてそのまま残して紹介したらなんか普通の新刊の本屋とは違った紹介ができるかなと思って」なんとこの本、付箋を貼ったところを読めば、その本のキモともいえる場所がチェックできてしまう。普通の本屋や古本屋ではできない売り方ができるのもブックマンションの面白さだ。自由で楽しいけれど、やっぱり気になるのが、本の売れ行き。実際売れているのか? 聞いてみると……「売れます、売れる気がします。自分が店番に入っている日はおすすめしますし。」と、宮本さん。売れゆきは上々のようだ。自分の好きな本だけで構成するのも良いが、売れる本を考えて棚を作るのも、オーナーの醍醐味。加えてオーナーは月に1度、店番に入ることができるので本屋の気分も味わえる。自分がセレクトし、工夫を凝らした本が目の前で売れた時の喜びは、きっと大きいに違いない。「純粋に本を楽しめる場所」2人目は児玉さん。児玉さんもフリーで編集兼ライターをしており、前職はビジネス系の出版社に勤めていた。本棚はテーマを決めて、月に一度入れ替えるという。児玉さんは、先ほど紹介した宮本さんの知り合い。話を聞いて楽しそうだったから、というのが棚のオーナーになった最初の理由だが、始めたことで生活にも良い影響が出てきたそう。「自分の本棚が循環し始めた。自分の本棚の本は捨てるに捨てられない、でもブックオフに持っていくのは嫌で。好きな本だし。誰かに譲るならいい、(ブックマンションは)そんな場所って感じがします。」児玉さんは、ブックマンションの本屋としての魅力も語ってくれた。「純粋に読む楽しさに戻れた。学生のときみたいな。(本を)仕事にしてから仕事のためみたいな買い方をすることが多かったけれど、他の人の棚を見ているとこれ面白そうだなとか、自分の好奇心で本を読む楽しさが取り戻せた」普通の本屋であれば、出版社や書店側の思惑が透けてみえてしまったり、あるいは押し付けのように感じてしまったりすることもある。しかし、ただ本が好きという思いで選ばれた本が並ぶブックマンションは純粋に本が楽しめる場所なのだ。本好きとの繋がりが生まれるそして2人は、オーナー同士の繋がりも楽しんでいた。「ご近所さんですね、と棚のお隣さんと会話が弾むのが楽しい」(児玉さん)「私は37号室(棚番号)の宮本ですって紹介します。最初から棚を見れば関心ごとがわかるのでそこからのスタートになって、初めましてじゃない感じ。何号室なんですって言えば、こういう感じなんですねっていう。」(宮本さん)さらに児玉さんは、こんな使い方も。「カフェで会うとなると、会うことが目的になるけれど、ここだと遊びにきてって感じで誘える」
例えば、久しぶりすぎて食事に行くのはちょっと緊張してしまうな…というような感じの知り合いでも、ブックマンションに呼ぶと気軽に来てくれることが多く、本のおかげで会話が弾むこともあるのだという。まるで、第二の家のような感覚だ。本棚オーナーの宮本さん、児玉さん気軽に本屋を始められるだけでなく、純粋に興味のある本を手に取る楽しさ、そして人との繋がりをも楽しめるブックマンションは、本好きにとってまさにオアシスのような場所。足を踏み入れれば、温かな雰囲気にもホッとできるはず。ぜひ一度、訪れてみてほしい。 (後編に続く) 撮影:山本恭平 

吉祥寺
place
東京都武蔵野市吉祥寺南町2丁目

この記事を含むまとめ記事はこちら