酒造所へショートトリップ。お酒の新しい“体験”をしよう


2019.08.29

Harumari TOKYO

水や麦を原料とする酒づくりは、土地の風土が大きく影響するもの。酒造所に行けば、その土地の歴史や文化をより深く知ることができるに違いない。そこで、都内から日帰りで行ける、湘南の熊澤酒造へ。この小旅行を一緒に体験したのは、お酒好きが高じてついにコーヒービールの製造をスタートしたという「ONIBUS COFFEE」のオーナーバリスタの坂尾篤史さんだ。都内を中心に4店舗のカフェを経営している坂尾さんは、常に美味しいコーヒーを求め、日本はもちろん国を飛び越えてコーヒーの歴史や製造工程を勉強中。なかでもコーヒー豆の製造方法と似ている日本酒の醸造所はよく行くのだとか。深い歴史を持つ熊澤酒造には昔から興味があったそう。*ONIBUS COFFEE(オニバスコーヒー)の関連記事
「カフェが人を繋ぐ。果実味あふれるコーヒーが生んだ、中目黒のコミュニティ」前編では熊澤酒造の見学レポートを、続く後編では6代目蔵元の熊澤茂吉さんと、坂尾篤史さんの対談をお届けする。酒蔵なのにパン屋とカフェ、ギャラリーを併設。見どころ満載な熊澤酒造今回訪れた熊澤酒造は、明治5年創業、約150年の歴史を持つ湘南最後の蔵元である。「よっぱらいは日本を豊かにする」を社是とし、広大な敷地内に日本酒とビールの製造所、酒に合う料理が楽しめるレストラン「天青」と「MOKICHI TRATTORIA」、カフェ「mokichi wurst cafe」、パン屋「mokichi baker&sweets」、ギャラリー「okebe gallery&shop」を併設。見たり、食べたり、買ったりと、熊澤酒造の酒の魅力を多方面から楽しめる仕掛けが満載されている。一度の訪問で、さまざまなものに出会える実にエンターテイメント性の高い蔵元なのだ。「通常の酒蔵見学は、レストランをご利用のお客さまのみご案内しています。内容はお客さまのご希望に合わせていて、たとえばお酒を学びたいという方であればより細かい部分までご説明しているんです。今日は醸造過程にも興味があるという坂尾さんのために、特別に一般公開していない場所も案内しますね」。とは、今回案内役をつとめてくれた6代目蔵元の熊澤茂吉さん。それでは早速、熊澤酒造を紹介していただこう。まずは、敷地内に入ってすぐの建物内にあるビールの醸造所を案内してもらった。「ここでは、IPAや地元で採れた柑橘類・ハーブを仕込んだビールなど、50〜60種類の『湘南ビール』をつくっています。今は山椒を使ったビールを醸造中です」。その数に、思わず坂尾さんも驚き。「シーズンによって使っている材料が違うということは、期間限定のビールもあるんですね。熊澤酒造さんといえば、すっきりとした味わいの湘南ビールのイメージでしたが、他のビールと飲み比べてみるのも楽しそう」。築250年の古民家をリノベーションした「mokichi wurst cafe」。焼きたてのパンを使った軽食や、オリジナルコーヒー「モキチブレンド」を楽しめる。左から、季節の限定パン「桃と紅茶のデニッシュ」、人気メニューの「レザンノア」、湘南ビールを使った「湘南ビアチョリソー」。お供は、湘南ビールで決まり。敷地内にある飲食店では、醸造の過程でロス分として出たビール酵母で作ったパンやピザ、パスタを食べることができる。出来立てを食べられるのは、醸造所ならではの楽しみだ。次は、日本酒の醸造所へ。酒米を蒸す機械や貯蔵庫がずらりと並んでいる。大正時代の酒蔵を改装したレストラン「天青」では、ガラス越しに日本酒の醸造所が見られる個室も完備しており、醸造がスタートする10月ごろに行けば、酒づくりを間近で見ることができるとか。「醸造所とレストランを直結にした構造には、また驚かされました。僕は昔、ゼネコンで働いていたので知識はあるものの、建物の構造自体をエンターテイメントとして捉えている熊澤酒造には本当に圧倒されるばかり。茂吉さんの柔軟な発想がステキだな」(坂尾さん)「つくった酒は、倉庫の奥にある防空壕に貯蔵しています。ここは一年を通して15〜25度を保っています。安定した温度で熟成させると、酒が穏やかな味わいになるんです。実はここ、僕が小さいころに秘密基地として遊んでいた思い出の場所。今では酒づくりに欠かせない場所ですから、感慨深いですね」(熊澤さん)酒造見学ができるのは、倉庫の入り口まで。防空壕のなかは、一般公開していない。現代ではあまり見ることができない防空壕。貯蔵庫として活用されている場所もとても珍しいのだとか。目をキラキラさせて防空壕を見学する坂尾さん。「こんなステキな場所があるなんて、つくづく羨ましいな〜。静かにゆっくり熟成されたお酒はどんな味がするんだろう……」。飲食店以外にも、湘南地域の作家さんの作品やヴィンテージ家具、古書を扱ったギャラリー「okebe gallery&shop」がある。地域を盛り上げたいという茂吉さんの思いから、酒樽や道具の修理製作を行う工房だった桶場と呼ばれた木造倉庫を改修したとか。熊澤酒造主催のイベント時には、作家さんが協力し合い、オリジナルグッズを製作。イベントをとおして、お客さまや作家同士のコミュニケーションも生み出している。「ガラス小物に、染物、陶器など種類豊富。茅ヶ崎には多くの作家さんがいるんですね。このCOFFEE Tシャツは気になるな〜」と、ウィンドーショッピング中の坂尾さん。中庭には、週5日で有機農家が持ち回りで出店する「mokichi green market」も。「農家さんが朝いちで採れた野菜を持ってきてくれます。朝からお客さんが群がるほど人気で、野菜をメインにしたフードビュッフェなどのイベントも大好評。地元で採れた有機野菜のおいしさを伝えられる貴重な場所にもなっています」と、茂吉さん。新鮮な野菜のなかから、坂尾さんが選んだのはビーツ。「ビーツは東京では意外と売っていない代物。色も鮮やかでおいしそうなビーツに熊澤酒造で出会えるなんて思ってもみなくてびっくり。でも農家さんの顔を見て野菜を買える仕組みは、安心もできて嬉しいですね」。坂尾さんは他にも、熊澤酒造の代表銘柄「天青」と、よどみのないクリアさが特徴の「湘南sparkling」を購入。ひとつの場所で、製造と販売、そしてコミュニケーションも生み出す見所満載な熊澤酒造。実際に、酒造所へ足を運ぶことで、酒のラベルを見るだけではわからない物語を知り、蔵元や地域の魅力を発見することができた。坂尾さんも「お客さまによろこんでもらいたいという茂吉さんの思いと、熊澤酒造の歴史の積み重ねが、今の形をつくっていたんですね。同じ飲食店として、とても憧れます」とひと言。熊澤酒造を満喫した後は、湘南ビールと自家製パンをテイクアウトし、ビーチでリラックスタイムを過ごすというのもいいだろう。都内から日帰りで行ける酒造所はいくつかあるので、週末に足を伸ばして、観光しつつ地酒を楽しんでみてはいかがだろうか。<プロフィール>
(右)坂尾篤史
1983年生まれ。千葉県出身。約1年間のオーストラリアでのバックパックにてカフェの魅力に取りつかれる。帰国後、バリスタ世界チャンピオンの店で経験を積み、2012年に独立。2016年1月には4店舗目となる「ONIBUS COFFEE」中目黒店をオープンした。(左)熊澤茂吉
1969年生まれ。神奈川県出身。早稲田大学教育学部に入学。卒業後、アメリカ留学を経て、祖父が経営していた熊澤酒造を継ぎ、日本酒の新ブランド「天青」や地ビール「湘南ビール」などを開発。 

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熊澤酒造(株)
place
神奈川県茅ヶ崎市香川7-10-7
phone
0467526118
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